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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章

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古き偉大なる賢者

「まず、敵意はないし戦うつもりはない……俺はここに話し合いをしに来た」

「話し合い、か。しかしその動きはどうやら、君達と一緒にいる者達の見解とは違うようだね」


 その指摘を受け、俺は魔王ディリオンがこちらの状況を完璧に把握しているのだと認識する。


「確かにそうだな……俺は完璧に独断で動いている」

「それは何か理由があるのかい?」


 ……よし、ここでいくとするか。ただ問題はメルだよなあ。俺に敵対していた節もあったし――


「……その内容を話す前に、一つ確認だ」

「ああ、いいよ」

「理由を語るとたぶんあんたの護衛を務めるであろうそこのメイドが怒り出すと思うんだが……」

「ふむ、なるほどね。というわけでメル、私の後ろにいなさい」

「護衛が主の後ろにいるのはおかしいでしょう!?」

「彼が護衛を引きはがして攻めてくるとは思えないよ。それに、仮にそうだとしても一人だ。私なら魔力を起動してから動きを察知することができるし、対処はできるさ」

「し、しかし……」

「なら剣でも置こうか?」


 こちらの言及にメルは目を丸くした。まさかの提案に度肝を抜かれたらしい。


「……ずいぶんと私を信用するんだね」


 それに対し魔王ディリオンは極めて冷静な声音。こちらは、


「そっちが敵意がないことを感じているように、こっちもあんたの気配に殺気がないのはわかる」


 そう言いながら俺は剣を床に投げた。カランカランと音を立てて転がる剣を見て、魔王は一言。


「どうしても話し合いか……わかった、いいだろう」

「よ、よろしいのですか?」


 メルが問い掛けてくる。ディリオンは即座に頷き、


「人間がこうして魔王の私に話を持ちかけてくる……どういう内容かまずは聞こうじゃないか」


 ……うん、改めて思うが、彼は七百年前とまったく思考が変わっていないな。

 そして彼は言葉を待つ。よし、ならば――


「……ガーノ、サシャン、フレミル」


 俺はそう口にした。それにディリオンに加えメルもまた、目を見開く。


「……え?」

「そちらの側近……メルの部下の名で記憶しているのはそのくらいか。以前ここに来た時はずいぶんと賑やかだったが、そうした部下達はどうしたんだ?」


 こちらの問い掛けにディリオンと沈黙する。俺の言葉をどう解釈しているのか……やがて、


「……なるほど、この城に来訪した経験があるということは、人間であると詐称している……とはいえ、気配そのものは人間だね。転生でもしたのかい?」

「話が早くて助かる。そういうことだ」


 この段に至りメルの方もどうやら事情が特殊であると認識したらしく、困惑した表情を浮かべている。一方でディリオンは事情を飲み込み、


「私が世界から消えどの程度経過しているのかわからないが、少なくとも何百年単位だろう。にも関わらず憶えている以上は人ではないね。君は誰だい?」


 返答として、俺は魔王ヴィルデアルの魔力を発した。それでディリオンも理解できたらしく、


「……あなたは、そうか。古き偉大なる賢者か」

「その言い方、俺は訂正してくれと言っても一向に聞かなかったよな……」

「そうだったかな?」


 小首を傾げるディリオン――ちなみに彼が話した異名は過去出会った時に「魔王が出現した際、人間達に色々と技術などを教授している」という意味合いのことを説明した結果、彼が勝手に呼び始めたものである。


「はあ、まあいいよ。こっちの事情は理解してくれたと思うけど」

「そうだね。しかしまたこうして出会うとは……」

「その辺りの事情を聞きたくて来たんだよ。なおかつ何もしていないってことは人間側の情報を持っているわけじゃないだろ? 情報交換しようじゃないか」


 こちらの提案にディリオンは「いいね」と同意し、


「ああ、それが一番望ましいね。けれど調査をしている人達は無視で大丈夫かい?」

「そっちはどこにいるのか把握しているんだろ? だったら接近してきたらどうするか考えればいいだろう」

「む、確かにそうだね……よし、それじゃあ話し合いといこう。メル、お茶を頼むよ」

「は、はい」


 展開が凄まじいためか護衛の彼女はなおも困惑しながら移動する。そしてディリオンはこちらに微笑を向け、


「歓迎しよう、偉大なる賢者殿。また会えて、光栄に思う――」






 ディリオンに案内された一室は窓を開放された小綺麗な客室。そよ風が室内に入り込み、快適に過ごせそうな場所だ。


「さて、賢者殿――」

「あー、今はフィス=レフジェルという名前だからそう呼んでくれ」

「わかった。それでまず訊きたいのは、なぜ人間に?」


 ――というわけで、俺はディリオンへ経緯を説明し始めた。その間にメルがお茶を持ってくる。ちなみにこのお茶はどこから持ってきたのか尋ねると、島に生えていると返答が来た。

 で、その間にも延々と説明を加える。メルも傍に控えて事情を聞くことになり、ディリオンは七百年経過しているという事実に加え、俺が彼と似たような結末を辿ったことを聞き、悲しそうな表情を浮かべた。


「そうか、フィスも同じように……しかも自らの命を犠牲にしてか」

「そうだな。結果的に転生したわけで、理由などは不明瞭だけど……俺にはまだやることがあるみたいだから、これはこれで良かったと思っている」

「やること……私や他に存在していた古の魔王を復活させた存在を討つ、か」


 ――ディリオンにはヴァルトについて言及しなかった。あくまで今まで得た情報から「そういう存在がいる」という結論から調べているとだけ語った。ヴァルトについてはできる限り情報を伏せて起きたかったのだ。

 それに対しディリオンは笑みを浮かべるだけ……俺が意図的に情報を伏せていることはなんとなく推測しているみたいだけど、追及はしてこなかった。


「うん、事情はわかった。大陸側の情勢もわかったし、どうするかは考えられる」

「……確認だけど、部下はメルしかいないのか?」

「城には魔力が存在するし、復活させることはできるよ。しかし斥候が入り込んでいる以上、戦いが近い……復活させて痛い思いをして欲しくはないかな」

「それが私達の役目ですが……」


 メルが告げる。ディリオンは「そうだね」と応じたが、納得はしていない様子。


「その辺りの話は後にしよう。俺はまず確認したい。復活した経緯について」


 言及にディリオンは「わかった」と応じ、言葉を待つ。そこで俺は彼に尋ねた。


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