第一話
こねこねこね。
4歳のミシェルが作っているのは、泥団子である。
土をあつめて、水をいれて、丸めて、固めて、表面に乾いた砂をつけてみて…
幼児の頃によく作るやつである。
「まぁ、たくさん作ったのね」
様子を見に来た母ルナリアが、遊び場の周りに並んだ泥団子を見て微笑むと、ミシェルは張り切って成果を説明しだした。
「これはねぇ、大きいからとうさまの!こっちのおはながついたのはかあさまので、はっぱつきがぼくの、けんがついたのがにいさま、ちいさいのがモンのでねぇ、アレスのも武器だから大きくしたよ!」
モンはペットの犬に似た魔獣で、アレスはミシェル付きの護衛見習いの12歳である。
ここはロンブレン王国の大領地サンムーン領で、ミシェルは領主である父ランドルと妻ルナリアの間に産まれた次男だ。長男である兄アンドルは8歳で領主教育の真っ最中で忙しいらしい。
「あら、弾にお花をつけるなんて、ミシェルは面白いこと考えるわねぇ」
ルナリアはおっとりと首をかしげ、目を細めた。
「これはおだんごだから、たべるから、かざりつけるんだよ!」
「まぁ、これを食べるの!?」
得意げなミシェルに、母びっくりである。なにしろこれは土だ。
「これはたべないけど、ほんとのはたべるの!」
「そうなの?では大きくなったら ほんとの を食べさせてちょうだいね?」
よくわからないままにも受け止めた。子供はよくわからないことを考えるものだ。これもそんなものの1つだろうと思ったのだ。
「それができたのなら、お家に入りましょう?マリーがパイを焼いたそうよ。」
「パイ!!!」
パイはミシェルの大好きな、蜜漬けの果物が入ったおやつだ。
ミシェルは聞いた途端に走り出し……石に躓いて盛大に転んだのであった。