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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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トドメの一閃

 こちらの魔法により、最初変化は生じなかった……が、ビクリと周囲にいた悪魔が身を震わせた。


「……何?」


 次いでゼルドマは呟く。遅れて気付いたはずだ……魔物の操作が効かないと。


「俺の魔法がどういうものなのか、解明するべきだったな」


 ――魔法を維持しているということは、常にゼルドマの魔力を分析、解析しているということ。この魔法によってゼルドマは少しずつ、その能力を晒していくことになった。

 で、俺が継続して使用している魔法の本質は「作成した魔物の支配権を奪う」ことにある。ゼルドマは自身の魔力を魔物に埋め込んで操作するようだが、それを魔法によって上書きして、俺が使えるようにする。


 ただ細かい命令についてはできないので、あくまで「ゼルドマを倒せ」くらいのことしか指示はできないのだが……この調子ならば、十分だろう。

 さらに言えば、ゼルドマは満身創痍……決着をつけるには頃合いだ。


「しもべよ、なぜ動かない――」


 ゼルドマが声を上げた次の瞬間、悪魔達は一斉にゼルドマへと襲い掛かる!


「なっ……!?」


 さすがにこれは予想外だっただろう。即座に再命令をしたみたいだが……効果はなく、悪魔の拳をまともに食らう。

 無論、魔王が自ら生成した魔物である以上、さしたるダメージはないはず。しかしゼルドマ自身満身創痍であることに加え、窮地を脱するために結構な魔力を注いだ……この二つによって、悪魔の拳は今の魔王にとって十分な痛手になった。


「がはっ……!!」


 声を漏らす。そして当然、この好機をメリスが見逃すはずもなく、肉薄する。悪魔達がたこ殴りにする状況下でメリスは間隙を縫うような形で接近し、剣をかざす。

 刀身にはありったけの魔力を込めている……どうやらこれで決めるつもりのようだ。


「ぐ、お……!」


 一方のゼルドマもその動きは気付いているようで、どうにか防ごうと身をよじらせるが、悪魔の攻勢により完全に縫い止められている。

 これなら――そう俺が思った直後、とうとうメリスの剣戟が、ゼルドマの胸に叩き込まれた!


 刹那、光が生じ魔王は声を上げようとする。だがそれは叶うことなく――苦悶の表情と共に、魔王は消え失せた。


「……終わったか」


 そう呟いた矢先、生み出された悪魔が全て消える。制御は俺がやっていたけれど、それはあくまで借り物。核となる部分は魔王のものであったため、同時に消えた。


「メリス、大丈夫か?」


 俺は仕込んだ魔法を解除しながら問うと、彼女は微笑を伴い、


「大丈夫。まだ余裕もある……最後の悪魔達はフィスが?」

「魔物の生成を封じる以外にも、ああいう使い方ができるって話だ。もっともあれに集中する必要があったし、あそこで仕留めてくれなかったら危なかったけど」


 こちらの言及に「そう」とメリスは答え、


「ひとまず魔王は倒したけど……これからどうしよう?」

「といってもまずは後方から片付けないといけないよな」


 言いながら背後を見やる。先ほどまで爆音が聞こえていたのだが、今はひっそりとしている。

 まあ魔王が滅んだのだから、茫然自失となってもおかしくない……謁見の間を出ると、ボノンに加え戻ってきたらしい魔族ゴルがいた。他の魔族はいない。どうやらボノンが始末したらしい。


「……どういうことだ、これは」


 ゴルが呟く。今来たばっかりなのかな? だとしたらご愁傷様としかた言いようがない。


「メリス、俺がやる」

「そっちは余力ある?」

「ある程度は。動きを止めている今なら、なんとかなるさ」


 言って俺は剣を抜く。ボノンの表情は背を向けているのでわからないが、肩を震わせているのでこっちも動揺しているのがわかる。

 ではさっさと終わらせよう――俺は足に力を入れる。刹那、俺は通路を一気に駆け抜け、ゴルの隣にまで到達する。


「え――」


 動揺する相手は隙だらけであり、俺はすれ違いざまに一閃した。そしてゴルは、自分が斬られたと認識し呻き声を上げ――消滅する。


「地底城も終わりだな」


 ボノンを見据える。彼はわなわなと震え、こちらの顔を見て青ざめていた。


「貴様……何をした……」

「理解できているんだろ? お前の主君である魔王ゼルドマを倒した」


 その言葉により、ボノンは膝から崩れ落ちた。無理もない。忠誠を誓っていた存在が消え失せたのだ。


「……本当に、陛下は敗れたのか……」

「それは俺に訊くよりも魔力が消失した事実をボノン自身が認識すればいいだろ……さて、と」


 俺は軽く伸びをして、周囲を見回す。魔法の明かりがあるので地底城はそこそこ明るいが、魔力の供給がなければ直に消える。城主がいなくなった以上、この地底城が暗闇に包まれるのも時間の問題だろう。


「よし、それじゃあボノン」


 名を呼ぶと相手はビクリと体を震わせこちらに視線を向ける。


「色々と協力してくれたわけだし、命だけは助けようか」

「ま、待て……私も生きる意味はなくなった。殺してくれ……」

「そう死に急ぐ必要はないと思うけどなあ」

「当人の意向だし、別にいいんじゃない?」


 メリスが近づいてきて呼び掛ける。それに俺は腕を組み、


「確かに、魔王ゼルドマの部下であった以上は人を手に掛けていたりもしているだろうし、ここで俺達が引導を渡す……というのも一つの手ではある」

「ならば――」

「けど、なんとなく思うんだけど……このままでもいいんじゃないか」


 俺がそう述べるとメリスは眉をひそめ、


「どういうこと?」

「少し興味があるんだよ。主君を失った魔族がどういう道筋を辿るのか」


 ――決して興味本位というわけじゃない。俺は理解する必要がある。魔族にとって絶対的な存在である魔王というものが滅んだら、どうなるのか。

 俺の場合とゼルドマの場合とではケースは違うが……一つ思うのだ。こういう場合、魔王の後を継ぎ人間を滅ぼすべく準備を進める可能性が高い。けれど、もしかしたら――きちんとケアすれば、復讐心を消し、人間と共生できるような存在になれるのではないか。


 俺は内心、そこに少しばかり興味を抱いた……だから俺は、


「というわけでボノン、少しばかり俺達と付き合え。そのうち殺してくれと嘆く必要がなくなるかもしれないぞ」

「私を……どうする気だ……」

「今はただ俺達についてくればいい。魔族であっても見た目は人間に近いし、町に入っても問題はないだろうしな」


 どうなるのか……それを知るには、絶好の相手――そんな風に思いながら、俺はメリス達と共に、地底城を出た。


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