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オプスキュリテを抱きしめる

こちらに向き直ったリトをもう一度抱きしめる。


大声をあげて泣くリト。


それでもぎゅっと日記を抱きしめて離さない。


「ああっ…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ…」


「リト…愛してる」


「ぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ…」


すごい声を上げる。


喉が枯れるほどの大声で、奇声と言えるほどの声を。


それだけ今、リトの心は傷ついている。


今まで自分を守っていた、愛されていなかったという盾が無くなって…愛してくれた母親を亡くしたという事実を突きつけられて。


愛してくれた母親を、今まで否定し続けていたという事実を理解して。


「母さん、母さんっ…ごめんなさっ…」


「リト…」


「母さん、母さんっ…母さんっ…」


ただ謝罪を繰り返すリト。


私はぎゅっと抱きしめるしか出来ない。


「僕は…こんなに愛されていたのにっ…」


「リト…」


「今まで…っ否定して、ごめんなさいっ…」


涙は止まらない。


謝罪も止まらない。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ…」


「…愛してるよ」


「ぅあああああっ…!!!」


ごめんね。


ごめんね。


でも、どうしても伝えたかったの。


ごめんね。


傷つけてごめんね。


「ひっく…ぅ…」


そのうち、リトは泣き疲れて寝た。


もう十四歳のリトは重いけど、ベッドに運んで寝かせてあげる。


一旦部屋を出てジェネラス神父様にお願いして用意してもらった蒸らしたタオルで、泣いてぐちゃぐちゃになったリトの顔を綺麗にする。


これで起きてからも顔はスッキリだろう。


喉は朝起きたらおそらく枯れているだろうから、ジェネラス神父様に朝から蜂蜜たっぷりのホットミルクを用意しておいてもらう。


「…リトくんは、愛されていたのだと受け止められましたか?」


「はい。その分苦しんでしまったようですが」


「…ですが、それは必要な痛みでしょう。これから先、リトくんは自分は愛されていたと自分を少しでも認められる。痛ましい声でしたが…必要なことでした」


ジェネラス神父様は、私のしたことは間違いではないと慰めてくださる。


「ありがとうございます」


「きっと、目が覚めたらよい朝が来ます。それまで寄り添ってあげてください」


「はい」


そして私は、リトの部屋にまた戻りリトの隣に敷いた布団で寝た。














「…んん」


目が覚める。


リトはまだ眠っている。


思ったより穏やかな寝顔に少しほっとする。


朝の身支度を整えつつ、リトの目覚めるのを待つ。


身支度を整え終わったところで、リトが目覚めた。


「…リア様、おはようございます」


「おはよう、リト」


「昨日は、ありがとうございました」


リトは眠って心も休めることができたのか、思ったより落ち着いた様子だ。


声は枯れているけれど。


「僕は愛されていたのですね」


「…そうよ」


「知れてよかった」


その言葉に救われた思いになる。


「リア様、本当にありがとうございます」


その後ジェネラス神父様が良いタイミングで持ってきた蜂蜜たっぷりのホットミルクをごくごく飲んだリト。


朝の支度を整えて、いつものように孤児院の仲間の元へ行く。


みんなも、昨日の晩に泣き声は響いていたはずなのにそれには触れずリトといつも通りに接した。


この日以降、リトの私への依存は少しばかりではあるが落ち着いた。


それでも敬愛を込めて接してくれることに変わりはないけれど、ちょっと寂しいがそれだけ前に進めたのだとほっとした。

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