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She has a serious secret. ⑧

「あまり馴染み過ぎると、身体と魂の結びつきが強くなり、離すのが難しくなるらしい。……アンナ嬢の身体とレイラの魂の結びつきはそう強くない。……今後、時間の経過とともに多少は今よりも馴染むだろうが、アンナ嬢がその気になればどうにでもなる程度の結びつきでしかないそうだ。……というのも、レイラの意思に関係なくアンナ嬢の身体に入り込んでしまっているというのが大きい」


 レイモンドは彼が聞いたというアンナの言葉を復唱して俺に伝えてくれる。


「レイラの身体にいるエレナ嬢だが、彼女の場合、望んでレイラの身体を乗っ取っている。……仮に身体に魂が馴染まなくとも、彼女の意思が強ければ強い程、必死にしがみつく。……彼女がレイラの身体から出ていかない限り、レイラはこのままアンナ嬢として過ごすか、アンナ嬢に身体を返して、今のアンナ嬢の様に幽霊と言われる状態で過ごす事になる、らしい」


 レイモンドの声が所々震えている。アンナが自分の身体を取り戻すのは比較的簡単らしい。

 呪いに巻き込まれたと言っても、アンナの場合は完全に魂が身体から出てしまったわけでなく、魂が身体から離れやすくなっただけだった。自分の意思でレイラ嬢の魂を自分の身体に押し込んだのだ。

 そんな訳で、押し込んだレイラ嬢の魂を引っ張り出すのもそう難しいものではない。

 けれど、エレナを引き摺り出すのは困難だという。実際、入れ替わってすぐはアンナが何度もエレナを引き摺り出そうと試みたらしい。けれど全く干渉出来なかったそうだ。引き摺り出せないのならば説得しようとするも、どうやらエレナにはアンナが見えないし声も聞こえないらしい。


 ならば、元の持ち主であるレイラ嬢ならエレナを引きずり出せるのかと言えば、それも無理な話らしい。

 元々は持ち主から身体を奪う呪いだ。詳しいことはわからないが奪い返されない様になっているのだと言う。


「自分の身体が代償となるのは、失敗を防ぐという側面もある。……代償として捧げる事で、一定期間を過ぎると乗っ取った身体と自分の魂の結び付きを強固なものにする呪いが発動するらしい。……その呪いが発動してしまうと、こちらも呪いの類を用いない限り元の身体へは戻れなくなるそうだが、その方法はわからないし、代償は更に大きくなる事が予想される」


 エレナが使ったであろう術は『自分の身体と無垢な魂』を代償とした呪いだ。知人の話によると、葬儀の途中、棺桶に蓋を閉めてしばらくすると遺体が消えるらしい。エレナの場合がどうだったのかわからない。流石に墓を掘り起こして確認するわけにもいかないし、実際無くなっていたところでどうする事もできないし、混乱するだけだ。それに遺体が無くなっているなんて、遺族にとっては知らない方が幸せに決まっている。


「その一定期間とは? もしそれがわかったとして、どうやってレイラ嬢の身体からエレナを引き剥がす?」

「それを今、アンナ嬢達が調べてくれている。おそらく、期間は3ヶ月程度、あの日の事故以上に大きな衝撃を与えれば良いのではないかとの事だったが……」

「3ヶ月? 事故からもう2ヶ月近く経っているじゃないか!」

「落ち着け。そんなことは俺だって嫌というほどわかっている!」


 苦々しい顔をしているレイモンドの姿が目に入り、俺は我にかえる。


「すまない、取り乱した」

「いや、俺もそうだったから気にするな」


 お互い呼吸を整え、冷め切った紅茶で喉を潤した。


「来月末、もう一つの白磁工房に行くことになっているだろう?」

「ああ、親方の弟子が故郷で独立したって工房だな」

「そこへ、()()()を連れて行こうと思う。長距離の移動は身体に負担がかかる。だからこそ、敢えて負担をかけて、エレナ嬢の魂が離れやすい状況を作り出したい」


 期限ギリギリに行うのは、身体と魂を結びつける強固な呪いが発動する直前の気の緩んでいる時に攻めたいということ、こちらにも準備や情報収集など時間が必要であるということ、誘い出す口実があることを理由としているらしい。


「精神的な負荷もかけた上でエレナ嬢の意識を奪う。タイミングを合わせてアンナ嬢の身体からレイラの魂をレイラの身体に戻し、アンナ嬢自身も身体に戻るそうだ」


 その際は件の知人も協力してくれるという。その知人ならば、エレナに干渉できる可能性が高いというのだ。


「レイラには悪いが……レイラの婚約者にも同行してもらうつもりだ。おそらく、モルテンソン家や王家が関わる事業ならば、奴も興味を示し、普段は嫌がる田舎にもやって来るだろう。それもワイン祭りと並ぶシトリン領で最も有名な祭りの期間中、王族も視察に来るとなれば尚更だ」

「まさか、アンディが来るのか?」

「ああ。共同事業にかこつけて王都から出たいと騒いでいたからな。……きっとそのうちモルテンソン・ヴェールの産地も視察するとか言い出すぞ」


 アンディが言い出せば、シトリンとのバランスを取る為にレイモンドも許可せざるを得ないのだろう。もちろん、そうなったら同行するのは俺とレイモンドだ。


「それはさておき。俺としては奴に何かやらかしてもらい、奴の瑕疵がつけば良いと思っている。その証人としてアンディを利用する。なんならアンディにイチャモンつけるなり手を出すなりして不敬罪で捕まってくれれば最高だ。もちろん、アンディには傷一つ付けさせないが。ここで事業に瑕疵をつけるわけにいかないからな」


 王族への不敬罪で捕まった者は爵位を継げない。伯爵位を得る目的でレイラ嬢と婚約をしている以上、解消される可能性は高い。


「アンナ嬢とレイラが元に戻った上で、レイラの婚約が解消あるいは破棄される事が理想だ」

「だが婚約破棄となると、女性側に瑕疵がつくだろう?」

「普通はそうだが、不敬罪で捕まっての破棄なり解消ならば話は変わってくる。もし瑕疵がついても、今よりも条件の良い相手と結婚出来れば挽回できる。……最悪のケースはエレナ嬢がレイラの身体を乗っ取ったまま婚約が継続した場合だが……その時は多少汚い手を使ってでも婚約を破棄させる」


 ギリリと音がしそうな程歯を食いしばるレイモンドはただならぬ雰囲気を纏っていた。


「……ところで、あの日記は読んだのか?」

「いや、まだだ。なんとなく、読む気になれなくてな」

「そうか……だが、それで良いのかもしれない。レイモンドには読む権利があると言ったが、同時に読まないという選択もある」


 纏う雰囲気はそのままに、唐突に話題を変えたレイモンドに違和を覚えた。そのせいで、どうも読む気になれなかったあの日記を読まねばならない気がしてくるのだから不思議なものだ。


「それは、俺に読むのをやめろと言っているのか?」

「……いや、そういうわけではない。だが、確実に言えるのは、途轍もなく胸糞悪くなるという事だ。覚悟した方がいい」


 俺に覚悟があるのかどうか、見抜こうとしているように感じてしまう真っ直ぐで真剣なレイモンドの視線に思わず怯みそうになる。


「彼女は……エレナ嬢は、とんでもない秘密を抱えていたんだ」


 その声は、酷く怒っているようにしか聞こえなかった。

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