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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章

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魔力の技術

 食堂で話し合ってしばし、俺とチェルシー、さらに立ち会いとしてメリスは中庭へと移動する。数時間前にチェルシー達が戦ってから相手を変えて再度戦う……俺達が現われた時点で周囲はにわかに騒ぎだし、ものの数分でギャラリーが集まってしまった。


「それじゃあやろうか」


 剣を抜くチェルシー……メリスと戦っていた光景を思い返せば、戦法そのものは魔族として活動していた時と変わっていない様子。

 基本的に彼女は力で押し込む剛の剣。とはいえ決して力一辺倒というわけではなく、技術に裏打ちされた戦い方もきちんと備えている。


 確か彼女は二段構えだった。最初は力押しで攻め立てて、もし相手が動じないのならば二段階目である技術で押し込む。彼女の性分としては長く戦っていたいというのもあるので、「力で対抗できる相手に今度は技術で勝負できる」という感じで、存分に戦えるわけだ。

 現在彼女は魔族の気配を発していないけれど、メリスのように転生したわけではなく隠し通しているだけのはず。たぶん持ちうる技術により、魔族であることがバレないような上手くやっているのだろう。仮に窮地に陥るようなことがあったら、その辺りが崩れたりするのだろうか――


「最初に言っておくが、心配はいらない」


 チェルシーが言う……どうやら俺が懸念していることを読んでいるらしい。


「それが破綻すると戦いが楽しめなくなるからな」


 ……たぶん「魔族であることがバレたら面倒なことになり、色々勝負できなくなる」みたいな解釈でいいんだろうな。チェルシーは別に魔法が得意なわけではなかったはずだが、人間として活動していく上でバレないよう徹底しているようだ。ここからわかることは、少なくとも擬態できるだけの技術を保有している……つまり、魔力を制御する技術については一級品というわけだ。


 ま、もし危なかったら俺がフォローを入れようかな。それで貸し一つにできるし。

 というわけで剣を抜き構える。気合いを入れたわけではなくあくまで様子見という感じの態度を示すと、チェルシーにもわかったらしく、


「余裕だねえ」

「……別にそういうわけじゃないけどな」


 そう返答した直後、彼女が動く。一歩で間合いを詰めると、豪快な横薙ぎが俺の正面で繰り出された。

 けれどこっちは即応し、まずは受ける。直後、重い衝撃が腕を通して伝わってきた。


「は、やるな!」


 声を発しながらチェルシーは押し込もうとする……やっぱり俺が魔王をやっていた時と変わらない戦法。ちなみにメリスはこの段階で戦っていた。彼女が技術ではなく力勝負で勝とうとした結果なのだが、もし技術勝負に持ち込んでいたら、結果はどうなっていたか――


 俺は相手の剣を受け流すとすぐさま突き込んだ。チェルシーは即座に反応し、見切ってかわす。そこへ追撃の刺突をいくつか放つが、全て空振りに終わった。


 そこで彼女が反撃。結構な魔力を乗せた一撃ではあるが、俺はその量を見極めて剣を受ける。衝撃が多少なりとも腕に伝うけど、こっちの防御を緩ませるほどではない。


「おー、やっぱり勇者フィスともなれば、力押しで対処は無理か」


 チェルシーは一つ呟き、突如後退した。俊敏でメリスなどが相手であれば追うことはできなかっただろう……俺だったら可能だけど、あえてそれはせず剣を構え直すだけにする。

 今度は技術勝負に出てくるかな? そんな疑問が頭の中をよぎった矢先、チェルシーが剣を差し込んだ。しかも内に生じる魔力は先ほどとは違う。硬さだけを追求していた先ほどの魔力とは異なり、ずいぶんと柔軟な印象を受けた。


 この二つの違いは、簡単に言えば柔軟であればすぐさま応用できることにある……刀身に魔力を乗せる場合、付与する効果をある程度選択できる。例えば「切れ味を良くする」とか「炎をまとわせる」とか、そういうものだ。


 魔力を柔軟にするというのは、言ってみればこの付与する技術をすぐさま変えられることを言う。最初は炎を付与していたが、相手に効かないことがわかって鍔迫り合いの状況で即座に別の技術へ変換――といったことが可能になるわけだ。なおかつ力のいれ具合などを自由に変えることで、相手の攻撃を魔力の流れを変えるだけでいなすなど、色々と応用できる。

 剣術もそうだが、こういう魔力的な技術においてもチェルシーは相当上手いことがわかる――ふむ、そうだな、これならメリスと――


 頭の中で考える間に俺は剣を受けた。先ほどとは異なり力だけでなく、魔力の中に色々仕込んでいることがわかる。状況に応じて剣戟の色を変えるつもりか。


 さて、俺はどうするべきかな。技術で対応してもいいし、あるいは俺が逆に力で押し通すことだって……そうだな、それでいくか。その方が圧倒的な武威を示すことができるし、チェルシーも納得するだろう。

 そう思った俺は彼女とは対称的に力を高める。それに当のチェルシーは驚いたのか目を丸くした。


「へえ、そうきたか」


 こっちの意図を理解している様子……ならばと彼女は魔力を高めながら、どう応じるか構える様子。

 ふむ、ならばこちらは――と次の戦法を決めると同時に踏み込んだ。双方の刃が当たる間合い。チェルシーは下がるか出るか……喜悦の笑みを浮かべ、前に進んだ。


 うん、狙い通り。俺は即座に剣を振る。上段からの一閃であり、チェルシーはそれを受けるべく防御の姿勢を取った。

 刀身に乗せられた力はこちらの魔力を取り込み、力を減退させる効果を付与してある。つまり力押しの攻撃を和らげ、力を逃がすわけだ。


 こちらとしては予想通りの反応。そして両者の刃が――激突する!


 刹那、金属音が砦の中庭を満たした。同時に金属の軋む音が生じ、一時せめぎ合いとなる。

 チェルシーからすれば、このまま受け流して反撃にて仕留める……といきたいところだったはず。しかしそうはならなかった――俺の力押しが、チェルシーの魔力を全て消し飛ばしたからだ。


「っ……!?」


 さすがにこれは予想外だったようで、彼女は為す術もなかった。せめぎ合いは一瞬の内に俺の勝ちとなって、彼女の剣を俺は弾き、首筋に刃を突きつけることに成功した。


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