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リリア・グリストール②

前話ですが最後を少し加筆したのでよろしければみていただけたらと思います。


ブックマーク•評価ありがとうございます!


あの日、母が亡くなってから3年の月日が流れた。

私が12歳のある日。本邸の使用人がある噂話に花を咲かせている所に出くわした。……といっても私はあの時(3年前)から本邸へと近づいていないし、今回彼女(使用人)達が噂話を興じているのが私の住む離れに近い位置だったのでたまたま耳に入っただけだったのだが……。




その噂話は





曰く、それは公爵令嬢である。




曰く、その令嬢は漆黒の髪に漆黒の瞳をしている。




曰く、その容姿は驚くほど美しく《黒》でなければ婚約話にはこと欠かさないことだっただろうとのこと。




曰く、そのような現状であっても令嬢は堂々としていて凛々しく、美しく見えるらしい。




曰く、容姿だけでなく類い稀なる才能で高位貴族の令息にすら引けを取らないほどの文武両道の女性らしい。




曰く、その優秀過ぎる能力が認められ《黒》にも関わらず第一王子の婚約者になったらしい、との事だった。








この世界では髪や瞳が黒、又は黒に近い色彩の人間は忌み子として扱われている。

《黒》という色は魔族を表す色でその昔、実際に存在した魔族の王ーー魔王ーーはその瞳と髪が黒曜石と形容されるほど見るものを魅了する綺麗な黒色をしていたとか。

そしてその姿は、絵本などの物語で語り継がれていることから、今現在でも子どもから大人まで多くの人が知っているし、それと同時にこの世界での恐怖の象徴として敬遠され、また差別されるようになっていったのである。


つまり、私の嫌われる理由が庶子の子であるということ以外にもこの黒に近い紫の髪という不吉な見た目()もこの境遇の理由のひとつだったりするのだ。



「……オリシアン公爵令嬢様」


私はつい先程耳にした似た境遇の…しかし私などと比べるまでもなく素敵な少女の名前を熱に浮かれた様にただただ何度も呟くのだった。


それからはオリシアン公爵令嬢は私の生きる意味であり尊敬する存在となった。

もし私が子爵邸を追い出されればこの髪色のせいで明るい未来は望めないだろう。

どう転んでも絶望的な中、同じような境遇であって、それでも未来の王妃になれる位置までたどり着いた姿は、私にとってまるで()()()()()()()のようだった。


どんなに辛い事があっても、彼女の存在を思い出す事で乗り越えられる。私の中で彼女の存在はいつの間にか自分でも底を見ることができないほどに大きなものへと変化していた。






15歳になり私は子爵に本邸へと呼び出された。

生まれて初めて歩く本邸の中は私が住んでいるあばら屋とは異なり、とても綺麗な家だった。

雨が降っても凌げる屋根、風が吹きつけても容易に遮る事が可能な壁、割れた木が飛び出す事なく、足に優しい床。そのどれも初体験のもので……しかしここが私をその場所に追いやった原因である子爵の家だと思い出すと、先程感じた感動に水を差されたような残念な気持ちになってしまった。


私が子爵のいる部屋へ向かう途中、使用人達が私を侮蔑的な視線を向け、コソコソと小声で笑っている。

時には私を見て嘲笑する者すらいる。……その表情はいつかの子爵夫人の笑顔によく似ていた。


怒りに我を忘れてしまいそうになるが、そこをぐっと堪え子爵の元へと向かう。








……初めて訪れた子爵邸は私に優しくなく、待遇通りの地獄のようであった。







コンコン。



「旦那様、言われた通り連れてまいりました」


案内役であったメイドが子爵が居ると思われしドアへとノックをする。

どうやらこのメイドは私の事を〈お嬢様〉とは呼びたくないらしい。

まあ私もどこの誰とも知らない相手に呼ばれたくはないのだけど……。


「………入れ」


少しの間の後、子爵から入室許可が下り、私は子爵のいる部屋へと踏み込んだ。


どうやら先程のメイドは案内だけのようだったようで、私が入るのを見送った後、頭を下げ扉の向こうへと消えていった。







ーーーお前を学園へと通わせる。





子爵は私と話すのがよほど嫌だったのか眉間に皺を寄せ、用件を簡潔に伝えてきた。


「…学園、ですか?」


あまりに予想外であった為、思わず聞き返してしまった。


子爵は私のそんな態度が気に入らなかったのか、侮蔑的な視線を、私に向け嫌々という感じで言葉を発した。


「お前の耳は飾りか?それとも矮小なその頭では理解する事も出来んのか?」


「申し訳ありません。余りに唐突だったもので…。その、私は学園に通っても、よろしいのでしょうか……?」


「…貴族の義務だからな。仕方ない」



王立魔法学園は15歳から18歳までの貴族の子女が通う学舎で、

貴族は通う事が義務とされ、毎年数人の優秀な平民も特待生という形で在籍することも可能という、将来の国の中枢を育てる事を目的とした場所である。


……私も妾、しかも母が平民とはいえ、一応は貴族令嬢。通わせないわけにはいかないという事。

でもこれは嬉しい誤算。…そう!学園に行けば()()()に会える!


余りにも嬉しく子爵が、何かの手違いで王子にお手付きされればいいのだが…

と言っていたのだが、もちろん憧れの人に逢える事に歓喜する私の耳には入ってこなかった。


そこから順調に準備を進め私はついに学園へと入学を果たした。

それ(入学)から1週間、私の魔力が少量しかなかった事や礼儀作法が全くなってなく他の貴族令嬢から目をつけられ、イジメに近い扱いを受けているなど些細な事はあったがそんな事が気にならないくらい今の私は幸せだった。


もちろん雨が降っても風が吹いても気にする事のない部屋で過ごしているというのもあるが、何よりも憧れのオリシアン公爵令嬢様を生で観る事が出来たからだ。

噂の通り、周り視線などものともせず堂々としている様は、私の中で思い描いていた通りの素敵な方だった。


私は主に柱の影から見ているだけで、話しかけたり出来なかったが、私はそれでもやっぱり幸せだった。






そんな幸せな日々の中、それ(幸せ)は突然陰りを見せ始めたのだ。

オリシアン様の側に男が現れたのだ。

その男はこの国の第二王子とやらでいつも楽しそうにオリシアン様に話しかけている。オリシアン様も最初は嫌悪を隠さないでいらっしゃったが、この最近は満更でもないご様子?























ありえない……ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない













あの孤高の天才であられるオリシアン様があんな上辺だけの男の側で満足されるなんて……いや、これは違う。

そう!何かの間違いだ。間違いであるならばそれ(間違い)は正さないと。


明日から夏休み。

夏休みのうちに計画を練って……そう、夏休み明けにはあの男を排除しないと、ね?


私はその時の事を想像し、薄く笑みを浮かべるのだった。


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