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リリア・グリストール①

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私の名前はリリア・グリストール。


グリストール子爵家の長女。長女といっても母は子爵家で働いていた平民のメイドで、私は子爵の戯れによって生まれた子ども、所謂庶子と言われるものである。


生まれた時から母と2人で暮らすに手狭な、離れの2畳の部屋で押し込まれるように生きてきた。


幼い私の世界はこの2畳の部屋と部屋の前に広がる少しの庭だけ。


その庭でさえも本邸に住む子爵夫人やその息子である2人のお義兄様に見つかれば説教や折檻の後、部屋へと強制的に押し込められる。



子爵は時折夜に部屋へとやってきては母を抱く。

母は私の前では嫌だと泣いて訴えるが子爵はお構いなしに母へとその汚い欲望をぶつける。

むしろその母を見て興奮すらしているようで、何回目か以降はわざと声を上げて母へとその欲望をぶつけている節がある。

幼い私が出来る事といえば、母の尊厳を守る為に必死で寝たふりをする事だけ……。母の事を思い何度心の中で涙した事だろう。






行為の翌日は決まって涙を流しながら母は私を抱きしめる。


そして



「ごめんね、貴女を産んでしまってごめんなさい」



と、謝罪をする。


それは一見私をこの環境に置いてしまった事を謝罪をしているようでいて実の所、私の存在を否定しているという事にこの人()は気付いているのだろうか?

そして、そうして存在を否定される度に私の心が死んでいっているという事にも……。



私が10歳になると母は病気で床に臥す事が多くなった。そしてそれを機に子爵は母の元を訪れる事がなくなった。

ようやくひとつの悪夢から解放されたと喜ぶべきなのだろうけど、その頃にはすでに母は壊れてしまっていた。

病気の時は布団の中で虚空を見つけ、少しでも体調が良くなると本邸へ出向き子爵へと自ら夜伽の申し出を行なっているらしい。まるで自分にはもうそこにしか価値がないと思っているかの様に・・・もう(リリア)という存在は母の淀んだ目には映っていなかった……。










そんなある日の早朝、母が吐血をして倒れてしまった。

今までも何度か起き上がれないほどの体調不良に見舞われることはあったみたいだけど、実際に母が血を吐いたところを初めてみた私は久方ぶりの動揺を覚えた。


(このままではお母さんが死んでしまう……!!)



その強い強迫観念に駆られ、普段は絶対に寄り付かない本邸へと気がつけば走って向かっていた。




ドンドンドン!





「助けて…お母さんが…お母さんが……!!」


私は必死に本邸のドアを叩いた。

早くしなければ、母が…母が!!


「なんですの?煩いですわね」


そう言って出てきたのはナイトドレスにカーディガンを羽織った子爵夫人。


「助けてください!母が血を吐いて!それで…それで……お医者様を!!」


子爵夫人は普段は感情を表に出さない私が涙を流しながら訴える姿に驚いたのか少し目を開けて驚愕するけれど、直ぐに表情を戻し


「そうですわね……あの女(女狐)とも知らない仲でもないですし、事態は緊急の様……医者を呼んであげましょう」


「……ほんとに」


私はその言葉が信じられなくて、でも嬉しくて笑顔を見せる。

そして子爵夫人はそんな私を見て口元を歪に上げ


「………ああ、そういえば我が家専属の医者は3日程王都へと出向いてこちらには今いないのでしたわ。申し訳ないけれど3日後まで待ってくださる?」


「…そ、そんな…それでは母が助かりません!どうにか・・・どうにかしてください!!」


私はその言葉が信じられなくて、まだ母は助かるんだと信じたくて。子爵夫人の足へと泣きながら縋りついた。



「ええい!鬱陶しい!!」



そんな私を払い除け、子爵夫人は私を忌々しげに睨みつけながら


「医者は呼んでやると言っているのです!卑しい女の娘は3日も待てないのですか!立場を弁えなさい!!それ以上騒ぐようでしたらこちらへ戻ってきたとしてもそちらに医者を向かわせませんわよ!!」


「そ、そんな…」


私が子爵夫人のその言葉に私が打ちのめされていると


「ふんっ!やっと立場が分かったようですわね。お前はそうやって地面へと無様に転がっているのがお似合いですわ……医者は約束通り呼んでやります。そこで気が済むまでみてもらいなさいな。……ふふふ、3日後まで無事生きていれば……ですがね?」


そう侮蔑的に笑い子爵夫人は屋敷へと戻っていった。




そこからの事はあまり覚えていない。

ただ気がつけば部屋へと戻っており母の隣で涙を流していた。その涙が悔し涙だった事に間違いないが、それは母を助ける事が出来ない無力な自分に対してか、自分達をまるで虫けらのように扱う子爵家に対してか、はたまたその両方か……その時の私には判断をすることができなかった。








その翌日の早朝、まるでこの地獄から解放されることを祝福するかの様な穏やかな朝日が部屋へと差し込む中、私のただ1人の大切な人はその朝日に負けないくらい穏やかな表情で息を引き取ったのである。

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