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Episode1-10 召喚獣の召喚獣による召喚獣の為の大騒動

 冷たく張りつめた、真剣な空気の中。ふとお茶を飲み干した狐の召喚獣が声を上げた。

「――ところで。皆、禁忌の問題ばっかりに気ぃ取られてるけど、大体お前サンは何の召喚獣なんだ?」

「あぁッ」「そういえば」

 ハルはその事をすっかり忘れていたという風に――実際すっかり忘れていたので――、素っ頓狂な声を上げた。ユイはきょとんと首をかしげ、両手で頬杖をついた。ストレートの黒い長髪が、女性にしては筋肉質な方の上で躍る。

「あ、はい。言い忘れておりました。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。私――」

 少女は椅子と床がぶつかる音を立てながら、立ちあがった膝の裏で椅子を後ろへ移動させた。そのまま服の裾を軽く揺らしながら、百八十度回転する。少女の肩に乗っていた蒼い髪が、軽くウェーブしながら柔らかくこぼれた。すらりとした白い少女の手が、緩やかな動きで背中へ回る。そして、

「なっ……!」

 ハルが大きく目を(みは)り、顔を朱に染める。

 少女は、何の躊躇いもなく上の服の裾を(まく)りあげたのだ。

 目に眩しい純白の背中が覗き、綺麗なラインを描くくびれが目を引く。女性なら、思わず嫉妬してしまいそうなほど整った体型である。

 火影は椅子の上に行儀悪く膝を立て座り、ハルの反応に対して密かな笑い声をもらした。ユイは少女の大胆な行動に対して、僅かに眉をひそめる。瞬きの回数が異常に多くなっているハルは、視線をあちこちに巡らせ、しかし結局吸い寄せられるようにして、少女の白い肌へと向かわせた。

 その心には羞恥心という気持ちがないのではないだろうか、と思いたくなるような行動を突如としてとった少女の、中心にすらりと背骨が伸びる丸見えになった背中。そこに〝それ〟はあった。丁度腰の位置に当たる背に、三十センチ四方ほどの大きさをした漆黒の羽が生えていたのだ。漆黒、といっても、羽は黒一色ではない。深海のような青や神秘的な紫も混ざっている。

 羽をもつ少女は肩越しに二人と一匹を振り返り、ふわりと優雅に微笑んだ。

「――アゲハ蝶(スワロウテイル)の召喚獣です」

 柔らかな声音で、少女は言葉を噛み締めるように告げた。誰もが魅了されてしまうほど魅力的な少女の微笑を見つめながら、

「――アゲハ蝶って、召喚〝獣〟なのか?」

 火影は本当に小さな声で独り()ちた。その言葉は、誰の耳にも届いてはいなかった。

 少女の手が服の裾から離れる。薄いヴェールのような服が、少女の白い素肌を覆う。刹那、ハルの口から小さな安堵の息がもれた。少女は再び身体を百八十度回転させ、すとんと素早く腰を下ろした。

 顎の下に手をつけて少女を見つめているユイが、開きにくそうに口を開ける。

「小娘。召喚獣である証は、それだけだな?」

「はい。そうです」

 少女は小さく首を上下に動かす。少女の背中にある羽は服の下に隠れているため、外見で不自然に見える部分はない。目を細めじろじろと上から下まで少女の容貌を見たユイは、確信するように一度頷くと小さな声とともに椅子から立ちあがった。

「あたしの小さくなった服を貸そう。ついてこい。部屋へ行くぞ」

「えっ? あ、では……」

「街に行く許可をだそう。しかし、くれぐれも、正体がバレるような行動はするな」

 ユイはくれぐれもの部分を強調して言い、ユイの言葉に少女はぱっと顔に光の花を咲かせた。

「はいっ! ありがとうございますッ」

 少女は素早く頭を下げ、腰を九十度に前方へ折った。

「分かったら、さっさとついてこい」

「はいッ」

 ユイは小さく微笑むと、肩越しに少女を手招きした。明るく太陽のように笑う少女は、ユイのもとへと軽い足取りで近づいて行った。

「あ、火影。テーブルを片付けておいてくれ。ハルは、それを手伝え。絶対に! 部屋を覗くなよ。いいな」

「えっ、あ、はっ、はい……」

 ハルはユイの迫力に気圧(けお)されるようにして、身長が十センチ程度になるほど身を縮込ませた。少女はきょとんとした顔でハルを見つめ、火影は意地悪い目つきでハルを見ながら喉の奥でクツクツと笑いながら声を上げる。

「ま、もうすでにハルはこの()の真っ裸を見てて乳繰り合ったりしてるわけだし。別にどうってことないような気もするけどね」

「ばっ……! 火影ッ! それは勘違いだって、何回言えば分かるんだよッ!」

 ハルは一瞬にして耳まで真っ赤に染め上げ、火影は面白そうにニタニタと笑う。ユイは火影の冗談や軽口に関わっていられないという風に小さく息をつき、少女は先ほどから小鳥のように首をかしげたままだ。

「あの……」

 少女の可愛らしい声は、二人と一匹の視線を一斉に集めた。少女は首を傾げたまま、二人と一匹の視線を集めたまま、

「〝チチクリアッタリ〟って、何ですか?」

 純粋な光をたたえた瞳で、悪意や邪気の欠片など一切なく真剣に質問した。勿論、質問に返って来た答えは三様の〝沈黙〟のみだった。

 ハルは気まずそうに視線を天井へと反らし、ユイは顔をしかめて口をへの字に曲げ、火影は「どんだけこいつは世間知らずなんだよ」という風に眉根を寄せた。

「……えっ、と?」

 少女は何故皆が黙ってしまったのか本気で分からないらしく、純粋無垢な瞳を数回(しばたた)かせた。




少々下品な言葉を使ってしまって、ごめんなさいOrz

なかなか砂漠の薔薇の方の執筆が進まないことが最近の悩みです;

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