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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章
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魔王との対決

「新手、といっても一人か」


 魔王の呟きと共に、後方に現われた俺にメリス達も気付いたか、視線を向けぬまま言葉が飛んできた。


「逃げて!」


 声はメリスからのもの。俺の身を心配しているようだが――


「ここに来るということは、腕に覚えがあるだろう? 魔王の首はここだぞ」


 あくまで余裕で、こちらを誘うように魔王は告げる。なら、お言葉に甘えさせてもらおう。

 メリスが行ったような速力強化――彼女と同様に一瞬で間合いを詰める技法であり、次の瞬間俺は魔王の横に到達した。


「――ほう?」


 興味深そうな目をする魔王。そこへ俺が首目掛けて剣を薙ぐ。

 刹那、ギィンと甲高い音が広間にこだました。剣は首で止まり、魔王は傷一つついていない。


「この私に触れても傷一つつかないとは、名のある剣を使っているか」


 武器に言及……いや、単に魔法でコーティングしてあるだけなんだけど。

 直後、俺と魔王との間に光が生まれる。雷撃だと認識した矢先、目の前が真っ白に染まり弾けるような音が鼓膜を刺激した。


 自分の体が吹き飛びそうな衝撃も生まれたが、俺は足を動かし自分の意思で後退。雷から抜け出しメリス達の所まで戻ってくる。


「大丈夫……!?」


 心配になったかメリスが呼び掛ける。それに俺は手を振り、


「ああ、平気だよ」


 ……ちょっとバレないかヒヤッとしたけど、よくよく考えたら見た目も声も魔力も変わっているからバレようがないな。

 さて、と気を取り直す。既に魔法の効果はなくなり、超然とする魔王が見えた。そして相手は、目を細め俺を注視する。


「今ので死ななかったか」


 淡々と呟き、ちょっとばかり俺を警戒した模様。まあ防御をしている素振りを見せなかったからな。


「少しはやる手合いのようだな」

「こっちも剣が通用しないとは予想外だ。でも」


 俺は剣を握り締める力を強くする。


「今度はそうもいかないぞ」


 魔力を解放。途端、魔王の目の色が変わる。


「何……?」


 そしてメリスやアレシアもまた俺の方向を見た……つまりそれだけ、収束させた力が多かったというわけだ。

 魔王が警戒するほどの力。そして相手は手をかざし、


「少々できるようだな。だが残念だ。消えてもらおう」


 放たれる魔法。今度は雷ではなく光。魔法は真っ直ぐ俺へと飛来し、瞬きをする程度の時間で俺の所へ到達する。

 しかし、こちらは剣でそれを薙ぎ払う。動作としてはそれだけ。それにより光は……かき消える。


「……なっ……!?」


 これには魔王も予想外だったのか、瞠目した。

 ふむ、予定外のことが生じると動揺するタイプなのだろうか? ともあれこの動揺を逃すことはしない。俺は歩き始める。さっきのような高速移動は行わない。


 なぜか――その方が確実に、魔王を動揺させることができるから。


 魔王はならばと次々と魔法を撃ってくる――火球、氷、雷、光。それらが飛来するごとに俺は剣を振って叩き落とす。

 気付けば完全に俺が主導権を握る立場となった。魔王は俺の行動を見て焦ったのかこちらに目を移し、俺の表情からこちらに余裕があることを感じ取ったらしい。


「……先ほどの技法で間合いを詰めなかったことを、後悔させてやろう」


 魔王はさらなる魔法準備を始める。途端、その背後に闇が生じ、その身を一挙に包んでいく。

 どうやら魔法で体そのものを覆い、強化する技法らしい。今まで使わなかったのは結構体に負担が掛かるから、かな? 魔力で体を締め上げてギシギシと言わせているみたいだし。


 ならば俺は……魔力を剣に注ぐ。コーティングしてなかったらあっさりと砕け散っておかしくない出力。しかし剣は形を保つ。


「それでは――終わりにしよう」


 宣告と同時に魔王は俺へ肉薄する。それこそ俺やメリスが使ったような、高速移動だ。

 ただこちらが使っていたものよりも数段速い――後方にいるメリスやアレシアが捉えられたかどうか。もし二人であったなら気付かぬ内に終わっていた、かもしれない。


 皮肉な話だが、こうした技法を使わせるくらいの技量をメリス達が持っていなかったことが、怪我もあまりなく対処できた理由なのかもしれない。


 で、俺はどうするかというと――迫る魔王の動きを見極め、剣を脳天に叩き込む!


