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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章
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魔王の城

 メリスの様子を観察しながら俺は少し考える。まず力を持っていなかった彼女がなぜ勇者と言われるほどに強くなったのか。

 ただ、その答えは彼女を観察し続けることにより浮かんできた。


「……人間だな、気配は」


 遠方でも魔族ならば今の俺でもすぐに気付く。ましてメリスは側近だった。どういった魔力を抱えていたのか把握していたし、距離があろうとも判別はできる。

 しかし、見た目は以前のメリスと同じにも関わらず、感じられる気配はまさしく人間そのもの……混ざった悪魔の力を抜くことはできない。けれど例外はある。魂を体から抜き、新たに肉体を得る……転生法だ。


「俺みたいに偶然ではなく、故意に誰かが転生させ、強くなったのか」


 その方法や目的は一体――と、考える間に冒険者や騎士達へ呼び掛ける誰かの声が聞こえた。どうやら始まるみたいだな。なら俺は……木から下りると足を魔王がいる城へと向ける。

 彼らに随伴して行動していてはロクに功績も上げられない。金色のギルドカードを見せて従わせるという手段もアリと言えばアリだが、さすがにそれでは反発もあるだろう。目的のためにはあんまり不評は買いたくない。ここは単独行動で城まで向かおう。


 それと同時に俺は一匹のネズミを生み出して森へ放つ。冒険者や神族達の様子を観察する眼だ。彼らの動向を見ながら城へ向かう。

 そうこうするうちに、いよいよ戦いが始まる……魔物の種類は骸骨騎士から狼まで様々。質的にも中々のものだが、果たして味方は応じることができるのか。


 先陣を切ったのは――神族。その中でリーダー格と思しき女性が綺麗な髪をたなびかせながら突撃する。

 真っ直ぐ最短距離で魔物へと間合いを詰める様は真っ直ぐな性格であることが窺える……そして一閃された刃は狙いを定めた骸骨騎士の脳天へとしっかり叩き込まれた。


 次の瞬間、彼女の剣が紙でも切るように易々と骸骨騎士を鎧ごと両断する……ほう、さすが神族。迷いがなく思い切りの良い太刀筋は見ていて爽快だし、正攻法で挑むのは自信の表れだろうか。

 彼女へ続けとばかりに部下達もまた交戦を開始――士気も高く徒党を組んで襲い掛かってくる魔物を突撃により一切合切粉砕する。見事だな。


 と、感心している場合じゃない。この様子だと予想以上に早く城まで到達しそうだ。彼女達に功績を奪われると予定が狂う。ここは少し駆け足で城へ向かうとしよう。


 その時、神族の後方からさらに魔物を粉砕する一団が――メリスを始めとする冒険者達だ。

 彼女達は神族達のように理路整然とした動きではなく、完全に個人で思い思いに動いている……けれどきっと冒険者同士手を組んだこともあるのだろう。狼の魔物が牙を突き立てようと向かってくる時、横手から別の冒険者が狼に斬撃を繰り出し対処する。さらには数組の冒険者が連携して魔物を一気に押し始める。


 彼らもまた百戦錬磨の強者……しかもその中でメリスは特に異質だった。

 彼女は他の冒険者達のことなど知らないとばかりに単独で突っ走り始める。果ては神族が戦っている場所まで到達しあまつさえ前に出て敵を倒し始めた。


「……アレシア様」


 そうした中、ネズミが神族の会話を聞き取ることができた。男性の一人がリーダー格の女性に声を上げる。名前はアレシアというらしい。


「冒険者が一人突撃していますが、どうしますか?」

「実力はあるようだし、放っておいても問題ないさ。確かギルドプレートは青色……敵の力量も見分けることができるだろうし」


 青色……上から三番目の階級だな。

 確かに噂されるくらいの実力を所持しているみたいだ。今回相手をする魔王がどの程度の実力なのかわからないが、今のメリスならば打倒できるだけの力を持っている……のかもしれない。


 ふむ、観察はこのくらいにして俺も急ぐか。メリスや神族達の移動速度は相当なもので、何の障害もない俺と肩を並べるほどの勢いがある。けれど魔物を倒すために立ち止まったりもするため、結果的に俺の方が早く城へと辿り着いた。

 断崖絶壁を背にして鎮座する城は、見上げれば相当な迫力がある。俺は下から城へ視線を注ぎ、いくつも窓があることを発見した。


「よし、窓を割って侵入しよう」


 ……この言葉だけだと空き巣に入ろうとしているみたいだな。そんな呟きを心の中で発した後、俺は急ぎ適当な窓へと向かう。

 城の外壁はほぼ直角だが、俺は魔法で飛翔して窓枠に手を掛けることに成功。中を見ると……赤い絨毯が敷かれた廊下が見えた。内装もしっかりしているし、ずいぶんと綺麗だな。


 周辺に魔物はいない。よって俺は窓を叩いて割ると、勢いに任せ中へと侵入。

 一方、メリス達はまだ外で交戦している……と、ここで戦況に変化が。メリスが単独で突破し一気に城門へと迫る。対する魔王側は――迎え撃つつもりか、城の門が重い音を上げながら開いた。


 そして現れる大量の魔物。だがメリスは構わず突撃を行い、剣を振り魔物を一蹴する。

 また魔物達は彼女だけでなく後続にいる神族達も標的にする――と、アレシアが迎え撃つ動き。部下達の半数がそれに従い、残りの半分は待機。外を担当するようだ。


 どちらにせよ、そう遠くないうちに魔王と交戦することになるだろう……急がなければ。

 俺は廊下を走る。魔王の位置は気配で捕捉していて、そちらに向かって走れば辿り着くだろう。そう推測した矢先、正面に俺の上背を超えるオーガが現れた。


「――邪魔だ」


 対する俺は一言発し、敵が動き出す前にすれ違う。その間に剣を一度軽く振り――それが決定打となり、オーガは死滅した。

 うん、魔物は敵じゃない。残る問題は魔王そのものだが……ちなみに魔物の強さで魔王の強さは計ることができない。なぜなら魔物の生成能力には得手不得手があるからな。俺が魔王だった時の部下でもそういうケースは存在した。


 よって、直接相対しないと力量までは不明だが……俺自身はそれほど悲観していない。魔王の知識と父を始めとした勇者の知識。それらによって、どれだけ力を持とうとも対処できる手はずを整えている。


 俺は迷わず突っ走る……が、その途中でまたも魔物と遭遇。そして瞬殺。ただメリス達の勢いも相当なもの。この短時間で彼女やアレシアは城門を突破し、城内へとなだれ込む。

 冒険者や兵士の犠牲をできる限り少なくするために、一気に突破するという感じだろうか。俺も急いではいるが魔王が待つ場所までちょっと距離がある。味方に見つからないよう少々離れた場所から城へ侵入したのが少し失敗だったようだ。


 とはいえ、このペースならば俺の方が早く到達する。交戦をすぐ始めてメリス達がやってきたところで魔王を圧倒する……うん、これでいこう。

 頭の中で結論を導き出した時、いよいよ魔王が待つ場所へ近づく。まだメリス達は交戦していて俺の方が――


 と、考えた矢先、俺を阻むように魔物が現れる。だがこっちは一撃。すかさず剣に魔力を込めて対峙。

 次の瞬間、俺は魔物をまたも瞬殺する。そうして急ぎ魔王の下へ――そう思った時、変化が起きた。


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