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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章

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現状確認

 砦を訪れた初日に砦の中へ入ったことで、俺達にも情報が入ってくるようになる。色々と調べ回った結果、砦の建設と共にかなりの勢いで人が集まっていることがわかった。


 しかも冒険者を始めとした言わば「外部」の人間が相当集まっている……これはおそらく、急ピッチで態勢を整えようとしていることの所作だろう。つまり足りない兵力を彼らで補おうとしているわけだ。


 魔王の島、という時点で国の人達は相手が七百年前の魔王であることは把握している様子。しかし人間にとって気の遠くなるような年月を経ての復活であり、情報が錯綜している……マーシャなどですら正確な情報を持っていなかった以上、これは当然であり、またどういった魔王であるかわかっていないために国側は相当急いで戦力をかき集めているということだろう。


 騎士や兵士達の練度は高く、この国を守ろうとしかと胸に刻んでいる様子……これはおそらく魔王を迎え撃つだけではなく、この砦を基点として攻め入るくらいの構えを見せていることの証左だろうと俺は思っている。


 それを確かめるべく、ちょっと申し訳なかったが俺は魔法を用いて作戦会議を盗み聞きすることにする。最初に聞こえたのは、騎士クリューグの声だった。


『戦力については目標の七割といったところだな。他国からの応援要請についてはどうだ?』


 誰かと話をしている……敬語ではないので、相手は部下かな。


『はい、現在複数の国が手を上げていますが、準備が整うまでにしばしかかると』

『……そういうポーズを見せているだけ、という可能性は大いにあるな』

『その可能性も十分あるかと』


 部下の言葉にクリューグはため息を漏らした。

 ふむ、戦力の拡張については当初の予定通りとはいかないか……他国は救援要請に応じている様子ではあるみたいだけど、まあ突如助けてくれと言われあっさり兵を貸すようなことにはならない、か。


 魔王が復活したという点を考えると、他国も防備を整えなければいけないわけだし……色々な噂が魔王ディリオンには存在しているので、その関連で「準備はしているが守りを固める必要がある」などと言い訳をして、結局派兵しないなんて可能性もありそうだな。当たり前だが自国優先なわけだし。


『ともあれ、複数の勇者がこの砦を訪れてくれた……それについては予想以上の成果であり、また作戦を遂行できる可能性が高くなった』


 ん、作戦? 内心首を傾げていると、クリューグは部下に尋ねる。


『船の準備はできているのか?』

『はい、できています。しかし海上には魔物の姿も存在しているようで、おそらくですが海の中にも……』

『沈没させられる可能性があると』

『はい。やはりこちらから打って出るには、もう少し準備が必要でしょう』


 部下の言葉にクリューグは沈黙。状況的に急造なので仕方がない面もある……が、焦燥感が募るといったところか。

 たぶんだけど、クリューグは「早期に魔王討伐を」などと指示を受けているのかもしれない。それが無茶な命令であることは自明の理だが、彼自身魔王の存在を長期間野放しにすることはできず、その命令を受けた。しかし砦を建設したはいいものの、戦力がまだ完全ではない。きっと彼はすぐにでも攻めたいところなのだろう。


 立派な砦を建設したことから、国も協力的で積極的に魔王討伐を行うべく動いているのは間違いないが、さすがに現状では攻めるのも難しい、というのが実状かな。

 魔王の島が出現して砦を建設……相当な速度であるのは間違いないが、足りないものが多すぎる……これがもし魔王ゼルドマとかロウハルドが相手だったら、準備をしている間にも攻撃を仕掛けてくること間違いなしで、下手すると俺達がここを訪れる前に殲滅という憂き目に遭っていたかもしれない。


 しかしそうはなっていない……国側は魔王ディリオンは様子を見ているという見解なのかもしれないが、俺としてはそもそも脅かすつもりがないのでは、と推測している。


「こうなるとやっぱりディリオンは七百年前と考えが変わっていないかも……けど、だとしたらなぜヴァルトは復活させたのか?」


 何か理由があるのか、それとも――色々悩む間に俺は盗み聞きを中断し、散歩でもする。砦の構造を頭に入れておくのもいいだろう。


「さっきの会話からすると、魔王の島へ向かうような作戦を立てているのかな?」


 クリューグが語っていた作戦について思い返す。その後、船と言っていたことから攻め込む算段を立てているように感じられる。

 ディリオンの戦意がないとしたら、海上や海中に魔物がいても威嚇して退散するよう促すくらいしかやってこないだろう。もっとも国側の人間はそんなことを想像するはずもないため、準備を急ぎながら万全の状況を作ろうとしているわけだが。


「でも、単純に船を使って攻め込むとなれば作戦とは言わず決戦とか言いそうなものだけど……」


 もしかして、偵察とか考えているのかな? 仮にそうなら俺やメリスに出番が回ってくるかもしれない。

 もし偵察で魔王の島へ行くことになったら、上手くすればディリオンと会えるかもしれないな。


「うーん、俺から話を向けて上手くそういう状況を作れればいいんだけど……」


 問題は俺に発言権があるかどうかかな。こうやって砦の中に迎えてもらえた以上は一定の評価を受けていることは間違いない。けれど、俺の意見を耳に入れてもらえるかどうかは、さすがに別だろう。

 クリューグを始め騎士達は気が立っている様子でもあるからな……この辺りは辺に突っ込むと逆に反発を受ける可能性がある。俺達のことを快く迎え入れた騎士達との関係はあまり壊したくないので、ここは注意しないとまずそうだ。


 ではどうやって動こうかな……と思っていた時、中庭方向から金属音が聞こえてきた。それは間違いなく戦闘の音。気になって窓へ視線を向けてみると、


「……あれ」


 そこにいたのはメリス。どうやら彼女は、誰かと剣を交わしているようだった。


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