第7話 盗賊団
「失敗しただと?」
不機嫌そうな声が、洞窟内に響く。
その声はまだ若く、精々20代半ばくらいの男のものだ。
声の主は、地面から突き出た岩を椅子がわりにして座っている。
その身体は引き締まった長身であり、ボサボサの黒髪も合わさって、野性的な雰囲気を全身から醸し出していた。
しかし、その何処かふてぶてしくはあるが、精悍な顔つきは美形の部類に入る。
彼は背には一振りの大剣を背負っており、また腰にも剣が一振り。
おそらくは剣士なのだろう。
そんな彼の背後には、屈強な戦士風の男が2人控えていた。
また、彼らの眼前には地べたに土下座をして伏せている2人の男──。
「たかがガキ1人を攫うだけだからって、お前等らに任せたんだぞ?」
「す、すいやせん。クロスの兄貴」
恐れ入ったように、2人は答えた。
彼らはサリアを誘拐しようとした2人組だ。
その身体は、全身が土で汚れている。
彼らは奇跡的に騎士団が駆けつける前に覚醒し、土砂から半身を引き出すことに成功した。
そしてようやく、この隠れ家である洞窟へ逃げ帰ってきたのだ。
もう少し逃走するのが遅れていれば、今頃は牢屋の中であったはずだ。
「し、仕方がなかったんス。
変な野郎が邪魔に入りやがって」
「変な野郎だと?」
「ええ、ヒョロッとした学者風の兄ちゃんで……」
「そんな奴に後れを取ったって言うのかっ!」
クロスの声に怒りが籠もる。
それを聞き、2人は額を地面に擦り付けんばかりに、頭を更に低くした。
「で、でも、そいつときたら、俺達が2人がかりで斬りつけても、ヒョイヒョイと避けちまうし、つかみ所の無い奴で……」
「2人がかりで斬りつけても?」
クロスは興味ありげに表情を動かす。
彼から見れば、街のチンピラの域を出ない程度の実力しかない部下の2人であったが、それでも武器を持った彼らに襲われて、一般人が無事で済むはずがない。
「しかも、あいつの手が光ったと思ったら、急に崖が崩れたんですよ」
と、彼らは必死で弁明する。
クロスが本気で怒ると手がつけられないことを、2人は嫌と言うほど味わっているのだ。
「はは~ん、おもしれぇ話じゃないか。
2人がかりの斬撃を避けちまうだけでもなかなかの達人だが、手が光るとは……。
そいつァ、魔法使いか何かか?」
「ま、魔法使いぃ!?」
クロスの言葉に、一同はギョッとする。
「し、しかし、クロス様っ!
魔法はこの大陸では使えないはずじゃあっ!?」
クロスの背後に控えていた2人組の片割れが、取り乱したような口調で疑問を口にした。
彼の言う通り、このスティグマ大陸では100年前に魔法が封じられて以来、魔法は使えないことになっている。
「だがお前達、よく考えてみろ。
確かにこの大陸では魔法が使えねぇ。
しかも、他の大陸では当たり前のように魔法を使っていた奴までが、この大陸に入った途端魔法が使えなくなる。
しかし、どうやったらそこまで徹底的に、魔法を封じることができるって言うんだ?
それこそ魔法の力を使っているとしか、思えないじゃねぇか」
「そう……言われて見れば……」
「つまり、この大陸でも魔法は未だに生きているのさ。
ただ、それを使う為に必要な何かが、本来の形からねじ曲げられているんだろうよ。
それを解き明かせば、魔法を復活させることも不可能じゃねぇ。
100年もあれば、それができた奴の1人や2人いてもおかしくねぇだろ」
「しかし……その話が本当だとしたら、これは金になりやすぜ。
それこそ、田舎領主の娘を攫うよりも何倍もの金が」
「ああ、魔法の使い方なら、高い金出して欲しがる奴がゴマンといるっスよ!」
と、子分達は興奮気味だ。
しかし、クロスは、
「ふん……金か、くだらねぇ」
「あ……兄貴?」
クロスの言葉を受けて、子分達の顔に困惑の色が浮かぶ。
貧しい彼らからしてみれば、金はくだらなくはない重要な物だ。
「金なんかどうでもいいさ。
俺が欲しいのは、この剣で得られる名声よ。
『最強』と言う名のな!
それさえ有れば、富なんて物は後から勝手についてくるだろうよ」
と、クロスは腰の剣をわずかに抜き、楽しげな笑みを浮かべた。
「それじゃあ……兄貴?」
「ああ、その魔術士をぶっ倒すぜ。
この大陸でどれほどの魔法が使えるのか、興味あるしな。
運よくそいつが生きていたら、魔法の使い方を聞き出すなり、てめぇらで好きにしろや」
「オオーッ!」
洞窟の中には、男達の歓声が響き渡った。
今回はブラウザを変えて更新していますが、微妙に勝手が違いますねぇ。
ちなみに、今回新たに登場したクロスの部下2人は、特に役割とかはありません。この作品の原型となる漫画を描いた時に居たので、その名残でそのまま登場しています。