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「くしゅんっ」


 自分自身のくしゃみと、同時に聞こえた轟音と振動。目を開けば、真っ暗な空にぷかりと月が浮かぶのが見えた。水の流れる音も聞こえてくる。手が触れる感触は硬く、ごろごろとたくさんの石が転がっている場所の上にいるのだとわかる。この場所は河原だろうか。

 もしかして、あんな場所から落ちたのに生きている? と不思議に思って起き上がるが、身体に痛みは走らない。あの高さから落ちたというのに擦り傷すら見当たらない。生命力がそこそこ高く、傷の直りが周囲より早い自覚はあるものの、ごろごろと石が転がる河原に落ちたというのに傷一つないのはどうしてなのか、と周辺を見渡せば、暗闇を照らすように青い炎が灯ったランタンが眼に入った。


「は?」


 まるでコンロの上でしか見たことのないような青い火に、思わず声が漏れた。あの崖の下がこうだとは思えない。かつて一度落ちた際にはこんなものはなかったと記憶している。改めて見上げれば真っ暗な空に浮かび上がる月はあの時見上げたモノとは姿が違う。此処は一体何処なのだ、と思考がぐるぐる回る。よくある流行の小説の様に異世界に転移なり転生したにしては妙だと思うほどに周辺は薄暗かった。あくまでそれらは小説なので、現実で転生など起き得ないだとしても。先ほどの轟音の元は静かに煙を上げているが、じきに落ち着くだろう。


「……寝るかぁ」


 頭を振ってもう一度寝転んだ。河原の石はごつごつとしているが、理解不能な状況と比べればまだ受け入れられるような気がする。青い炎と様相の違う月だけで理解不能だと頭が決めつけたのはきっと睡眠が足らないかこれが夢だからだろう、と。しばらく川のせせらぎに耳を澄ませてごろごろとしていれば、少しずつこちらに近寄って来る足音が聞こえて来た。


「おい! ……じゃなかった、あの!」


 まだ幼さの残るような雰囲気の低めの声にちらりと視線を向ければ、銀色の髪が月の光を反射してきらきらと輝いているのが見えた。背丈からしておそらく十代前半くらいだろうか。青い炎を灯したランタンを片手に持ち上げてはっきりと見えた少年の姿は、二足歩行の人間のかたちをしているが人間では無いと言い切れるような雰囲気を醸し出している。夜の様に真っ黒な肌、こちらを見やる赤い眼、背中から生えている小さな翼。更に人間なら耳のある部分からも黒い翼が生えていて、彼の動きに合わせてゆらゆらと動いていた。服装だけ見ればどこぞのお坊ちゃんかと思いそうなところだが、足元は縄のようなものが巻き付けてあるだけのほぼ裸足。異様な世界に流れ着いたかもしれない、と寝ころんだまま問いかける。


「えーっと……誰?」

「オレ……じゃなかった、僕はコニッシュと言います。貴女を含めた死者を巡りに導く導き手をやっています」

「死者……」


 少年の言葉で今の状況を理解してすとんと腑に落ちる。やはりあの状況で生きている訳がないのだ。ならばここは死後の世界と言われるモノなのだろう。漫画やアニメなどで死後の世界の絵や映像を見たことはあるが、実際こういうものなのか、とランタンの中の青い炎をぼんやりと見つめた。


「すみません、本来なら死者は同じ場所に集まるのですが……時折魂が着地する場所がずれてしまうみたいで。僕がその場所へ案内するので、来ていただけますか?」


 ランタンを持っていないほうの手をすっと差し出して、コニッシュと名乗った少年はやや緊張気味に微笑んだ。ずっとこのままの姿勢で居させる訳にもいかず、急いで起き上がる。


「や、自分一人でもちゃんと歩けるよ」

「貴女のいた世界と比べてこちらは暗い……らしいので、足元が大分不安定ですし、転んでしまっては大変ですから」


 立ち上がると少年は自身よりも少し背が低いことがわかった。自分よりも年下であろう少年に手を繋いで導かれるのか、と思い遠慮してしまうが、少年は引かない。それが彼らの世界でのルールなのかもしれない。差し出されている手も自分よりも僅かに小さくて、傷も殆どない子供らしい手だった。まるで遠足の時みたいだ、とそっと自身の手を重ねれば、ぎゅっと握り返される。


「……あったかい」

「んぇ?」


 ぎゅ、と握った手を呆然と見つめてコニッシュは呟く。逆にコニッシュの手は体温が通っていないかのように冷たい。よほど珍しかったのか、もう片方の手も握られて体温の有無を確認された。


「……そんな珍しい?」

「研修で出会った死者はみんな冷たかったからこんな温かいの初めてだ……ってすみません!」


 ハッとしたように慌てるが、握った手は離さないままで。そのまま引っ張られるようにして歩きだす。

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