表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/190

彼女の剣戟

 メリスは先ほど長期戦でも構わない様子を見せたが、今度は踏み込んだ形。当然ゼルドマは長期戦を避けるために後退を選択するかと思ったが……迎え撃つ構えを示した。

 彼女はどうする気なのか――と、さらに魔力を高め斬り込んでいく。


 一瞬彼女が持つ切り札を使用するのかと思ったが、そうではない。俺の能力を維持し長期戦でも構わない形で戦いを進めていく。

 これは彼女自身判断してのことだろう。魔王の実力を勘案し、今の能力で接近戦を続けていても問題はないと判断した。魔王ゼルドマの能力は確かに驚異的ではあるのだが、今のメリスならば、互角に渡り合えると判断したのだろう。


 そんな彼女の心境は、どうやら魔王にも伝わった様子――人間に対し警戒しているとは言えど、さすがに「人間でも戦える」という判断をされてはプライドも傷つくだろう。表情が次第に険しいものへと変わっていき、


「貴様……! なるほど、そういう判断ならば、さらに後悔させてやる!」


 魔王ゼルドマもまたメリスに呼応するように魔力を高め、攻めようとする――が、こと剣術についてはメリスが一枚も二枚も上手だった。

 仕掛けようとしたゼルドマに対し、メリスは少し力を緩め、押し込もうとした魔王の剣戟をいなした。途端に調子を狂わせる相手に対し、メリスはすかさず懐へ潜り込む。


「ぐっ……!?」


 翻弄されていることを理解したゼルドマは声を上げながらどうにか彼女の間合いから脱しようとする。けれど全て後手に回った。メリスは即座に斬撃を加え、魔王を大いにたじろがせる。

 彼女はさらに追撃。流れるような剣閃が幾度となく魔王に刻み込まれ、それに動きを止めたゼルドマに対しメリスはさらに剣を加えていく。


 ラッシュと形容すべき攻撃が、目の前で始まった。ゼルドマとしてはどうにか逃れようと頑張っているのだが……ふむ、ここまで彼は単純な剣術でしか対抗していない。もっとメリスに対抗して色々と妨害するような魔法を使えばいいと思うのだが――


 と、そんなことを思っていると一つ気付いた。どうやら魔王はなおも魔物を生成するべく色々と試している……なるほど、長期戦に出ようとしたのは、魔物が作れないか色々と試しているというわけか。

 しかし残念だが、それはできない……魔物を作成するプロセスというのはいくつかあるのだが、魔王ゼルドマは魔力を発し、さらに命令できるだけの言わば『核』となる魔力を作ることで操作している。俺が妨害しているのは魔力を放出している部分である。


 といっても大層なことをしているわけではない。この城に存在していた底冷えするような魔王の魔力を分析し、その魔力が発露したら魔法で邪魔をして形にできないようにしているのだ。仕組みさえわかれば魔王ゼルドマもすぐ対抗できる程度のものだが、さすがに何をしているのかわからない状況ではどうにもできそうにない。


 ゼルドマとしては魔物さえ生成できれば覆せる逆境なので、是が非でも突破したいようだけど……こちらが妨害をしていることは察していると思うが、俺に仕掛けてこないのはそれだけメリスの攻撃が苛烈だから、ということ。この時点でゼルドマは戦略的に負けている。


 ではどうするのか――ここで魔王は選択に迫られる。方針を転換して剣術や魔法でメリスを倒す。あるいは俺に狙いを定めて仕掛ける……浮かぶとすればこの辺りか。

 もし魔物生成能力を優先するなら後者をとるだろう。で、こちらの推測は――どうやら当たりのようだった。


「おおおっ!」


 ゼルドマは声と共に怒濤のラッシュから逃れ、即座にこちらに左手をかざした。そして放ったのは光弾。シンプルではあるが、俺の目には仕掛けがあると即座にわかった。

 こちらは横へ大きく逃れる。光弾は立っていた場所に着弾し――突如、轟音を上げながら火柱のように噴き上がった。威力は十分。見た目に騙されてあえて受けていたらダメージはないにしても動きを止められていた可能性はあった。


 とはいえ魔法を維持してなおこちらが俊敏なのはゼルドマとしても厄介だと思ったか、苦い顔をした。

 できることなら魔法が当たるまで頑張りたいところだろうけど、メリスがそれを阻む。剣閃が幾度となく注がれ、こちらに意識を向いたがために幾度か刃をその身に受ける。

 メリスを押し返すには彼女に魔法を注ぐべきだが……ゼルドマとしてはそういう手を使ってこない。彼女に対策があると見て取っているためだろうし、実際メリスは何が来てもいいような心構えはしているはず。戦術としてゼルドマは場当たり的で、こちらが優位なのは間違いない。


 いや、これはゼルドマが場当たり的というよりは、こちらの思惑にはまってどうすればいいか手をこまねいているのか。魔物が生成できないところから思考が上手くまとまらず、メリスに対する応戦が上手くいっていない。


 とはいえ、メリスとしてもここまでラッシュを仕掛けても決定打になっていない。一気に畳み掛けるには彼女が本来持っている切り札を用いるべきだが、それを使えば後がなくなることを考慮すると、彼女としても踏み切れない。


 膠着状態になればゼルドマも息を吹き返すはず。ここは手助けするべきか――そう俺が思った矢先、メリスは新たな動きが。

 剣に魔力を収束させ、さらに威力を上げる。まだ全身全霊というわけではなかったみたいだが、これで通用しなければ彼女も切り札を投入する必要に迫られる――


 魔王ゼルドマとしてもこれ以上剣戟を受けるわけにはいかず応戦。魔法などを使って距離を置かれてしまったらメリスとしては不利になるが、それをすることはない……というより、ここはメリスが上手くやっているということだろう。


 さて、俺は……メリスが危なくなっても大丈夫なよう手はずを整えるのと同時に、もう一つ……城に仕込んだ魔法の本領を発揮するべく準備を重ねる。これが果たして役立つかどうかはメリスにかかっているけど、もし駄目だったら駄目で別にいい。


 まあそんなことに力を注ぐのであればメリスを援護しろよというわけだが――と、彼女の剣がゼルドマの防御を抜いて直撃した。


「っ……!!」


 呻く魔王。声は上げなかったがダメージはどうやら深いようで、体勢を維持するのがやっとという様子。

 お、これは終局に差し掛かっているか……そう察したと同時、メリスもここが決め時だと踏んだようで、


 魔力をさらに高めた彼女の刃が、ゼルドマを仕留めるべく殺到した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