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3. 窓の次は扉

「うわああぁぁああああ!」


 今日も今日とて同じ夢を見て、同じように発狂する修也である。

 壁に掛けてあった時計を見ると朝の七時を指していた。


「はぁ、あれから一日か。知樹や他のみんなは元気かな」


 現実味のない体験をしたからこそ、元の現実が恋しくなる。

 漫画やアニメの異世界転生者も同じ気持ちなのだろうか。

 そんなことを考えていると扉からノックの音が聞こえた。


「あの、修也さん。今入ってもよろしいでしょうか?」

(やっべ、早く布団の中にもぐりこまないと)


 ノックの主は修也の許可も取らずにゆっくりと扉を開けて、ゆっくりと閉めた。


「だ、大丈夫だから、今はちゃんと布団に入ってるから」

「そうですか、ならよかったです。ご飯を持ってきたのでよかったら」


 そう言って、この家の主にして異世界転生者の修也を泊めてくれた子供と変わらぬ超低身長のナノ・ハルバードリッチが入ってきた。

 修也が極度の子供嫌いということがあり布団に潜って直視しないようにしないとまともに話も出来ない。


(そういえば昨日は気絶したからなにも食べてないな)

「ありがとう。後で食べるから、どこかに置いといてくれ」

「わかりました。それから」


 閉めたはずの扉がまた開く音がする。

 この家にもうひとりだれかがいるのだろうか。


「昨日はドタバタしていて結局紹介できなかったのですが」


 足音、一歩一歩の感覚が大きい。これだけでもこの世界の人間じゃないことはわかる。


(俺と同じタイミングで転生した奴かな)


 最後の足音が聞こえなくなった。位置的には修也が潜り込んでいるベットの真ん前にいる。


「よお、修也! 相変わらずその子供嫌いは治ってないみたいだな。」


 聞き覚えのある声、喋り方、なにより修也の名前を知っている。これだけで修也の中ではこの人物が誰なのかを確信することができた。


「その声。知樹か!」

「お前なぁ、久しぶりに会ったんだから。顔ぐらい見せろよ」

「悪いが断る、俺はそいつを直視すると死んでしまう!」

「いくらなんでも今のはひどいです! 心に言葉の矢がグサッて飛んできました!」


 自身の主張を訴えるナノ。そんな言葉が修也に通用するわけがなく。


「悪いが、俺は幼女に情をかけてやることなんか出来ないな」

「本当にごめんねナノちゃん。こいつ実際は良い奴なんだよ」


 知樹がフォローを入れるも、ナノの機嫌が治ることは無く。


「もういいです。何というか、あきらめがついてますから」


 幼女にあきれられる修也って一体。

 とはいってもナノは実際の年齢が22歳だから幼女のカテゴリーに入るかどうかは微妙だが、もう見た目が受け付けないから幼女なんだろう。


「とにかく、今日こそちゃんと説明を受けてもらいますね。じゃないと先に進みませんから」

「わかったよ。お前もちゃんと聞けよ?」

「後で知樹から説明を受けるから寝てていい?」

「俺がお前を永遠の眠りにつかせてやろうか」

「すいませんでした」


 そんなこんなで修也たちはナノからこの世界について説明を受けることになった。

 修也は昨日みたいにベットの上で布団にくるまり。ナノと知樹はベットの隣に椅子を用意して座っている。

 説明をざっくりまとめると『この世界には魔法がある』『この世界には修也たちのような身長の持ち主は一割の転生者しかいない』これが昨日聞いた話だ。


「やっぱり信じられないな。異世界に来ちまったなんて」

「とにかく、今後の目標を決めないと。ナノちゃん、俺たちはここからどうすればいいかな」


 異世界に来たばかりで何をどうすればよいのかがわからなくなる。

 ここは先住民に聞くのが一番だと思い、知樹はナノにこれから何をするべきかの指南を頼んだ。


「うーん、そうですね。とりあえず都市を目指すのはどうでしょうか」

「都市?」

「ここは魔導大国ライブラリという国の領地でナギド村といいます。少し遠いですが、街を転々と移動しながら都市のイルナスに行けば異世界人もいっぱいいると思いますし、今後の目標も決まると思います」


 どうやら都市に行けば異世界人もそこそこいるそうだ。同じ境遇の人たちから話を聞けば自分たちが次に何をするべきかヒントを聞けるだろう。

 そう考えた知樹は、とりあえず都市に行くことに決めた。


「よし! それじゃあまずはそのイルナスって都市に行くことにするか! 修也もほら、さっさと布団から出ろよ。ここにずっといるわけにもいかないんだし」

「そりゃそうだけど……」

「だったら、さっさと荷支度をすませて出るぞ」

「わかった……うだうだ言ってても仕方ないし……」


 こうゆう時は悩んでないで行動に移した方が、かえって順当に物事が進む。

 それに無理矢理感は否めないが、修也としてはちゃちゃとここから出ていくに限るのである。

 修也たちはナノの力も借りながら旅に出る荷支度をした。

 主に数日の食糧、旅の旅金、隣町までの地図、その他もろもろをリュックに詰め込み家を出ようとした。


「ほんの少しの間だったが世話になったな。不本意だが礼を言う」


 荷支度のときも全くナノを視界に入れず、別れの際も扉を前にナノに背を向けたままとりあえず礼を言う。


「なんでそんなに上から目線なんだよ……泊めてくれてありがとうね、またいつか会えたら一緒にお話でもしようか」

(この会話で知樹がロリコンじゃないとか、あり得ないんですけど。っていうか俺からしてみれば子供とまともに会話できる奴は全員ロリコンでいいと思う)


 今さらっととんでもない定義を思いついた修也だったがこれを言うと知樹になにをされるか分かったもんじゃないため、あえて口には出さないでおいた。

 ちなみにナノの方を見たくない修也は別れの挨拶も扉を前に、ナノを背にして後ろの悪魔を見やることなく礼だけ言った。


「さて、ここから俺たちの新しい旅が始まるんだな」

「ああ、修也、これからよろしく頼むな!」

「こちらこそだ!」


 親友との異世界で大冒険。これほど男として熱く燃える展開はあり得るだろうか。普通の人生を送ってたんじゃこんなドキドキには巡り合うことは絶対にない。

 この扉を開けた先に修也たち二人の大冒険が待ち受けている。


(そういえば、何か忘れているような? まあいいか)


 修也は震える手でドアノブをつかみ、ゆっくりと回した、そして恐る恐る扉を開ける。


「あ、まて! 修也!」

「え?」


 知樹が俺を止めるのがあと少し早ければ。あるいは一番忘れちゃいけない修也が思い出していれば。

 大冒険に心躍らしていた修也の目の前には異世界風の住宅街。

 今は真昼間。当然、眼下に広がる街よりも先に目に入ったのは年齢不詳の見た目が子供なロリショタ達なわけで。

 これを見たからには現実逃避のために気絶せざる終えなくなる修也。

 結局は内心テンションが最高潮で自分の弱点を忘れていた修也が一番子供だった訳である。

 修也はそのまま静かに目を閉じて、顔面から盛大に倒れて気絶するのだった。

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