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2-3

「……気になるんだが、お前の爆発って相手が生者や冥界の住民だった場合直接爆破するのか?」

「いやそれは無理っぽい。足元が爆発とか、背後の壁が爆発とかそういう感じ」

「それなら大丈夫か」

「間接被害なら試練が必要な魂にならない判定?」


 コニッシュが若干安堵したように見えたのは、風の術を使ったことでくしゃみを発生させ、爆発を起こしてしまった共犯者だからだろう。彼自身もやらかした場合試練が必要になってしまうのか気になるところである。それに関して問いかけたが、コニッシュ自身もわからないようだった。


「冥界に火とか風とかの術があるなら現世にもありゃいいのになぁ」

「お前には爆発の能力があるじゃねぇか」

「制御も座標指定も出来ないのは違うっしょ……そうだ、そういう術の使い方って親とかから教えてもらってんの?」

「親……」


 一瞬親という言葉を聞いてコニッシュは言葉を止めた。もしかして失言したかもしれないと思ったが、僅かに考えた後ハッとしたようにこちらへと顔を向けた。


「オレ達……冥界の住民は生者みたいに親ってものを持たないんだ。術の使い方は所謂学校で冥界の先輩方に教わる」

「え、じゃあどういう感じで生まれたん?」

「冥界の住民は全員、『冥界樹』って呼ばれる樹で姿を得る。オレも、先輩もみんなだぞ」

「樹生まれ……果実か? 種族もばらばらで生むのか……すごいな」

「そうか? オレ達はずっとそれが普通だと思ってたんだが」


 どうやら一つの樹から同じ種類の果実しか実らないと思っているのはこちら側だけのようだ。やはり現世と冥界は色々と違いすぎて混乱してしまう。そもそも自在に動いて喋る生命体が樹から生まれるということ自体が現世にはないものではあるのだが。


「言うなら冥界樹が親か……? あ、でも母上……オレ達の親を自称してる冥界の住民はいるぞ」

「どういう事よ」

「冥界樹を守ってる奴がいるんだが……その先輩が『アタシの事はママって呼んでいいのよ!』って。オレと同時期に姿を得た奴らも後輩も全員そう言われたって。一応オレは母上って呼んでるが……」

「はえー……」


 コニッシュがきちんとその相手を母上と呼んでいるあたりにそれとない優しさを感じる。少し会ってみたい気持ちもあるが、流石に寄り道をするわけにもいかないか、と頭を振った。その母上さんはどんな感じなのかと問いかければ、とても大きな身体ですごく強い自称天使という、物凄い会ってみたくなるような情報しか得られなかった。冥界樹を守るために刃物を持たず、術を使わずとも強く在れるように鍛えつくしたのだとか。おそらく大樹であろう冥界樹を守る筋骨隆々の天使、という勝手なイメージが頭の中にチラついて離れない。


「ランの両親は……ランは両親に会いたいとか思わないのか?」

「え、どうした突然」


 確かに親についての質問を先に投げかけたのはこちらだが、人柄を問いかけられるかと思いきや会いたいかを問われて思わず表情を歪めて困惑した顔を向けてしまう。こちらの表情を見て質問に失敗したと思ったのかコニッシュは悪いと一度謝り、だが話を続けた。


「いや……その、若い死者は両親に会いたいって言う事が多いって先輩が言ってたし、さっき……帰るところがないって言ってたから、両親も既に死者なんじゃないかって思って」

「まぁ……それは大正解。自分の両親は数か月前に……」


 素直に交通事故で、と話そうとしたが、正直なところ暗い話だ。出会って一日足らずの相手に打ち明けていいものかも迷った上、流石に両親の死因で道中の話題が埋まるのもどうかと思ってしまった。そこで、適当な冗談を吹っかけてみることにした。


「オオアリクイに食われて……」


 数秒、二人の間に沈黙が走る。それとなく冗談として受け入れられると思ったが、よくよく考えてみると冥界にオオアリクイは存在しないのではないかという事に思考が及ばなかった。流石に通じない冗談は空気の切り替えには向かないだろうと、ごめん嘘で、と言おうとしたが。


「そうなのか……悪い、わかってたのに嫌な事聞いて」

「いやいやさっきのくしゃみ爆発は嘘だって言ったのにこっちは信じてくれるん? 信じるの早くない?」

「いや……確かにオレはさっきのお前の言葉を信じてなくて嘘だって決めつけてた。でも本当にランがくしゃみしたら爆発した……つまり、嘘みてぇだけどお前の両親がオオアリクイとかいうのに食われたってのも本当ってことだよな。オオアリクイがどういう奴かは知らねぇけど、お前のいた現世はオレが思っている以上に大変な所なんだな」


 思った以上に素直に、そして真剣に受け取られてしまい、訂正するタイミングを見失ってしまった。申し訳ない嘘を仕込んでしまった。これが後々に変な悔恨を残さないことを祈るしかない。おそらく、コニッシュの頭の中でオオアリクイは現世における生態系の頂点に立っていることだろう。どうしようもない嘘を植え付けてしまった中で今の自分に出来ることは、


「オオアリクイ以外にも危ない生き物は沢山いるから……」

「現世って大変なんだな……」


 生態系の頂点はオオアリクイだけではないことを伝えるのみであった。

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