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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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地底の主

 地底に入り込んでからだいぶ時間が経過した時、俺とメリスは異様な空気が地下に存在していることがわかった。


「ずいぶんと魔力が濃いな」

「これこそ、我ら陛下の力」


 どこか誇らしげにボノンは言う。それに俺は「そうか」とテキトーに答えながら周囲を見回す。


 暗闇に覆われた視界の中で、魔力だけがずいぶんと濃い。魔王ゼルドマが自発的に出しているものなのか、それとも魔物作成の過程で発生しているのか不明だが、少なくともこうした気配が現われている以上、魔王に近づいていることは間違いない。


 そう遠くない場所に魔王はいるみたいだな……と、考えたところで俺は一つ気付く。


「フィス」


 メリスが名を呼ぶ。彼女も察した。魔族が近づいてくる。


「あー、ボノン。事前に言い渡していた方法で俺達を拘束してくれ」


 彼は無言で作業を始める。それにより俺とメリスは光の手錠によって両手を拘束された。

 といっても少し力を入れれば簡単に解けるようなもので、言わばフェイク。魔族に怪しまれないようにするための処置である。


「……近づいてくる」


 俺は呟きながら前方を注視。やがて――


「ボノン、何だその人間共は」


 現われた魔族は、緑色の髪を持つ見た目二十歳前後の男性だった。衣装については貴族服のようなものなのだが……その、なんというか……ボノンと同様黒いマントを身につけている。

 もしかしてこれがフォーマルな衣装とか言うんじゃないだろうな……動きにくいだけだろうと内心ツッコミを入れていると、ボノンが魔族に対し説明を行う。


「魔物達を率い動いていたところに現われ、捕らえただけだ」

「その人間をどうするつもりだ? まさか陛下の所に連れて行く気か?」

「そこまではしない。人間側が何かこちらの動向について疑っているのかを調べるべく、少しばかり尋問させてもらうだけだ。それと、魔物を率いる姿を見られて面倒だったからな」


 ボノンが説明すると、相手の魔族は肩をすくめた。


「下手をやらかしたというわけだ……まあいい。人間の登場は突発的なものだったのだろう。人間を処理すれば計画が露見せずにすむ。さっさと対応しておけよ」

「ああ、わかっている」


 魔族の言葉を受けボノンは歩き出す。それに追随する俺達。うん、ひとまず怪しまれずに済んだな。


「ボノン、あの魔族の名は?」


 少し距離が開いたところで尋ねると、


「……ゴル=ベーナーという。戦力として陛下に従う五人の部下の内、もっとも力のある存在だ」

「あれで、か……ちなみにボノンが戦ったらどうなる?」

「瞬殺されるとまではいかないが、一騎打ちでは十中八九負けるだろうな」


 そう言うと、ボノンは笑う。


「貴様らでは、ゴルに勝つことすら不可能だろう。この私を破っただけのことはあるだろうが、その力では到底――」

「あ、そういうのいいから」


 手を振るとボノンの口が止まる。そこで彼は、


「……理解できないのだが、なぜそうまでして死に急ぐ?」

「そこについては議論しても永遠に平行線だから話すつもりはないよ。結果だけ見て判断してもらえればいい」


 突き放した物言いに対し、ボノンは訝しげな視線を送り、


「まあいい……どちらにせよ私は滅ぶ。死にたいのならば好きにすればいい」

「ああ、そうさせてもらうよ。ちなみにだが、他の部下の実力とボノンの実力とではどうだ?」

「……私は強さという観点に見れば序列としては三位だ」

「ほう、なるほど。つまり部下五名の内、二名には勝てると」

「あくまで一騎打ちの場合は、だぞ」

「少し頑張ったら四位と五位を相手にして勝てたりしない?」

「やったことがないからわからない……ちょっと待て、何をさせる気だ?」

「いや、魔王との戦いを前に部下四名と戦う可能性があるだろ? その場合二名を受け持ってくれないかなと」

「お前、悪魔か何かか?」

「悪魔使役している魔族に言われたくはないな」


 こちらの冷静な言葉にボノンの顔が引きつる。なんというか、不憫極まりないのだが、


「まあ負けた以上はこっちも容赦なく使わせてもらう。もしもの場合は頑張って戦ってくれたまえ」

「ぐ……私に裏切れというのか……馬鹿な……なぜこんなことになった」

「俺達と出会ったのが運の尽きだと思ってあきらめてくれ」


 ボノンの肩が震える。で、そんな様子を見たメリスが、


「フィス、彼に食い止めてもらうよりは普通に盾にして私達で仕留めた方が早くないかな?」

「殺してくれ頼むから……これ以上恥を上塗りさせないでくれ……」


 何か言っているけど、俺は無視。


「魔族とどう戦うかは状況によって検討すればいいだろ。で、メリス。当然ながら魔王と戦う場合は二人で、だぞ」

「わかってる」

「この調子なら大量の魔物を相手にすることなく戦えるからいいとして、問題は俺達が行動し始めた際、どのくらいの時間で魔族が来るか、だな」


 呟いた時、俺達の前方に光が見えた。ただしそれは明瞭とした明るいものではなく、うっすらとした淡いもの。

 それが、どうも建造物を照らしている……ほう、これは――


「地底城、というやつか」

「そうだ。これこそ陛下がおわす場所」


 ボノンが解説。俺はここで質問。


「魔王ゼルドマがいるのは、どの場所だ?」

「謁見の間にいる時と自室にいる時がある」

「……思うんだが、会いに来るやつなんかいないのになんで謁見の間なんてものがあるんだ?」

「私は知らん」


 そりゃそうか……まあそんな疑問は置いておくとして、いよいよ魔王に近づいたわけだ。


「よーし、ここまでほとんど戦うことなく進めたのは何よりだな。ここからは一気にいくぞ」


 俺の言葉にボノンは思うところがあったのか肩をわずかに震わせる。ただ質問はしてこない。何を言っても無駄だと思っているのだろう。


「で、だ。ボノン、城内を歩き回ることはできるのか?」

「……部下以外は魔物達が守っている。そいつらの目を誤魔化すことができれば可能だ」

「なら少しばかり準備をしよう」

「何を、する気だ?」

「魔王ゼルドマの魔物生成能力は非常に厄介だ。だからその対策をさせてもらう」

「できるの? そんなことが」


 メリスが問う。俺はそれに「可能性の話」と前置きし、


「もしかすると、ってくらいのものだ。けどそういう厄介な能力に対処できる可能性があるのなら、やっておくべきだろ?」

「そうだね……ということは城に入ってからは――」

「メリスは待機してもらえればいい。仕込みが俺の方でやる」


 そこまで言うと俺は城を見据え、


「では始めよう……今回は俺とメリス、そして使役する魔族だけだが、まあなんとかなるさ――」


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