『好きになる』ということ
短編小説です。
大切な方へ居るあなたへ
その日の昼から、俺と佳奈はとある喫茶店で話をしていた。
「別れたくない。」
彼女は俺からの別れ話には断固として拒否した。
「遠距離になるんだぜ?」
俺は、転勤で東京に行くことになった。俺だって別れたくない。だけど、佳奈のことを思ったら、別れるべきかな。と思ったから。
佳奈のことを信じていないわけでは無く、むしろ佳奈のことを信じてるから、俺から別れ話をした。
逆に佳奈から別れ話を切り出されるのが怖かった。
自分勝手だとは分かってる。俺から別れ話をしたら、佳奈は『別れたくない』と言われるのも分かっていた。
「どうして別れたいの?私、何か悪いことした?」
「違う。」
コーヒーカップを置いて、俺は話を続けた。
「佳奈に幸せになってもらいたいから。」
「私、拓也と居てるだけで幸せだよ。」
ドキッとすることを言ってくれた。だけどー……
「遠距離恋愛耐えれるかわかんねえし…」
「やってみなきゃ分からないよ!!」
俺は、心の中で、「ごめん、嘘。俺も佳奈のこと好きだから。」って言った。
「もう、好きじゃなくなった。」
1番の嘘で、1番言ってはいけないことを言ってしまった。佳奈を見ると目に涙があふれていた。
「わかった。それならしょうがないね。」
佳奈は冷静にペアリングを机に置き
「さようなら。」
と言って喫茶店を出てしまった。
それが俺に言った最期の言葉だと、そのときはまだわからなかった。
俺はただ、呆然としてしまった。そして後悔した。ひどいことを言ってしまった。俺は急いで会計を済ませて、喫茶店を飛び出した。
後ろから救急車とパトカーがサイレンを鳴らして走っていった。慌ただしいなあ。と思いながら、自然と佳奈の家に向かっていた。
こっちであってたよな……。
50mくらい先に救急車とパトカーが止まっていた。すぐに救急車がサイレンを鳴らしながら病院へ向かって走ってゆく。
「事故か?」
不思議に思いながら、パトカーの前を過ぎようとしたとき、聞き覚えのある声がした。
「佳奈……佳奈!!!」
そこには、泣き崩れている佳奈のお姉さんが居た。
「満里奈さん!」
俺はすぐに声をかけた。佳奈がどうしたんだー…?
「佳奈が……。事故にあっちゃった……。」
「え…?」
「病院に……運ばれた…病院…行かなきゃ……。」
「俺も行きます!」
佳奈のお姉さんと俺はタクシーで病院に向かった…が…。
佳奈は、亡くなった。
「佳奈ぁぁぁあ!」
佳奈のお姉さんが泣き叫ぶ。
佳奈……。
俺は言葉すら出なかった。
もし、あのとき、俺が別れ話をしなかったら、佳奈は死ぬことはなかったのに……。
「佳奈ぁぁ!」
やっと声が出て、肩をトントンとされた。
「たっくん!」
佳奈の声だ。佳奈は生きてるのかー…?
「大丈夫?」
佳奈が俺の顔を覗き込んだ。
「あれ…?佳奈…?」
佳奈は生きていた。目の前に佳奈が居る。
「大きな声で呼ぶからびっくりしたよ。」
「え?」
気づいたら、俺の部屋に居た。もちろん、満里奈さんも居なければ、パトカーも止まっていない。
「佳奈……?」
「もー、さっきから呼びすぎ!夜ご飯出来たよ。」
そこで、俺は気づいた。夢を見ていたことを。
「佳奈。」
「んー?」
俺は黙って佳奈を抱いた。
「拓也、いきなりどうしたのー?」
「ずっと傍にいろよ。」
佳奈は頭に?を浮かべている。
いいんだ。佳奈にはわからなくて。
ひとことで助けることも出来るが、ひとことで傷つけることもある。
俺は本当に東京に転勤するが、佳奈が悲しまないように、この恋を大事にしよう。
佳奈、ありがとう。
大切なことに気づけたよ。
これからも、いや、ずっと好きだから、その笑顔を俺に見せてほしい。
俺だけの佳奈でありますように。と願いながら、俺は優しく、強く佳奈を抱きしめた。
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