捕縛
魔物達が一斉に迫る中、メリスは剣を振るいそれを全て倒し続ける。一方、魔族だって攻撃を仕掛けるが、彼女としては一番警戒する相手であるため、その攻撃が当たることは決してない。
魔族の力量はそこそこなので、メリスに直撃すれば少しくらいは通用するかもしれないが……いや、彼女のことだから相手の能力くらいは把握しているはずで、当たっても問題にはならないだろう。
で、魔族の矛先はメリスへと注がれたようで、俺が動いても問題はない……よし、十分な距離に近づけた。ここで俺は魔法を準備。
さらに剣を抜き臨戦態勢に入る……よし、いつでもいけると思った矢先、苛立った魔族がさらに攻勢を掛けた。
だがメリスは光の剣を大きくして、それを一蹴する。魔物が耐えきることはまったくできず、ただいたずらに数が減っていくだけ。魔族としては腹立たしい光景だろう。
しかし魔族はそれでも魔物をけしかける。どうやら攻撃を当てるには魔物を利用しなければならないと考えているようで、隙ができた時に刃を差し込むつもりのようだ。
これなら魔族が攻撃するタイミングで動けば間違いはないだろうな。メリスと事前に行った打ち合わせで、俺がどうやるかは完全に自由という形になっている。これは俺のことを信用しているって話だろう。というわけで、
「舐めるなよ……!」
魔族が吠える。そして自身もまたメリスへ仕掛けるべく、魔物と共に疾駆する――今だ。
そう俺は思いながら左手を振った。それにより魔族の足下がわずかに発光し、光の帯が出現する。
魔族もすぐさまそれに気付いたようだが、タイミング的にも虚を衝かれた形で避けることができなかった。もう少し冷静だったら反射的に動いて対処できたかもしれないが、メリスだけに注目した結果がこれだ。彼女の勝ち、と言い換えてもいい。
「なっ……!?」
魔族は驚愕し――すぐさま気配を察知したか俺の方を見た。
「油断したな」
こちらはそう応じる。同時、魔物達が一斉にこちらへと向かってくる!
だが、俺はメリスとまったく同じ技を行使し、一蹴。剣に触れた瞬間全てが消え去るのを見て、魔族もメリスが使うものと同じ技だと認識できたはず。
「仲間……か……!」
「そういうことだ。こっちの作戦勝ちだな」
告げながらなおも攻撃してくる魔物を撃破。さて、魔族を捕らえることには成功したが、いまだ魔物は向かってくる。動きを拘束しただけで魔族の動向を抑えたわけじゃないからな。本来は魔族を滅さない限り攻撃してくるはずなので、どうにかして対処する必要がある。そこで、
「悪いが、少しおとなしくしていてくれ」
パチッ、と小さな炎でも弾けるような音が発された。それと共に魔族は呻き、ガクリと顔を俯かせた。
気絶させたのだが……俺の拘束魔法は体全体に行き渡っているため、傍目から見ると魔法により支えられながら棒立ちになっている。シュールだな。
「フィス!」
そこでメリスの声。見れば彼女はなおも魔物を倒し続けている。
「動きが明らかに鈍くなった!」
「よし、それじゃあ倒すとするか」
放置して魔族と共に離脱することもできるのだが、数が数なのでこのまま放置すると町とかに行ってしまう可能性がある。ここは対処しておいた方がいいだろう。
ということで、俺とメリスはその後しばし魔物を狩り続ける。魔族が命令を発していたのは間違いないようで、気絶して以降、魔物の数が増えることはなかった。
地底から出現する魔物がいなくなり、森が落ち着きを取り戻したので俺達は大穴から少し離れ、森の中へと移動する。
で、森の中にある一角、少しばかり開けた空間で魔族に対し尋問することに。抱えて移動した後、地面に寝かせ再度拘束魔法を使用。ついでに魔力とかを封じ込める魔法を使い、魔物を呼び寄せないようにしておく。
「答えてくれなかったらどうする?」
メリスが訊く。それに俺は「大丈夫」と答える。
「このくらいの魔族相手なら、魔法が使える」
「魔法?」
「魔物なんかを一時的に使役する魔法を持っているんだ。魔族などに対して使えば、無理矢理質問に答えられるように仕向けることができる」
「……なぜそんな魔法を?」
「いや、本当は魔物を操って同士討ちとかさせられないかなーと考えていたんだけど、効率が悪いということで使わなかった……ただ、そういう効果を発見し今回使えると思ったまで。偶然の産物だよ」
メリスに対しアバウトな説明を行いながら俺は準備を進める……と、魔族が起きた。
「ぐ……ここは……」
「地底の大穴から少し移動したところだよ」
律儀に答えると魔族は目をカッと見開き、
「貴様らは……!」
「言っておくけど、あんまり反抗的な態度をしていると身の安全は保証できないぞ」
「……尋問でもするつもりか?」
「そういうこと。あ、自発的に答えてもらわなくてもいい。魔法を使って無理矢理喋らせるから」
「馬鹿な、そんなこと――」
魔法を使用。そこで魔族は喉の奥から絞り出すような声で、
「な、何だこの魔法は……!?」
「魔族相手に使うの初めてだから感触とかよくわからないけど……気持ち悪そうだな」
「そんな魔法使って大丈夫?」
メリスが質問。そこで俺は首を向け、
「俺は平気」
「それはまあ、そうだけど……」
魔族の顔が苦悶で歪む。魔法的には浸食していくような感じだから、たぶん体の中で虫でも這い回っているような感触を抱いているのだろう。
「よし、魔法は成功だ……それじゃあ問うぞ。名前は?」
「……ボノン=ブローだ」
そう名乗った瞬間、ボノンは目を見開く。自覚して喋ったわけではないようだ。うん、成功だな。
「よし、魔法は効いている。ちなみにこの魔法は名を告げた上で問うとさらに拘束力が高くなる。つまり機密情報でも喋りやすくなるって効果だ」
「ま、待て、貴様……」
「フィス、一通り喋らせたら滅ぼすの?」
「内容を聞いたら改めてどうするか考えよう。幸い色々と手持ちに使えそうな魔法があるからな」
ボノンの顔色が青くなっていく――今更ながら気付いただろう。最悪な敵と遭遇してしまったと。
ま、気付いたところでもう遅い。俺はいくらかメリスを会話をした後、
「それじゃあ、質問をしようか……ボノン、お前の主の名をまずは話してもらおうか」
言葉と同時に、ボノンは耐えようとしたみたいだが、口が勝手に開き――詳細を、語り始めた。




