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白銀の斧

作者: なるがうす

大学でイギリス史をやっていて「ハドリアヌスの壁」という名前に惚れたんで、深夜のテンションで書きましたw


『白銀の斧』




ある日、宝箱が空から落ちてきた。それは巨大な隕石だった。


『ミルナルト』。隕石の中に存在した金属鉱物。それは常温ではスライム状だが、温度を上昇させると形状変化しダイヤモンドの如く固くなる物質だ。


元々は建築関係に使うために発掘がすすめられたが、誰かがふと気づいてしまったのだ。




────これは兵器に使える、と。




 構造は簡単だ。ミルナルトに何百個もの『Rチップ』という極小な受信機を混ぜ合わせ、頭に設置した『Tリンカー』という発信機の命令で動くというものだ。つまり、頭で「孫の手で背中をかきたい」と思ったら、瞬時にTリンカーが孫の手を想像してRチップがミルナルトを動かす。あとはチップが発熱したら固まるので頭に思い描いた様々なものができるというものだ。




しかし、欠点もあった。TリンカーとRチップにはどうしても受信距離という制限が生まれてしまった。ミルナルトを熱するために、チップも耐熱性に優れたものにするため、この問題は致し方ないとされ、自然と戦い方は白兵戦へと形が変わっていった。




隕石が落ちた国の『ナータル』は国の発展のため、『ミルナルトを発掘したら、その3分の1を譲渡する』という条件で協力を要請した。国々は次々に、その要求を承諾しようとしたが、ナータルの大統領はそれを一切受け入れなかった。だが、それにより恐れていた事態が起きてしまった。




戦争だ。




ミルナルトを強奪しようと、世界の二大先進国の『グラーゼ』と『ゼニア』が争い始めた、ここナータルで……




 『ミルナータ』と名付けられたその武器で最も有効に扱えるのは、創造力豊かな子どもたちであると考えられた。国は高額な保証金の代わりに子どもの出兵化を勧めた。少年兵の子供たちは皆『ナァーティ』と呼ばれていた。




ここに座っている『ウィード』もミルナータの才能があるとして、グラーゼのナァーティになった青年の一人である。




今年で17歳になる彼の昔は表情を体全体で表現する明るい少年だった。しかし、この戦争が明るい少年を押さえつけ、暗く無感情な少年を作り上げてしまった。今も彼は教官の話を面倒そうに聞いている。




「本日未明、2人のナァーティが脱走をしようとしていたので『メルガキメラ』によって消去された。お前たちも絶対真似は……」




ブー!ブー!




真っ赤に光るサイレンが施設の中を鳴り響かせ、教官の声を遮った。どうやら敵が侵入してきたらしい。




「またか、腹減った」




ウィードは苦言を漏らしながら体に最低限の武具をつける。四肢はミルナータの影響で火傷の跡ができていた。


頭と腰にそれぞれTリンカーとRチップを装着し、ウィードは外へ出た。








『────ウィード、こちらトーバ!あ、敵発見。前方より5人、接近中!あぁ援護を頼む!』




扉が開くと地平線がよく見える砂漠が広がっている。静かなそこに無線で誰かの慌てふためく声が聞こえたが、彼だけは冷静だった。




「3人は俺がやる、後の2人は……まぁ、適当に頼む」




『て、適当!?ラ、ラジャー!』




相手の武器はなんだろうか、マシンガンかな、それとも俺らと同じミルナータか。ウィードは晩御飯の献立を見るような感覚で3人を見ていた。




「なんだ、マシンガンか。なら楽勝だな」




5つの銃口がウィードに向けられる。だが、恐怖は感じない。もとよりこの戦場に生きていくうえでそのような感情は不要だ。




ただ、頭に思い描くのは丸い盾のみ。すると、背中に2本ある2本の筒の中の1本が蓋を開ける。そこからミルナータが生き物のように彼の前に現れ、バックラーを作り出す。それはマシンガンの弾をまるで豆鉄砲のように跳ね返していった。当たり前だ、この盾は例え12.7ミリの対物ライフルの弾だろうと跳ね返す。それをたかが5.56か7.62かは分からないが、その程度の弾がこれを打ち破ることなどペンギンが空を飛ぶ可能性よりも低いだろう。




