新技術
メリスは俺が教えた技法を使う……そう確信し、魔族へ仕掛けるタイミングを窺うことにする。
ひとまず魔族はまだ動いていない。メリスの実力を確認し、どう立ち回るのかを考えているといったところか。
そして魔物がメリスのところへ押し寄せる――もし俺が技法を伝えていなかったら、面倒なことになっていただろう。彼女なら魔物の間を縫って魔族のところまで到達することはできるが、どこかで引っ掛かったら相当な足止めを食らう……場合によっては負傷する可能性もあるな。
まあだからこその、新たな技法――直後、メリスが構え、剣に光が宿る。
魔族も何をするのか注視する構え。直後、彼女の剣が一閃され、
――剣の間合いに到達していない魔物を含め、周囲にいた敵が等しく吹っ飛ばされた。
「……何?」
さしもの魔族も警戒の色を見せる。だがどうやら何をしたのかは理解したようで、
「そういうことか……光で刃の長さを延長し、吹き飛ばしたと」
正解である。簡単に言うとメリスが所持する長剣に光の剣を封じ込め、それを大きくすることでリーチを伸ばす、というのが今回の技術である。
だったら最初から剣を使わず光の剣だけで――と思うところだが、彼女が握る剣にはなかなかの攻撃力が備わっているため、今回はそれを利用させてもらった。俺が教えた光の剣と彼女が持つ剣の魔力が強く結びつき、相乗効果で切れ味など攻撃力そのものを引き上げる……結果、魔法単独で使う時よりも威力を出せるというわけだ。
加え、光の剣を本来の長剣が持つ長さに留めることで、光と本来の剣による相乗効果が最大限に高まり、攻撃力が最も高くなる。つまり威力を出したければ光を凝縮させればいい。硬い敵に対しても応用が利く技術であり、なおかつ剣の特性などを変えているわけではないのでメリス自身が持つ技術をそのまま行使できる。彼女にとっては利点の多い技法というわけだ。
さらに魔物がメリスに襲い掛かる……が、それもまた光の剣を伸ばして間合いに届くより遙か手前で吹き飛ばす。威力はなかなかのもので、吹き飛んだ個体の半数以上は地面に激突する前に消滅している。残りも相当なダメージを受けたためか動きは鈍く、全力で戦うことは無理そうだった。
「なるほど、面白い技法だ……まるで、大量の魔物と戦うために用意された技術のようだ」
魔族の目が鋭くなる。ふむ、魔王ゼルドマにとって面倒な相手……だからなのか、ここで潰しておかなければ、と考えたか?
その間になおもメリスに魔物達が迫る。大穴から魔物が断続的に出現しているのだが、それを彼女が一蹴している状況。魔族としては面白くないだろう。けしかけた魔物を片っ端から倒しまくっているのだから。
ここで魔族が逃げるか、それとも攻撃するかどうか……俺もその辺りについては即判断し動かないと捕らえることは難しい。もし逃げる素振りを見せたら即座に行動開始、といこうか。
そんな風に考えた時、突如魔物の進撃が止まった。何事かと魔族を観察すると、手を上げ攻撃を止めたようだ。
「……配下では抑えることすらできないようだな。これ以上数を減らされると面倒だ」
お、その口上だと自ら戦うつもりか……俺はじっとその動きを追うことにする。同時にいつでも行動に移せるよう体勢を整える。
――作戦の詳細はそこそこアバウトなのだが、メリスが光の剣で敵を蹴散らし魔族の気を引く。交戦するか逃げるかわからないが、隙を見せた段階で俺が奇襲して捕まえる。段取りとしてはこんなところだ。
現状でもメリスに視線を向けているのでいけそうなのだが……いや、まだ周囲を警戒している。時折視線を別に向けているし、メリス以外の伏兵を気にしている。
俺と魔族との間にはまだそれなりに距離がある。さらに近づきたいところだがこれ以上前に進むと魔族ではなく魔物に気付かれる可能性もある。今は魔物をメリスに集中させているのでとりあえず見つかってはいないが……さて、どうしたものか。
「それなりの使い手ということならば、こちらも相応の態度で示そう」
その言葉の直後、魔族が一気に踏み込んだ。気付けばその手には漆黒の剣が一本。
メリスは光の剣を刀身に収束させ、まずは受けた。金属音が森の中にこだまし、激突により魔力が拡散したか周囲にいる魔物達がにわかにざわつく。
すぐさまメリスは押し返す。そして距離を置こうとしたが、魔族は追撃を仕掛けた。
「手早く終わらせるのが私の好みだからな」
刺突を決める。だがメリスはそれを見切ってかわした。
剣先に込められた魔力から、相手の能力を探ってみる……決して弱くはないが、新たな技法を習得したメリスならば剣が直撃すれば一気に仕留めることだってできるだろう。光の剣の出力はもっと上げられるし、彼女が全力を出せば魔族が逃げるくらいの威力にはなるはずだし。
ただ彼女としても逃がすわけにはいかないためあえて力をセーブしている……さて、魔族が完全にメリスとかみ合いそちらに集中し始めたので、いよいよ俺の出番か。
二度目はないのでタイミングを見極め、確実にやる。俺は魔法を準備。そこから金属音が天高く響くのを耳にしながら淡々と作業を進める。
魔族にばれないよう、魔法を仕込むだけなのだが……よし、できた。
なおもメリス達は斬り結んでいるが、やや膠着状態といった形か。まあ俺の準備が整うまでの時間稼ぎをしているのだから当然だが。
しかし相手の魔族は仕留めるために頑張っているはずで……あ、イライラし始めた。
「貴様……!」
悪態をつきながら幾度も刺突を放つが、メリスは全て避ける。たぶんわざとやっているんだろうな。感情的になってもらった方がこっちも作戦が成功しやすいので、これはこれでいい。
ここで、メリスは剣を大きく弾いて後退する。結果、両者はにらみ合うような形となり、しばし森の中で動きを止める。
魔物達が唸り声を上げる中で、メリスはよどみなく敵を見据え続ける……魔族としても厄介な相手だと思ったことだろう。魔物を殲滅できる力に加え、自分とも渡り合える存在。どういう経緯で現われたのか知らないが、ここで潰しておかなければ――そう強く考えたはず。
その推測が正解であるかのように、魔族は駆ける。しかも今度は彼だけでなく、魔物達も一斉に襲い掛かる。
お、これは理想的な展開。魔物も完全にメリスへ集中し、森を警戒するような個体もいなくなる……近づく好機。
そして俺は森の中を進み――二人の戦っている地点に程近い茂みに到達した瞬間、行動に出た。