「ぐっ……!?」


 まさか反撃されるとは思っていなかったらしい。魔王は完全に動きを止め、攻撃しようという動作も完全に停止した。

 代わりに俺が斬撃を決める。横薙ぎは綺麗な弧を描いて魔王の腹部に直撃。そして俺の魔力によって吹き飛び、倒れ込んだ。


 金属的な音を盛大に上げながら魔王は転げ回るが、追撃が来ると思ったかやがて身を翻し、体勢を立て直した。


「この動きを見極めたか――」


 言葉が止まる。原因は明白で、体を覆っていた闇がはがれ落ち始めたからだ。ヒビがあちこちに生じ、五秒ほどで上半身の闇が消えてなくなる。

 俺の斬撃によりこうなったわけだが……魔王は鎧を易々と破壊されたことに動揺している。


「――な」


 驚愕する間に俺は一歩詰め寄る。それに魔王は反応し構えた。

 とはいえ、深く認識したことだろう。俺の力がいかに圧倒的で、自分こそが滅ぼされる側であると。


 残る懸念は逃走されることだが……と、魔王は足で地面を軽く蹴った。たぶん逃走用の魔法陣とか出そうとしたんだろう。

 けれど、不発。魔王は一瞬床面を一瞥した。


「転移でもしようと思ったのか?」


 対する俺はこう発言。


「あれだけ派手に魔法を使ったんだ。魔法陣も壊れたんじゃないか?」


 ――実際は俺が妨害しているんだけどね。


 目の前にいる魔王の能力は確かに高い。神族でさえ手に負えないクラスとなると相当力をつけている。

 だが、俺の前世である魔王の知識を活用すれば、その力を完璧に抑え込むことができる……いかに魔王とて魔力を利用して戦っている。その魔力を解析し、相殺や干渉ができるようにする……そういう魔法を使用した。


 なので例えば先ほどの雷撃をまともに受けても相殺してダメージはゼロだったし、飛来する魔法も剣で全て魔力を弾き飛ばしていた。加えてこの広間に存在する脱出魔法もこちらが干渉して使えなくした。

 これらの対策としては魔力の質を常に変え、解析できないようにすることが効果的なのだが、さすがにそんな真似はしていなかった。ちなみにこの魔法の源流は千年以上前に栄えた魔法帝国の技術だ。目の前の魔王は長くて数十年くらいの年齢だろう。知るよしもないか。


 さて、退路も塞ぎ打てる手はさらに狭まったわけだが……俺は少し様子を見ることにした。まだ奥の手が隠されていたら、それを全部弾き飛ばしてやろう……性格悪いな、俺。


「――形勢が悪くなったら即座に逃げるとか、魔王の風上にもおけないな」


 俺はなんとなく挑発すると、魔王の顔が歪んだ。愚弄するか――そんな心の声が聞こえてくる。


「……舐めるなよ、小僧」


 転生する前を考慮したら実際はお前よりも長く生きてるよ……などというツッコミを心の中でした直後、魔王は再度闇を発し、その体を覆う。

 その収束は先ほど以上……まさしく全身全霊の収束。体の負担など知るかというくらいの勢いであり、魔力が発されることで空気が振動し羽音のようなものすら聞こえ始める。


「後悔するといい……この俺を怒らせたことを」

「残念だが、お前に俺は倒せないよ」


 明言し剣を構える……では、終わりにするとしよう。


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