僕と君のあたり前
見つけて開いて下さりありがとうございます!
是非ともこの作品を読む貴方へ想いが届きますように。
「ねーねー、家族ってなんだと思う?」
おもむろに君は呟いた。
「急にどうしたの?」
僕は顔を上げて淡々と返した。
「いやぁ。なんかさ、どうして結婚したり、子供を産んだりするんだろうなって思ったから聞いてみた。」
なぜそんな事が気になるのか不思議だったが、放課後毎日一緒に勉強しているよしみで考えてあげることにした。
「そんなのお互い好きで愛してるから結婚するんでしょ。」
「じゃあ、なんで子供を産むの?」
「子供ってお互いの愛の結晶だから」
一般的な回答だとは思うけど僕は言ってて恥ずかしくなった…
「ふーん。愛の結晶ねぇ」
君は顔をにやつかせながらからかうように言ってきた。
「ぼ、僕は…一般的な回答をしただけだよ」
「そういう君はどう思うの?」
人の考えをからかったくらいだ。さぞかし良い考えを持っている事だろう。
「ん?分からないから聞いたんじゃん〜!」
「そんなのずるいよ。少しはなんかないの?」
君は少し考えて言った。
「……私は君の考えに驚いたよ。好きだから。愛してるから。結婚する。じゃあ、好きじゃなくなった、愛せなくなったらどうするの?」
「ましてや、それが子供を産んでからそうなったら。」
いつにもまして早口でまくしたてる真剣な顔の君に驚いている僕に気づいたのか、君は正気を取り戻したかのようにいつもの笑顔で言った。
「よくテレビで見るじゃん。離婚、DV、虐待……あげたらきりないけど、これって全部結婚したから、子供を産んだから起きたことでしょ。」
「だったら、初めからしなきゃいいのになって。」
そんな悲しそうな君の顔を見るのは初めてだった。仲の良い友達の前でさえいつも笑顔で明るい君が見せる新しい一面に自分ではよく分からない胸の高鳴りを覚えた。
「じゃあ……君は結婚しないってこと?」
今の考えを聞いたら誰だってこう思うだろう。だが、返ってきたのは意外な答えだった。
「いや、私は結婚したいし、子供も欲しいよ。それに愛されたいからね」
「へぇ。自分はそういう風にはならない自信があるって事?」
「もちろん。自分もだけど、自分が選んだ相手には絶対的な自信があるよ。」
君は真っ直ぐな瞳で僕を見た。
なるほど…君なら大丈夫だろうと納得したと同時に僕は羨ましかった。そんなに想ってもらえるなんて相手はさぞかし幸せだろう。
「まぁさ、家族だから大切なわけじゃないと思うよ。血の繋がりや、戸籍だけが家族じゃない。つまりさ、大切だから家族なんじゃない?」
これは僕の本当の気持ちだった。
君は何かに気づいたかのような顔を一瞬したが、すぐにいつもの笑顔で答えた。
「……なるほどね、そういう考えもあるんだね。いちばんしっくりきた。」
━━━━それから僕達はいつもはほとんど会話なんてしないのにお互いの事を話し合ったり、学校での事などをたくさん喋った。
気づいたらいつの間にか下校時刻間近になっていて、いつものように僕が窓を閉め、君が電気を消して、昇降口へと向かった。
いつものように別れようとしたその時だった。
「それじゃあ、またあし━━」
「あのさ……ありがとう」
その笑顔は今までに見たことがないくらい柔らかく優しかった。
「……何が?」
鼓動が速くなっていくのを感じながら、僕は平然を装って尋ねた。
「ふふふ、何でもだよ」
君と目を合わせて話しているのはいつもの事なのに、なんだか妙に恥ずかしくて僕は目を逸らしてしまった。
「さっきからなんでそんなに顔真っ赤なの?」
「別に……」
顔まで赤くなっているのか…それを君に見られたからなのか自分の顔が赤くなっている事を自覚したからなのか分からないが本当に恥ずかしくなってきた。
「ふ〜ん!まぁいいや。じゃあ帰ろう」
「そうだね…じゃあまた明日。」
「うん……ばいばい」
僕は恥ずかしさのせいで君が《いつものよう》ではなかった事に気づきもしなかった。
翌日学校に行くと君の姿はなかった。担任も何も言わないので、風邪かなんかだろうと思っていた。
君がいない放課後の教室で一人で勉強して、一人で窓を閉めて電気を消して下校する。
それが一週間程続いた。
風邪にしてはあまりにも長すぎる……
流石の僕も不審に思い、担任に聞いてみたが曖昧に流されてしまった。
よく考えてみると、いつもなら君は別れる時
「うん、また明日ね」
って言うのに、この間は
「うん……ばいばい」
僕は嫌な予感がした。もう二度と会えないのではないか━━━と。
そんなはずはないと自分に言い聞かせながら教室に戻ると、僕の机の上に綺麗な便箋が置いてあった。
なんだろうと思い裏返してみると、そこには君の名前があった。
僕は急いで開けて読んだ。
そこには━━━
親から虐待されている事。
いつも怖くて辛くて逃げ出したくてたまらなかった事。
だけど、親だから大切にしなきゃいけないと言い聞かせていた事。
そんな時僕の言葉に気付かされて決心がついた事。
学校を辞めて遠くに行く事。
僕は読みながら泣いていた。
いつも笑顔で明るい君とは無縁のような事実だった。
そして、最後に……
━━━━ずっと好きだったよ。ありがとう。
僕はこの言葉を読んだ時、ずっと心の中にあった君への思いが好意である事に気づいた。
僕はずっと、君の事が好きだったんだ。
放課後二人きりの静かな教室、昇降口までへの何気ない二人での会話、二人で交わすまた明日という約束の言葉……
全てがいつものようにあたり前の日々だった。でも、それがあたり前じゃなくなって分かった。
あたり前という事ががどれだけ大切か。
もう一度会いたい。僕も好きだと伝えたい。
僕は教室を勢いよく飛び出した。
僕が教室から職員室に行って帰ってくるまでにそんなに時間はかかっていない。その間に手紙を置いたとしたら、そんなに遠くに行っていないはずだ。
必死に走った。いつも一緒に歩いていた廊下。僕とは反対方向の君の帰り道。泣きながら走っているので呼吸が上手く出来ず、苦しくてまた涙が出てきた。だけど、止まったらもう本当に会えない気がして必死に探し回った。
だけど、君を見つけることは出来なかった。
どのくらい時間が経ったのだろう……
僕は屋上で横になって空を眺めていた。夕焼けで赤く染まった空を見ていると毎日放課後の教室で君と見ていた空を思い出す。
もうあの空を二人で見ることはないんだ…悲しいけど、君が決めた事なら僕は応援する。君が僕を好きでいてくれていた事だけで充分だ。
「頑張れ━━━━━!!!!!!」
あたり前だと思っていた日々があたり前じゃなくなってから気づいたってもう遅い。
なぜ人は後悔なく生きられないのだろうか。
いや、これからもたくさん間違えて、たくさん後悔して、たくさん学んで、たくさんの経験をして前に進んでいくのだろう。
━━━━━━━僕と君のように。
最後まで読んで下さりありがとうございます!
これは私が初めて執筆したオリジナル小説です。そして、初めてコンテストにも応募した大事な小説です。結果はよくありませんでしたが、初めて書き上げた達成感と喜びは忘れられません。
最後まで読んで下さった貴方が毎日笑顔で過ごせますように。