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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章

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砦の騎士

 砦を建設しているという情報を得て、俺とメリスは一路そちらへ足を運ぶ。近づくごとに少しずつ冒険者や兵士の姿が多くなり、そうした中でいよいよ砦へ近づいたのだが、


「……もう、完成するよな、あれ」

「そうだね」


 メリスは頷きながら視線は砦へ。ちょっとばかり目を丸くしている。


 てっきり建造中かと思ったのだが、そうではなく既にほぼ完成していた。どれだけ急ピッチに作業をしたのか……できる限り早く備えようという考えにしても相当な速度だ。

 加え、砦へ大量の物資が馬車によって運び込まれている。それを見て俺は感想を漏らす。


「防衛のためだけに用意したとは思えないな……風評被害などを考慮し、ここを拠点にして魔王を滅ぼす気、ということか」

「かもしれないね。実際冒険者なんかもここへ来るまでに多く見かけるようになったし」


 彼女が言う間に、俺達の横を傭兵らしき人物が通り過ぎていく。彼らの表情は比較的明るいものだが、それとは相反するように騎士や兵士の表情は険しい。

 もしかすると戦闘開始はそう遠くないのかもしれない……で、俺達はどうすべきなのか相談していると、一人の兵士が近づいてきた。


「ギルド所属の方でしょうか?」

「あ、えっと……」


 依頼を受けてきたわけじゃないのだが……とりあえず俺とメリスはギルドのカードを見せてみる。それに対し兵士は息を飲んだ。


「相当位の高い方のようですね……依頼、というわけではないですよね? お二方の位ならば事前に名前を聞いていると思いますし」


 ギルドで参戦する人間――特に強い人については兵士にも名を伝えているのかな?


「そうですね。噂を聞きつけここに来ました」

「なるほど……すみません、少々ここでお待ち頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」


 俺が頷くと兵士は立ち去り、近くにいた騎士へと話し掛けた。その様子を見て、メリスは一言。


「私達の能力とかを考慮して、色々融通してくれそうな雰囲気?」

「かもしれないな」


 つまりそれだけ戦力を必要としている……こう考えれば決戦が近いと解釈することもできそうだ。

 しばし待っていると、やがて一騎の騎士がこちらに近寄ってきた。赤い髪を持つ、爽やかな印象を受ける青年だ。


「お待たせして申し訳ありません。あの、よろしければギルドカードを再度確認したいので、ご提出願えないでしょうか」

「いいですよ」


 俺は承諾。メリスもまた同調してギルドカードを渡した。


「ありがとうございます」


 それを一度確認した後、騎士は俺達へカードを返却し、


「お二方については別所にご案内したいと思うのですが」

「わかりました」


 特別待遇らしいが、悪くはない……それから騎士は俺達を先導する形で砦方向へと歩みを進める。そして騎士は門番と話をしてから砦の中へと入る。

 ギルド所属かつ、カードの色合いなどから一定の信用を置いて入らせてもらえるみたいだが……ふむ、ここへ来たばかりの人間に対しずいぶんな処遇だ。


 砦は堅牢でとても急ごしらえで建造したとは思えない出来映え。俺達は騎士の案内によってあっさりと中へと通され、部屋まで用意された。しかも相部屋ではなく、個室である。


「……どういうことだ? これは」


 思わず首を傾げてしまう。いやまあ、メリスに加え金色のカードを持っている俺に対しそれなりの待遇というのは理解できなくもないが、それにしたってこれはいくら何でもやり過ぎなのでは?

 そんな風に考えているとノックの音が。返事をすると先ほどの騎士が現われ、


「唐突にここまでご案内して申し訳ありません」

「……何か事情があるんですか?」

「お二方の名前を拝見させていただき、ここへご案内するのが筋だろうと思いまして」


 ――ここからわかることは、目の前の騎士はギルド所属の人間についての情報を綿密に把握していること。加え、俺とメリスを砦の中へ案内するばかりか部屋まで用意するだけの権限を持っていること。


「自己紹介がまだでしたね。私の名はクリューグ=レイダーと申します。オルワード王国所属騎士であり、魔王討伐隊の中で副隊長を担う者です」


 副隊長……なるほど、砦内を統括する人間であるため、ここにあっさり連れてきたというわけか。


「フィス様についてはその功績はこちらも理解しています。砦へ赴いたということは、討伐に参加……ということでよろしいのですね?」

「はい……しかし、俺達を引き入れるために即座に砦の中へ案内とは、ずいぶん思い切ったことをしますね」


 こちらの言及にクリューグは苦笑する。


「そこについては申し訳ありません。ただ、こちらも必死なのだとご理解頂ければ。報酬等については、さらに上乗せしますので」

「……話が早いですし、別に構いませんよ。仲間のメリスについても同意はするでしょう。で、俺達は討伐に参加だけでいいんですか?」


 部屋まで用意するということは、他に何かありそうだけど……それに対しクリューグは、


「今回の戦いでは騎士と兵士――そしてギルド所属の人間とで連携する必要があります。戦力が足りずそのような形になってしまったと言いますか……よって、上手く戦うためにこちらの事情などを知ってもらい、動いてもらう人員が必要ということです」

「俺に調整役は無理ですよ」

「そこは私達でやるので心配はいりません。言ってみれば、私達の指示にきちんと従ってもらう人が欲しいといいますか」


 まあ冒険者なんて一癖も二癖もあるからな。俺やメリスについては騎士や神族と共に戦った実績があるから、きちんと動いてくれると踏んでここへ案内してきたのだろう。


「唐突な展開で驚かれるかもしれませんが、兵士には功績を上げた人物の名を憶えさせ、声かけをしています。実際フィス様達以外にもこうして砦へ案内した人間は複数います」


 なるほどね……俺は「わかりました」と納得の声を上げ、


「砦に入りましたが、今後俺達は何をすれば?」

「現状魔王側はまだ動いていませんので、自由にしてもらえばいいです。ただ砦の中を無闇に動いてもらうのはまずいので、まずは案内を行います」

「わかりました。ではお願いします」


 そして俺はメリスと合流し、クリューグと共に砦の中を見て回る。内装なども完璧に近いのだが、急ごしらえであるためか砦の城壁などを見ると、色々話し合っている建築士の姿なども見受けられる。


「魔王がどう動くか……見立てなどはありますか?」


 俺が疑問を呈すると、クリューグは首を左右に振る。


「皆目わかりません。わからないからこそ私達は準備を急ぎ、戦える状況を作っているわけです」


 それもそうか……もし攻撃が来たら俺の知るディリオンはいないと考えていいだろう。

 さて、いきなり砦の中に入ったわけだが……どう魔王の島へ赴くか。そこについて悩むことになりそうだった。


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