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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第三章

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聖帝国

「まず、結論を言えばチェルシーはメリスと同様、人間として行動しております」

「人間?」

「といってもメリスのように転生したのではなく、魔族としての素性を隠し、人間として諸国を回っているのです。彼女いわく趣味だそうですが」


 ああ、彼女らしいと言えばらしいな……。


「つまり、現在は自由気ままに旅をしていると」

「彼女も最初は意気消沈としていましたが……以前再会した時は楽しそうでしたし、陛下のご指示はきちんと憶えていましたよ」

「人間を襲うようなマネをしているわけではないと」

「はい、そこは間違いありません……そしてメリスとの関係ですが、陛下がご存命の時から犬猿の仲であったことはご周知のはず」

「確かに……それは今も変わっていないか」


 俺の呟きにマーシャは「はい」と返事をして、


「確かに剣術面でチェルシーのフォローがあったなら……と思うことはありましたが、やっぱり仲が悪いままでしたので」

「それじゃあ仕方がないな……現在彼女がどうしているかは知っているか?」

「諸国を放浪しているため、わかりませんが……ただ」

「ただ?」

「メリスとは考え方は異なりますが、チェルシーもまた魔王について色々と調べているようでしたから、魔王がいる島、とくればもしかすると出会う可能性が……」

「なるほどな。だとすれば一応、彼女と会った際のことを考慮に入れておくか」

「ひとまず陛下達は魔王ディリオンのいる島へ向かうことで確定のようですが……今回は話を聞く分には戦いなどは起きる可能性が低そうですね」

「確かに魔王討伐はお休みってことになりそうだけど……いや、油断はできないか」


 ヴァルトが復活させているのだから、今回ディリオンは暴れ回る可能性だって存在する。よって最大限の警戒を持って無人島へ赴くことにしよう。


「マーシャは引き続き情報収集を頼む」

「はい、お任せください……ところで、陛下」

「うん」

「えっと、ですね……その……」


 なんだかしおらしい態度。それに眉をひそめていると、彼女は意を決したかのように、


「陛下、この仕事を継続していれば、報酬を頂けると約束してもらいましたが……」

「ああ、そういえばそうだったな」

「その、情報についてですが……分割払いとかは可能でしょうか?」


 ……たぶん、時間が経つごとに気になり始めたな。こちらを窺うような雰囲気なのは、できるだけ下手に出て情報を得ようとしているのだろうな。


「……はあ、わかったよ」


 パアア、と光り輝くような笑み。俺はそれを見て露骨にため息をつくが、マーシャは気にしていない様子。


「で、何を訊きたいんだ……? いや、待て。そうだな、質問は一個にしようか」

「一個ですね。私はそれでも構いませんよ」

「何を質問するか決めてあるのか?」

「さすがに事の確信について訊こうとは思っていません。さすがに陛下だってお話ししないでしょうし」

「まあそれもそうだな……で、その内容は?」

「エルーラント聖帝国について、陛下がお話しできる範囲で教えていただきたいのですが」


 お、ずいぶんと無難な内容……だと最初思ったのだが、


「いずれ、深く突っ込んだ話題に近づいていくんだな」

「はい、その通りです」


 隠すことなく答えるマーシャ。まったく……。


「まあいいよ。わかった。エルーラント聖帝国についてか……マーシャの知識はどの程度だ?」

「魔法技術により繁栄した国……しかもその領土はこの大陸全てだったと」

「基本情報についてはマーシャの言う通りだ。この国は大陸全てを統治し、また繁栄していた。魔法技術についても今は失われた……強大なものがいくつも存在していた。それこそ悪用されれば、この大陸の文明が丸ごと消え去るくらいには、な」

「恐ろしい話ですね……私はそうした行き過ぎた繁栄を嫌い神族が襲来したと思っていたのですが……」

「そんな風に語られているのかもしれないが、真実は全く違うな。そこについては答えないが……確かに色々と強大すぎたため、問題はいくつもあったな」

「領土が広すぎた、とかですか?」

「そういう面も確かにあるよ。帝国の歴史は数百年あるし、一夜で崩壊していなくとも、いずれ分裂していただろう……そのくらい、末期は政治的にはあまり良くなかった」


 俺はどこか遠い目をする。うん、本当に色々あった。


「結果的に、帝国の崩壊は別の要因なんだけど……ま、その辺りは置いておこう。ひとまず歴史上もっとも長く、そして最も広大な領土を所持していた国であるのは間違いない。とはいえ国が滅亡してからは、しばらく混乱もあった」

「聖帝国についてはあまり情報がないのは……それだけ滅亡のきっかけになったことが悲劇的だったから、なんて考察もありますね」

「確かに経緯はどうあれ一夜にして崩壊したわけだからな……その影響が凄まじかったとは言っておくよ」

「陛下は詳細をご存じなんですよね?」

「一応な」

「それは、本当に国が崩壊するだけの要素だったんですが? 正直、陛下のお言葉が真実だとしてもにわかに信じられないのですが」

「そう思うのは無理もないけど、事実だよ」


 俺の言葉にマーシャは訊きたそうな顔をしたが……言及はしなかった。ひとまずこのくらいで、と思っているようだ。


「わかりました、ありがとうございます。話を戻しますが、陛下。私はこれまでと同様に動けばいいんですね?」

「ああ、マーシャは引き続き情報収集を。俺達は準備をしてから向かうことにするわけだけど……あ、マーシャ。ボノンがどうなったかなどについては、定期的に情報を頼むよ」

「仰せのままに」


 マーシャはそう応じる……さて、新たな戦いというわけだが……本来ディリオンは温和な性格だし、争うつもりもないから生来の性格であれば俺の素性を明かせばたぶん話をしてくれるはず。

 けれどそうでなかった場合は……俺としてはあまり滅ぼしたくはない。ディリオンの能力については味方にすれば頼もしいし、何より以前はウマが合っていた。


 ヴァルトは何のために彼を復活させたのか……頭の中で疑問に思いながら俺とマーシャは打ち合わせを重ねていく。

 そうして幾度となくやるべきことを確認した後、俺は部屋を出る――新たな戦いの始まりだった。


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