擬態した私は調子に乗っています。1
なぜデコ出しつり目美人は悪役令嬢と決まっているのだろうか。
しかし男の子っぽく擬態しておいてよかった。
私はいま、うねったブルネットが美しいおねーさんを背後にかばって三人の意地悪役と思われる脳筋トリオの前に立ちはだかっている。
しかし、頭ワルソウナカオデスネーアナタタチ。
兄の試合が終わり、母はしばらく兄に付き添うようだった。
こんな時(試合に負けた)の兄にはだいたい八つ当たりされそうな未来しか見えないので、もちろん回避する。
「お母さま、私が、おにーちゃんにかっこよかった!って言ってたの、ちゃんと伝えといてね!」
としっかり時差で被りえる八つ当たり回避策を埋め込むのを忘れないできる(?)社会人、私。
次は討論会をチェックせねば、とスタジアムから討論会が行われているホールに移動する父にくっついて来ていた。
「シンシアには難しくてつまらないと思うよ?」
とやんわりと断られかけたが、どんな感じなのか見てみたいだけ、会場ではヤンのそばで大人しくしているから、と約束とお願いをして父に連れてきてもらった。
討論会は6人一組のテーブルに分かれており、出された議題について6人の生徒が熱いディスカッションを繰り広げ、観客はテーブル間を歩き回って聞けるような形式だ。
父は自分の職場に引き入れたい人材をハントしたいのか、かなり熱心にテーブルからテーブルを歩き回って聞いている。学生の前にはネームプレートが置かれており、名前が分かるようになっているので、気になる学生の名前をメモって後で家格など調べるのだろう。
父、めっちゃメモってる。。。
テーブルによる投票制で、票数が多い学生3人が勝ち上がる形式のようだった。
これはしばらくかかるなー。。
雰囲気はつかめたし、最終決定戦あたりを見るのは武芸か討論かどっちにしようか悩ましいところ。ちょっと歩きながら悩むかー。
ヤンに
「ねぇねぇ、ちょっとお外散歩したい」
と言ってみて、父に許可をもらってもらい外に出てみた。
「ヤンは親善試合と討論会どっちが面白そうだと思う?」
暗殺系キャラを期待していたがぜったいそっち系じゃない感半端ないヤンに聞いてみる。
「ボクですか?ええー…」
お貴族様のご子息の討論あーだーこーだ聞いてもーとかヤンが意見を述べだしたが、
こういうイベントの時って、人気がない校舎裏とかで何かが起きるんですよねー
と、人気のあまりなさそうな校舎裏を目指してずんずん歩いていることにヤンはまだ気付いていない。(そして話を振っておいて全然ヤンの話を聞いていないシンシア)
討論会場から3錬ほど隔てた建物に近づいたとき、なにやら男女の話し声が聞こえてきた。
「…決勝戦に至ることすらできない私には騎士団に入る資格なんて…」
「何を言っているんですか!ウィルム様の強さは単体戦ではなく、〜〜」
あ、これなんかのストーリー進行してるヤツじゃないかなー…
ふむ、聞かなかったことにしよう
「おじょ…?」
訝しげに何か言いかけたヤンの手を引いてさっそうとその場を退避っ!
ああいう、人の後々の人生か、キャリアに係わりそうなヘビーなシーンは避けるべし寄らざるべし。
他の軽めなストーリーでお願いします!
と、別方面に歩き出した。
おっ…と?ヤンに手を引かれてちょっとつんのめった
「ん?ヤン?どしたの?」
「…お嬢様……ちょっとそこまで散歩と言ってませんでしたか?」
ジト目である。
「え?散歩中にたまたま興味深い所に出くわしちゃうなんて、よくあるでしょ?」
例えばヤンが調理場でサラにおねだりしてオヤツもぐもぐしてたとか
例えばヤンがミルクのお届けに来たロランおじさんの娘さんの年とかめっちゃ聞いてたとか
例えばヤンが… ムグッ。
「お嬢様…」
私の口を抑えたヤンの顔が真っ赤である
「たまたま、散歩してるとそういう所見ちゃうとか、よくあるでしょ?」
私、無邪気さを乗せて畳みかけるっ。
「ソウナンデスネ…」
ヤン、顔が死んでるよ。
はい、お散歩という名のフラグ発生現場探し再開です。
先程のヘビーな心境吐露現場の向かいの建物の裏には、古くて使われていない噴水があり、ちょっと寂れた雰囲気があった。
その後ろの木立、どー見ても人目につきにくいぜ!イベントおきるぜ!感があり、
ヤンに頭を低くしてついてきて!と強要し近寄ってみたら…
ドサッ!
ブルネットの髪が木立の向こう側で揺れて尻餅をついたのが目に入った。
シンシアは、さきほど助けたぷるぷる金髪が討論会場の遠くのテーブルで注目を集めていることに全く気付いていなかった