不思議がいっぱい
階段から落ちました。
事件でもいじめでもありません。事故です。
階段でふざけていた男子がよろめいて、私の背中にぶつかってきたのです。
意識を失った私は病院に運ばれました。
わりとすぐに目覚めましたが、頭を打っているため入院して検査だそうです。
高校入試が終わっていて良かった。
卒業式に出られるかは微妙ですけど。
目覚めていきなり母ににらまれました。
病院に運ばれて間もなく目を覚ました私が、なにやらいろいろやらかして看護師長さんに叱られたらしいのです。
いえ、記憶に無いのですけど……。
うーん……寝ている間に変な夢を見ていたような?
剣と魔法のファンタジー小説のような世界で、なんと私は魔法少女!
すっごいイケメンにも会ったような気がします。
まぁ、夢だけど。
さて。今現在の私の状況を説明しなければなりません。
階段から落ちたら前世の記憶を取り戻した! ⎯⎯とか。
高熱で寝込んで意識を取り戻したら不思議な力に目覚めた!
……などの小説を読んだこともあるのですが。
まさか自分の身にそんなことが起きようとは思ってもみませんでした。
看護師さんが持っていた血圧計を見ると⎯⎯(【血圧計】状態・電池切れ)
「あらやだ、電池が切れてるわ。ご免なさいね林さん。電池を取り替えたらもう一回ね」
廊下でもじもじしている子供を見ると⎯⎯(【3歳児】状態・尿意切迫)
「おしっこー」
「えっ! ちょっと待って! トイレまで待ってー!」
異世界転生ものや異世界召喚ものの鑑定能力みたいですよね。
でも、私の能力じゃないんです。
トイレの鏡で自分を見ると⎯⎯(【解析眼鏡】解析魔法付与・小 、強化魔法付与・小)
私の眼鏡が不思議眼鏡になっていたんです。
だから眼鏡を外すと文字も見えなくなります。
視界の中が文字だらけでうっとうしくて、無意識に手ではらったら文字が消えました。
目の前で手を左から右に動かすと文字が出て、逆に動かすと消えるようです。
これなら眼鏡を買い換えなくても良いですね。前よりも遠くまでよく見えるんですよ。
手を動かす時にカッコつけた台詞を言ったり、ポーズをきめたりなんてしてませんよ。
…………人がいるところでは。
そしてもう1つ。
私は首にかけているペンダントを引っ張りだしました。
幼い頃怖がりだった私に「これを持っていればお化けなんて出ないよ」と言って、祖母がくれた石です。
母が多趣味な友達に頼んでペンダントにしてくれました。
このペンダントを見ると⎯⎯
(【翻訳のペンダント】翻訳魔法付与・中)
このペンダントに前からこんな能力が付いていたわけではありません。
付いていたら私の英語の成績はもっと良かったはずです。
さっき外国人の女性がストレッチャーで運ばれていました。
朦朧としていたようで、何かうわごとを繰り返しているのが気になったんです。
どこの国の言葉かわからなかったけれど、言葉の意味はわかりました。
「赤ちゃん。赤ちゃんが」って⎯⎯。
もしかしたらと思って眼鏡をオンにしたら、⎯⎯(【妊婦・妊娠4か月】状態……)
念のため、近くにいた看護師さんに伝えたら、すぐにストレッチャーについていた看護師さんに伝えてくれました。
このペンダントを身に付けていると知らない外国語でもわかるみたいです。
読み書きも大丈夫そう。
将来の職業選択の幅が広がりました。やったね!
その後私が退院するときに看護師さんがこっそり「母子ともに無事」とだけ教えてくれました。
あの妊婦さんのことですね。
卒業式には無事、間に合いました。
春休みは高校の入学式まで無理せずゆっくり過ごすことにしたのですが……。
友達と近所のフリーマーケットに出かけた時、眼鏡の能力はオフにしていたはずなのに、いきなり視界の隅の方が赤く光ったんです。
(警告! 視界内に魔力を感知)
魔力?
この眼鏡やペンダントみたいな物が他にもあるということですか?
ええ。ありました。
(【未練の指輪】呪文を唱えると霊と話しが出来る。ただし死後1週間以内の霊に限る)
アンティークの指輪です。
素敵なデザインです。
でも買いません。見なかったことにします。
お化けなんか出ない、出ないんです!
