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1-4

「いやいやいやいや、ここ冥界、死後の世界でしょ?……ですよね?自分が生者な訳ないじゃんか」

「……お嬢さん、あちらを……他の死者とご自身の身体を見比べてごらんなさい」


 先輩導き手が手で示した方へと顔を向ければ、そこには順番を待つ人間達の姿。どこに違いがあるのかと自身の身体と見比べてみれば、彼らは総じて足元が透けている。なんなら身体も僅かに透けている。自分自身の手を眺めても指先すら薄れてはいない。死者達が他の導き手によって光の粒に変わっていくのを見届けて、先輩導き手の方へと顔を戻した。


「つまり……自分は死んでいない、と?」

「……そういう事になりますね。およそ数千年ぶりですかね……生者が冥界に現れたのは」


 どうやらあの時崖から落ちたにも関わらず、一命を取り留めていたらしい。しかも、死んでいないにも関わらず死後の世界にいる、という異常な現象が発生していた。数千年ぶりだと言うあたり、死者ではない者が冥界に現れる現象は発生したことがあるようだが、それでも相当確率が低い。

 とんだレアケースに当てはまってしまったと内心で頭を抱えるが、崖から落ちた時に死を嘆くことなく受け入れたのが原因なのではと、もしかしたらこれも不幸体質のせいなのかもしれないと最悪の結論に行き当たってしまう。


「せ、生者って……あっ、だから温かかったのか……」

「生者がいる際の対応は……少なくとも歴史書を振り返らなければ……」


 しかしここは冥界だ、目の前にいるのは導き手……つまり死神だ。ならば、鎌の一つ二つは持っているのではないかと思考が浮かんでくる。となれば今自分に出来る提案は一つだけだ。


「いや、死んでないんなら今から首刎ねて死者にしちゃえばいいんじゃない?」

「お前が提案するのかよ!いいのか首刎ねられて!?」


 思わずコニッシュが声を荒げるが、いいのいいの、と首を振る。元々この世界に来た時点で死んだものだと思っていたし、既に来世に期待すると決めてしまったのだ。ならば判断は早い方がいいだろう、と。生者側からそんな提案が出るとは思っていなかったのか先輩導き手の方しばらく考え込み、いいのですかお嬢さん、と念を押して聞いてくる。大丈夫だと強く頷けば死に対する決意が固まっていると判断したのか、彼はコニッシュを後ろに下がらせて近くに置いていたランタンを手に取った。なぜここでランタンを?と思ったが、彼が手をかざして何かを念じればランタンは青い光に包まれて形を変えていく。ランタンだったものは一瞬で、まさに死神が持つに相応しいであろう鎌へと変わっていた。


「いいですか、行きますよ。痛いかもしれませんが……なにぶん私も生者を相手するのは初めてですのでご容赦を」


 先輩導き手の言葉に頷いた。念のため、と寝ころんでいた間にくしゃくしゃになっていた髪を整えなおした。狙うなら首しかないだろう、と伸びた髪をポニーテールにしてリボンでぎゅっと結ぶ。振り上げられた鎌が炎を反射してきらりと青く輝いた。不幸体質もここでおしまい、おさらばだ、と。これでやっと来世に期待できるのだとほっとして目を閉じた矢先。

 風を切る音と共に、ぱきん、とガラスが割れるような音が響いた。痛みは感じないが大分近くで聞き取れた音の元へと視線を向ければ、振るわれた鎌が自身の首元に当たると同時に砕け散っているのが見えた。ばら、ばらと空中に飛散する鎌の欠片はきらきらと、まるで星のように輝いていた。


「はッ――?」


 状況が理解できず、思わず声が漏れる。何か首に着けていただろうか、と思ったがアクセサリーなどつけていたら体質の関係ですぐに凶器に変わってしまうのだからつけていない。ならば鎌を砕いたのは明らかに自分自身の柔らかい皮膚であることに間違いない。鎌を振るった先輩導き手も驚愕したように口を開き、眺めていたコニッシュも今までになく目を見開いていて。

 一秒にも満たない時間だったが、それが何十秒という長さにも感じられる。力いっぱい振るったのだろう、勢いを殺しきれなかった鎌の柄が首に思い切り当たり、勢いのままに身体は吹き飛ばされた。


「いやそこは壊れねぇのかよ!!」


 コニッシュの鋭い叫びが響くと同時に、吹き飛ばされた自身は床に転がる。まるでバットで打たれたボールになった気分だ。きっと先輩導き手はいい選手になれるだろう、などと考えながらひりひりする首を擦って起き上がり、彼らのいる場所へと戻る。こちらは正直今の状況についていけていないが、それは相手方も同じようで。


「な、な……鎌が壊れた……!?」

「お前、一体……」

「自分でも何がなんだか……」

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