「そろそろか」




ウィードはバックラーの中心に穴をあけると同時に、もう1本の筒からミルナータを出した。




「死ね」




ウィードは感情の全くこもっていないセリフを吐き捨てると同時にミルナータを穴に潜らせ、3人の敵兵を貫いた。




他の2人は逃げようとしていたので、武器だけ破壊して見逃した。まぁ、さっき無線で話した奴が殺しておいてくれるだろうとウィードは思った。彼らも短い命だろう。






ギシンッ! ギシンッ!




基地へと帰る途中、ウィードは何か重々しく金属が擦れるような音がしたので、興味本位で音のなるほうへ足を動かした。土煙がもくもくと舞い上がり、その先に何か巨大な影が見えた。




ギシンッ!! ギシンッ!!!




進めば進むほど音は大きくなっていく。進んでいくにつれて、土煙が大きくなっていった。




「まさか……本当に存在したなんて…!」




ウィードが何年も昔に亡くしたはずの感情という針が心を覆っていた風船に穴を空ける。




見上げるほど高く、大きい機械が……否、それはもはや物という名前は可愛すぎる。それは絶望を具現化したようなものだった。




ウィードの足が笑っている。目の前に彼とほぼ同じほどの大きさの『脚』が落ちてくる。砂埃は舞い上がり、男子には少し長い髪が乱れる。






無人の対ナァーティ殺戮兵器、メルガキメラ。グラーゼの兵士が自国のナァーティが脱走するのを阻止するために造られた、動く要塞だ。


歩く度に4つある脚関節の機器が火花を散らし、所々黒煙が待っている。そして、体中にミルナータや1世代古い金属機器の武器が設置してある。




『ナァーティ発見、コード564を実行します』




ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!




銃口から眩いマズルフラッシュが、ウィードの鼓膜が破けそうな程の音が鳴り響き、思わず彼は目を閉じた。目を開けると数メートル前ぐらいから銃弾の痕があり、それは真っ直ぐこちらに進んでいる。そして、彼の肘に穴を空けていた。



「うわぁぁぁぁ!」



ボトッと彼の体からそれが零れ落ちる。




止血、止血、止血!




彼の頭の中にはそれしか存在しなかった。Tリンカーはそれを受け取り、Rチップがそれを読み取って止血し始める。ぎゅっと彼の腕を握りつぶす。ミチミチっと筋肉が押しつぶされる音がどこか遠いところから聞こえる。赤い血と、黄色い脂肪の絵具が地面に色彩を加える。




「はぁ、はぁ、はぁ」




顔中に脂汗をかいている。だが、メルガキルガは悶えている彼なんてお構いなしにミルナータでハンマーを作り上げ、目にも見えない速度で横殴りにそれをこちらに迫ってくる。




彼は先ほど同様に盾を作成するが、激痛で意識が朦朧としている中では中に金属が入っているだけの的だ。




ハンマーと的が衝突した瞬間、所々にひびを作りながら盾が吹き飛んだ。その衝撃はそのままウィードに襲い掛かった。


口から血を吐き、所々の骨は折れて皮膚を貫いている。ピクピクっと動いてはいるが、ほっておいても死ぬだろうと認識したのか、それとも新たな執行対象を発見したのか、メルガキメラは去っていった。


***


「────ウッ!」


ウィードは激痛で目を覚ました。


「ここはどこだ……?」


暖炉には灯がともり、目の前のテーブルには古本などが置いてある。右手でそれを取ろうとして、あることに気づいた。




「あれは、夢じゃなかったのか……」




肘あたりから上手に包帯が巻いてある。改めて彼は自分の体を見てみると、包帯が体中に巻いてあった。




コツコツコツ……




ドアのほうから誰かが歩いてくる。ギィーと古めかしいそれが開かれ、誰かが出てくる。




「あ…。その、目…覚ましましたか……?」




15歳ぐらいだろうか、乱れた髪は砂漠の色をしていた。




「お前は誰だ」




助けてもらったというのに、彼は野良犬のように彼女を警戒しはじめる。仕方ないといえば仕方ないであろう、何せそのような世界でしか長らく生きてこなかったのだから。だが、そのようなことを彼女が知っているはずもなく、すっとドアの縁に隠れてしまう。




