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1-5


 その後、仕事を終えた他の導き手達にも集まってもらい試してもらったが、ただひたすらに持ち手を首にぶつけられるだけだった。不安になって確認したが、砕けた刃の部分は一度ランタンに戻してから武器の形に変えれば元に戻るらしい。鎌から始まり剣、薙刀、斧、槍と様々な武器をぶつけられるという一般人なら経験しないであろう稀有な体験をしてしまい、床に座り込んでじんと痛む首を擦る。僅かに髪は切れたのか、床には自分のものであった茶髪がぱらぱらと少しだけ落ちていた。

 事態が事態なのもあり先輩導き手は協力してもらった導き手達に今起きた現象については他言しないようにと約束させ、建物内には自身とコニッシュと先輩導き手だけとなった。


「……どうやらお嬢さん、貴女はまだ……死者になることは出来ないようですね。しかし、現に貴女の肉体も魂もこの冥界へと来てしまっている。何故かはわかりませんが、これは本来あり得ないことです。それこそ万に一つ、奇跡に近い確率だ」

「なんで……」

「それは私にも解りかねます。前例はあれど、資料が全然ないものでして」

「そんな、それじゃあ、どうすれば……先輩、生者なら生者の世界に戻すことは出来ないんですか!?」


 焦ったようにコニッシュが声を上げるが、先輩導き手は少し考え込んでから首を横に振った。


「……不可能の筈です。冥界から生者や死者が現世へいく道はありません。大昔はあったようですが、かつての冥王が死者が現世に脱走してしまうなどという混乱を避けるために閉ざしています。開く方法があるのかは、私にはさっぱり」

「じゃあ、冥王に直接会いに行けば……」

「いや、元の世界に戻るつもりはないし、出来るならすぐにでも命を終えたいんだけど」

「えっ」

「こちとら散々な程不幸体質背負って生きて来たからさ、もう楽になりたいんだよね。元の世界に帰れたところで、行くところなんてどこにもないし」


 実際のところ、この言葉に嘘はない。すでに家も家財も全て失っているし、今更現世に戻れたところで、奇怪な能力と不幸体質に塗れてまともな生き方が出来るかどうかも怪しいのだから。


「い、いいのか?オレと同じくらいなのに、そんなすぐに姿を捨てるようなこと……」

「そうじゃなきゃさっき首切っちゃえばいいなんて言わんて」

「そ、そうだよな……」


 しゅんとした様子のコニッシュに、手を握られる。動揺しているのか、先ほどまでの敬語の口調はすっかり抜けていた。思わず頭をくしゃくしゃと撫でてやれば、こども扱いするなと怒られた。


「今後考えが変わるかはわかりませんが……現世に戻りたいと思う時が来たとしても、今のままだとしてもどちらにせよ貴女は冥王様に会うべきです。きっと、冥王様なら何か手段をお持ちでしょう。もしも手段がなかったとしても、新たな冥界の住民として過ごすなら冥王様に姿を見せる必要はありますからね」

「それっぽく言ってるけどどうすればいいかわからんくて上に投げた感じ」

「おやめください……コニッシュ、彼女の案内を頼めますか?研修が終わったばかりでまともに導き手の仕事を任せられず申し訳ないのですが、彼女と現状最も関わりの深い君にしか頼めないのです」

「わかりました!僕、これが初めての導き手の仕事だと思って頑張ります!」


 ほっとした面持ちの、思った以上に表情が読み取れる先輩導き手が一度こちらにぺこりと頭を下げる。先輩に仕事として任されたのが嬉しいのか意気揚々と立ち上がったコニッシュが、改めてこちらへと手を差し出す。


「またも移動になってしまいましたが、改めて案内しますので……少し道は長いですし、名前を教えていただいてもいいですか?」

「あー、そういえば名乗ってなかったなぁ。すっかり忘れてた」


 差し出された手を握って立ち上がり、頬を掻く。適当に名乗っても大丈夫そうだが、それだが呼ばれたときに自分だと気付けない。そもそも適当に名乗るメリットもないな、と元居た町では友人にしか呼ばれなくなった名前を、今日出会ったばかりの少年に名乗る。


竜泉藍(りゅうせん らん)……ランって呼んでくれればいい。あと敬語抜いていいよ、そっちのが素だろうし」

「えっあ、でも仕事ですし」

「案外、冥王サマのとこへの移動で終わらないかもしれないし、素のままのほうが仲良くなれそうだしさ」


 わずかなやり取りの末、わかった、とコニッシュは頷いた。


「じゃあ改めて……オレは新入り導き手のコニッシュ。まだ未熟者だけど、最後まで責任をもってお前を連れて行く。 ……よろしくな、ラン」

「なんかその方がそっちらしいねぇ、よろしく」


 これより始まるは、我が身が向かう死出の旅。未熟なふたりの、冥界で歩む長い旅。まだこの時はそうなるとは思ってもおらず、ただ冥王のいる区画への道をふたりで歩くだけ。

 冥界の月が静かに、歩むふたりの姿を照らしていた。

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