第三話
「あれ?」
気がつくとミシェルは、護衛見習いのアレスに抱き上げられて、慌てた様子で運ばれていた。
「ミシェル様が気が付かれました!」
「頭は痛くないかしら?どこかぶつけたかしら?」
家の中に入ったところだったアレスは、団らん室のソファに運ばれて降ろされると、あちこち調べられた。
躓いて転んだだけで、頭を打ってもいないのに気を失うことはあまりないのだから、心配されて当然だ。
「あのねぇ、ぼく、かみさまにあったよ!」
しかもこの発言だ。
「まぁぁ!天に昇ってしまうところだったのかしら!?お医者様を呼ばないと!」
結局、医者が呼ばれて全身を調べられ、なんともないとお墨付きをもらってミシェルがおやつのパイを口にできたのは、随分と時間がたってからだった。
マリーの焼くパイは美味しい。中の蜜漬けの果物も手作りなのだ。
今日は旬の果物であるルジュの実のパイだった。
「かあさま、ぼくユニークスキルがあってすごいんだって!かみさまがいってた!」
口の周りをルジュと蜜でベタベタにしながら、ミシェルは伝えた。
「ユっ!……まぁ、すごいわね。どんなスキルなのかしら?神様にお会いしたことも、とてもすごいことなのよ。」
母のルナリアは、内心飛び上がりそうなほど驚きながら、顔には出さずに尋ねた。
子供の言うことだ、どこまで本当か、想像が混ざっているかわからない。けれど、ユニークスキルはとても珍しく、その言葉自体をミシェルが知っているはずがないのだ。
神様に会ったというのは本当かもしれない。
「あのね、どろだんご!!」
やっぱり神様に会ったというのは、転んだ衝撃で夢をみただけかもしれない、とルナリアは思った。