その後もいろいろな不思議道具に出会うようになりましたが、どうも微妙なものが多いみたい……。
(【疾風の下駄】履いて呪文を唱えると走る速度が2倍になる)
1本歯の下駄なんて初めて見ました。
走るどころか立っただけで足をくじいてしまいそうです。
(【怪力手袋】はめて呪文を唱えると1秒間だけ握力が2倍になる)
私は握力が弱いので、2倍になっても男の人の平均に達しません。
それに1回使うと次に使えるようになるまで1年かかるみたいですよ?
中には面白い物もけっこうあります。
私、これ買っちゃいました。
(【聞き耳カチューシャ】呪文を唱えると動物と会話をすることができる)
可愛い猫耳が付いたそのカチューシャを買ったら、友達が爆笑していました。
いいのです。
私は隣の五郎ちゃんとお話ししたいのです。
五郎ちゃんは柴犬です。子供の頃から遊んでもらっているのです。
結果は失敗でした。
カチューシャをして呪文を唱えても五郎ちゃんと話しは出来ませんでした。
がっかりしていたら、
「変な人間がいるにゃー」「ほんとだにゃー」
「食べ物の匂いがしないにゃー」「ダメな人間だにゃー」
振り向いたら二匹の猫がいました。
(【聞き耳カチューシャ】呪文を唱えると動物と会話をすることができる※猫用)
成る程、このカチューシャは猫専用のようです。
私はいつか必ず犬耳カチューシャを見つけようと決心したのでした。
快晴の日曜日。今日も恒例の儀式から始めます。
私は部屋の真ん中に長さ1メートルほどの棒を立て、呪文を唱えました。
「********、我に道を示せ!」
棒から手を離すと、しばらく自立していた棒がゆっくりと倒れました。
「今日は……東ね。何かあったかな?」
ネットで調べても、とくにイベントは有りません。
今日はお散歩の日になりそうです。
ちなみにこの棒はただの棒ではありません。
(【決断の杖】呪文を唱えると進むべき道を示す)
こう見えてなかなかの優れものなのです。
このぼ、杖のおかげでたくさんの不思議道具を見つけることができました。
杖ですよ、杖。
気軽に持ち歩けないのが難点ですね。
1メートルの棒を持ち歩く女子高生って……ちょっと危ないかなって。
そういえばこの前、ついに聞き耳カチューシャシリーズの他の動物のを見つけました。
馬用です。
残念ながら私の周辺に馬は1頭もいませんが。
競馬場で使ってみたら?⎯⎯とちらっと考えたのですが。
私15歳でまだ馬券買えませんし。それに……
この聞き耳シリーズ、じつは能力発動中に耳が動くんです。
⎯⎯ピコピコと。
競馬場なんて人がたくさんいるところでピコピコ動く馬耳を付けて、ましてやカメラに撮られたりしたら……私もうお嫁に行けない。
とりあえず馬耳はしまっておくことにしました。
さて、本日の戦利品です。
(【クローゼットの鍵】呪文は************)
クローゼット?
どこの?
アンティークの鍵をペンダントにした物で、なかなか素敵なデザインです。
どこかの指輪みたいな禍々しさも感じられません。
とりあえず自分の部屋で試してみることにしました。
「************」
目の前に扉が現れました。
どこ○○ドア?
あまり大きくはありませんが、どこか西洋の古いお屋敷にでもありそうなしっかりした木製の扉です。
ドキドキしながら扉を開くと、中はけっこう広い倉庫の様になっていました。
服や靴。よくわからない道具。武器のような物。たくさんの書物。
私の視界の中はあっちもこっちもピカピカと赤く光っています。
魔法の道具だらけってことですね。
でも、何より気になるのが、クローゼットの奥にあったもうひとつの扉です。
鍵がかかっていて、私が持っている鍵では開けられませんでした。
あの扉の向こうはどこにつながっているのか? なんだかわくわくしてきました。
とりあえずクローゼットの中の物をひとつひとつ確認していこうと思います。
もうひとつの扉の鍵や⎯⎯もしかしたら犬耳カチューシャがあるかもしれませんからね。