「あ…その…」




ウィードは右手で頭をかきながらため息を零す。




「すまない、脅えさせる気はなかったんだ。助けてくれてありがとう、助かった」




手を背中で隠しながら、ちょこちょこっと小動物のようにテーブルの近くにある椅子に座った。




「い、いえ…かわいそうだったから……あと…その、これ!」




彼女は殴るようにウィードの口にリンゴを押し込んでくる。




「オゴッ!」




何とかそれを噛み砕き食べつくす。




「こ……こ、殺す気かぁー!」




「その、殺す気はなかったんです……」




「いやいやいや、俺まだ生きてるから!死んでないから!」




彼はこれだけでどっと疲れてしまった。




「そうだ、自己紹介がまだだったな。俺はウィード、グラーゼのウィードだ。お前の名前はなんて言うんだ?」




その瞬間、彼女の体がビクッとしたが、彼は気づかなかった。




「私の名前はエリーゼ、ナータルのエリーゼです」




「ナータル…だって……?戦争の被害者がなんで俺なんかを助けた。お前は俺たちを恨んでいないのか?俺の軍服には国旗が描いてあったはずなのに、見えていなかったのか?」




「その……失礼かもしれませんが、どうして助けてはいけなかったのですか?同じ人間なのに……そんなの悲しいじゃないですか」




「それは……」




ウィードは言葉に詰まった。だって、そのようなこと考えたこともなかったのだ。彼は昔から敵=排除対象としか考えていなかったし、そうやってずっと教え込まれてきたのだから……




エリーゼは数ヶ月にもわたってウィードを看病した。医療の知識があったのか、ボロボロだった彼の体は左手を残して、完治させることが出来た。そして、彼はある1つの感情が芽生え始めた。




「ありがとう、エリーゼ。」




食器を洗いながら、エリーゼは振り向きながら恥ずかしそうに微笑んだ。




「いえ、そんなこと言うなんて、ウィードさんらしくもない」




その笑顔を助けてあげたいと、今度は自分が君を救う番だと。




「エリーゼ、その…一緒に国の外に出ないか?」




言われた彼女はキョトンとしているが、ウィードは言葉を続ける。




「エリーゼ、お前をこれ以上つらい思いをさせたくないんだ。大丈夫、お前は俺が絶対に守るから、どんな奴からも守って見せるから、だから!」




エリーゼはウィードの左手をぎゅっと握り、それを自分の頬にあてた。




「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私はウィードさんのことを頼りにしていますから」




2人は国境を越えるための旅に出ることを決意した。






だが、国境を越えるにはある1つの問題があった。そう、耳を澄ませば聞こえるだろう、あのメルガキメラの脚音が。




ギシンッ!ギシンッ!ギシンッ!!




「エリーゼ、ここに隠れていろ」




砂嵐を防ぐために着ていたマントを脱ぐ。メルガキメラの脚が彼に向けられる。




「よう、久しぶりだな」




砂をゴリゴリとつぶしながら聞こえるモーター音。そして、錆色に染まった銃口を向けられ……




ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!




