表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/190

単独行動

 魔王の城の外観は白を基調としたもので、人間のそれとほとんど変わらない。ただ山々の間にあるため侵入するのがずいぶんと難しそうな印象を受ける。


「あれは攻めにくそうだね」


 チェルシーは感想を述べた後、城を凝視し、


「軍隊を用いて攻め込むより、少数精鋭で踏み込んで魔王と戦う方が楽かもしれないね」

「かも、しれませんね」


 魔術師は同意の言葉を述べ、


「できる限り城へ近づきたいところですね……侵入経路を見つけなければ」


 ――ちなみにこの時点まで魔物と遭遇しているわけではない。そもそも気配一つないので完全に魔物がゼロだという結論に内心至っている。


 で、肝心の魔王ディリオンなのだが……これたぶん、何も活動してないな。復活してそれきりだ。

 じゃあなぜヴァルトが復活させたのかわからないのだが……まあここは当事者であるディリオンから情報を得るとしよう。で、それをするためには――


 内心で考える間に俺達は山を進む。そこからはずいぶんと背の高い森が存在し、それを抜けるとまた山である。

 作戦を実行するのは今のうちがいいだろう……というわけで、森に入る。海岸線近くの森と比べてもずいぶん魔力が濃い。魔王の城が近いからだな。


「皆さん、非常に厳しい状況ですが、気を引き締めて」

「わかってるさ」


 チェルシーは同意しながら眼光を鋭くさせ歩み続ける。一方でメリスもまた周囲に目を配り、魔術師の後を追う。

 よし、そろそろかな……森は鬱蒼と茂り、地面に伏せたりしたらあっさりと身を隠すことができる。加え魔力が濃いため気配探知も難しい……なおかつ俺は、この場所に踏み込んだことがあるし、同調して完全に気配を消す魔法を密かに行使できる。


 ということで……俺は魔法を使いその場で屈んだ。それにより視界からメリス達が消える。周囲を警戒している彼女達の目を盗み隠れた形。もしこちらの動向に気付き見つけられたら適当な理由を述べればいい。

 しかしメリス達はその時視線を前に向けていたので、俺のことに気付いていない様子……さて、どうなるか。


「……ん?」


 その時、チェルシーが何かに気付いたような声が。ちなみに距離は俺が伏せた場所から少し開いた。


「ちょっと待て……フィスはどうした?」

「え? あ、あれ……?」


 問われ、メリスもようやく気付いた。視界に入らなかったのですぐに気付いてもおかしくなかったわけだが、幸いにも魔王に意識が集中していて察するのが遅れたらしい。


「……これは……」


 魔術師が呟く。文字通り神隠しにでも遭ったような状況なので、全員が警戒を露わにしている。


「……探すべきでしょうか」

「いや、さっさとこの森を抜けるべきだね」


 そうチェルシーは言及。お、いいぞ。探すことになっても隠れることができると思うけど、そのままスルーしてくれた方がこっちとしてもありがたい。


「森の中はどうやらおかしなことになっている様子……私達もどうなるかわからない以上、さっさと抜けてしまった方がいいよ」

「しかし……」

「音もなく消えたってことは、落とし穴みたいな物理的な罠じゃない。十中八九転移系の魔法だよ。つまりフィスはどこかに移動したってわけだが……仮に魔王の城ならすぐに戦闘が始まるだろうからわかるだろ。他の場所ならまあどうにか逃げ延びれるさ」

「大丈夫、でしょうか……」

「単なる転移ならそう心配しなくてもいいんじゃないか? そうだろ、メリス」


 同意を求めるチェルシーにメリスは一考し、


「……確かにフィスなら単独でも大丈夫そうだけど」

「ほらね。こっちは転移に注意しながら進めばいいさ」


 なんだかさっぱりしているな……俺の能力を考慮し、問題はないと判断したのか。ま、そういう風に解釈してくれればこっちも楽ではある。

 しばらく沈黙し俺はメリス達が離れるのを待つ。やがて茂みをかき分ける音すら聞こえなくなった後、


「よし、それじゃあ動くとするか」


 呟き立ち上がる。それと同時魔法を行使し――移動を開始した。






 メリス達は周囲を警戒しながら進む以上、当然ながらその歩みは遅いものとなる。他の隊も同じだろう。よって俺は先回りすることができる……見つからないよう迂回する必要性はあるのだが、それでも移動速度から先に城へ到達できるはず。


「しかし、この調子だと人間側が勝手に恐怖を抱いて準備をしているだけって形になるな……」


 島の状況から俺はそう呟き、城へと向かう。肝心の城内については……もし魔王と共に臣下などが復活しているとしたら、ディリオンの取り巻きくらいはいそうだな。

 そういう面々は俺達が入り込んでいることは明瞭にわかるはずだが……仕掛けてこないのはディリオンから手を出すなという指示を出しているのか、あるいは――


「よし、着いた」


 思考する間に俺は仲間達より先んじて魔王の城へと辿り着いた。とはいえ威圧感などまったくない綺麗な城で、間近で改めて観察するとやっぱり人間が建造するようなものにしか見えない。

 魔王が恐怖を煽るような城を建てるというのも人間の勝手な妄想なのかもしれないが……ちなみに俺もそう派手な城だったわけではない。ただ同胞が増えるごとに増築を重ねていたので、どこか入り組んだ城塞になっていたのは確かだな。


「問題は、入った後だな……」


 まず話し合いをしたいわけだが……俺の素性について説明するのはそう難しくないと思う。ただ一つ問題なのは、応対した存在が魔王ディリオンの側近中の側近であった場合だ。


「確かまったくと言っていいほど話聞かなかったんだよな……」


 俺に敵意がないとわかってなお、ディリオンの側近は敵意をむき出しにしていた……最後の最後まで警戒を緩めなかったのだが……主を守るためとはいえ、正直こっちとしては面倒だった。


「ただ、ディリオンが復活して臣下もまた……ということになると、いの一番に復活しているのはどう考えても側近だよな……」


 話し合いをする場合、そこが問題だな。加え話を聞いてくれず右往左往していると後方から仲間がやってくるかもしれない。今回の任務は斥候なので戦闘に入っても決戦とはいかないだろうけど……できることなら交戦しないまま済ませたいところ。

 よって、ここからは時間との勝負だな――そう思いながら俺は、城へと近づいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