挨拶代わりなのか、言葉に対して鉛でメルガキメラは答えてくる。




「装着、強化」




言葉とともに、ウィードは自らの足には補助具のようなものを静かに装備し、失っていた右手にもミルナータでできた義手が取り付けられる。彼は砂を蹴り、その衝撃は砂漠に爆風が巻き起こす。数十メートルもあった彼らの間合いをウィードは何発もの銃弾をかわしながら詰めていく。だが、一発目も前にかわせない銃弾がウィードめがけて飛んでくる。それを白銀の腕で殴りつぶす。




メルガキメラは何も成果を出せない自分の武器に激怒したのか、何本も装備されたミルナータを一斉に触手の如き見た目のものが、うねりながらウィードに襲い掛かる。


しかし、今の彼はあの時やられた彼ではない。確かに筋肉は減少し、体も昔に比べたら重く、鉛のようだ。しかし、同じように「ミルナータの強さを左右するのもそれか」と聞かれたら答えは、否だ。




ミルナータの強さの源は「心の強さ」、「イメージ力」。だから彼はただ一心に念じた。あの時救ってくれた少女と、大昔に王国を救ったという伝説の壁を。


「エリーゼを守り抜け、ウォール・オブ・ハドリアヌス!」



足と腕以外全てのミルナータを使い、鉄壁の壁を作り出す。それに対し、何十倍もの質量を誇る触手が襲い掛かり、衝突する。




 津波のような砂が彼にのしかかる。息ができない、体が動かない、でもそれでも、こんな!




「こんな、こんな!ただの機械なんかに負けるものかぁ!!!!!」




砂の山から一本の手が突き出される。それは時計の針のようにねじる動作をし始める。すると、壁も触手を咀嚼するように吸収し始めた。そしてそれは巨大な、とても巨大な斧となった。




バシッとその白銀の腕は斧を掴み、乱暴に一回転振り回す。たったそれだけの動作で、砂山は消し飛び、ウィードが姿を現す。




「よかったな、メルガキメラ。お前は恐怖を感じないんだろう?」




一瞬、メルガキメラが後退りのようなしぐさをした。果たしてそれは機械の感情か、それとも今まで殺してきた子どもたちの真似なのか……




「────やっちゃえ、ウィードさん!!!」




どこかで声が聞こえる。目の前に聞こえるのは、ただならぬモーター音。それがメルガキメラの悲鳴に彼は聞こえた。




「セァー!」




大きな掛け声とともに、その刃は装甲、器具、ケーブなどを斬り裂く。あるもの全てを刃が破壊していく。




バチーン!と彼の顔の前でスパークが起きる。だがそれでも刃は止まらない。そして遂に、彼の腕はスッと軽くなった。そう、子供たちを殺し続けた殺戮兵器メルガキメラは綺麗にスライスされ、破壊されていた。




ザッザッザ




砂の上を歩く、彼女のいるところに。




「終わったのですか?」




エリーゼはどこか不安そうな表情をしている。それに対し、ウィードは今まで見せたことのないような、どこか疲れた、しかし、優しく微笑んだ。そしてその首は横に振られた。




「いいや、まだだ」




と言って、彼は踵を返した。エリーゼも「ええ」と言いたげな表情ではウィードの後ろについていった。




***




ウィードが行方不明になって1年が経ち、2年目を過ぎようとしていた。周りのみんなからは「もう諦めろ」と言われていたが、トーバは諦めきれないでいた。あの人が死ぬはずはない、と信じ続けている。




未だに戦争は続いている。1年ほど前だっただろうか、戦局は大きく変わっていった。2つの国の他に「革命軍」というのが現れたらしい。どうやら、ナァーティとなる子供たちや国の所々に存在するメルガキメラの破壊などをしているらしい。


 トーバが日課にしている日記を書いていると


ブー!ブー!ブー!




と警報のブザーが基地内に鳴り響き、全員の顔が引き締まる。しかし、次の瞬間、基地に巨大なロボットが何台も現れた。


「メルガキメラ……じゃあ、あれが革命軍……?」


すると、それに乗っていた()()の少し長髪の青年は演説を始める。



「自由に縋る者たちよ、解放の時はきた。今こそ争いのない世界を作ろう!」


そして、肘までの右手が掲げられ、そこから腕が生え巨大な白銀の斧を握る。


「────俺の名はウィード、革命家ウィードだ!」

長編の小説も書いてます、お時間がありましたらどうぞ。

結局宣伝かい!

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