予想外の敵
魔王がいると思しき地底の大穴から最寄りの町へ赴き、そこで俺達はマーシャと合流。話し合いをすることに。主な議題は地底攻略について。
「なるほど、私のゴーレムを荷物役に使うと」
場所は宿の一室。そこで俺は椅子に座り、またメリスはベッドに座り、立っているマーシャと会話を行う。
「人員がいるってのは納得できるし、用意することはできると思うわ」
「本当か? なら――」
「ただし、資材が必要よ。ゴーレムの製法は知っているし分身でも作ることはできるけど、材料がないと」
「金ならあるけど、問題はその資材がこの町にあるかどうかだな……」
ギルドはあるのでお金を引き出すことはできるけど……。
「何か特別な物とか必要なのか?」
「そこまでは大丈夫よ。ただ魔法の道具を使うから、売っているかどうかねえ」
……とにかく探してみないと始まらない。よって俺達は町で道具を探し始める。
それなりに大きな町であるためか、とりあえず魔法関係に賊する物が売っている場所は発見。メリスと協力して色々探し回った結果……マーシャが語った材料についてもあった。
「うん、これならゴーレムを作成することはできるわね。数体でいいでしょう?」
「そうだな。時間はどのくらい掛かる?」
「三日くらいかしら」
その程度の時間であれば、魔王ゼルドマが動き出す危険性もないだろう。よって三日間、俺達は町で過ごすこととなった。
「で、俺とメリスがやることとしては――」
「当然、鍛錬」
メリスは明瞭に答える。それはそうだな。というわけで、俺達は郊外に出て鍛錬を開始する……なんというか、本当にメリスは真面目である。
なぜかという理由については嫌というほど知っているので別にそれで構わないが……とりあえず魔王ゼルドマとの戦いに備え、現在教えている技法が完成できればいいかな。残り三日もあればたぶん大丈夫だろう。
そういうわけで俺とメリスはこれまでと変わらず、延々と剣を振り続けることに――その鍛錬はメリスにとっても良いものとなったらしく、結果として俺が教えた技法については、完全にものにした。
で、身になった時には三日目が過ぎていた……彼女としてはより多くの技法を、と思ったようだが、
「残念だが、時間切れだな。マーシャもゴーレムが完成したと言っているし」
「そうだね……」
どこか不服そうなメリス。そんな様子に俺は苦笑し、
「焦るな。この魔王との戦いでは有効な技法だし、これが習得できたのだから次にも繋がる」
「わかった」
――そんな感じで鍛錬を終える。強くなったのは事実なんだけど、俺の強さを知っているからなのか、まだまだ強くならなければ、先を見据えなければ……そんな風に感じているのがありありとわかる。
生き急いでいる感が半端じゃないけど……転生して以降、彼女の人生はそうやって形作ってきたのだろう。よって俺としても無下にはできない。
この辺りについては、俺も注意しなければいけないだろうな……そんな風に思いながら、訓練最終日は終了した。
翌日、地底攻略出発の日、俺とメリスは郊外に出て真っ直ぐ大穴のある森へと向かう。マーシャとはそこで合流する予定だ。
そして歩いている最中……俺は森側にいるネズミで変化を感知する。
「あー、魔物がずいぶんと動き回っているな」
俺の言葉にメリスは首を傾げ、
「動き、回っている?」
「ああ。大穴近くにネズミを置いて動向を監視しているんだけど、どうも魔物が大穴の入口周辺で動き回っている」
「いよいよ動き出したってこと?」
「うーん、そういうのとは少し雰囲気違うんだけど……」
返答した矢先、俺は大きな変化を目の当たりにする。大穴から、人影が。
「あ、地底から人が出てきた……いや、魔族か」
黒マントを羽織る魔族……美青年、といった雰囲気の存在ではあるが、残念ながら魔王ゼルドマではない。
「ネズミを通して感じ取れる気配からして、魔王ゼルドマの部下だな。さて、メリス。どうする?」
「捕まえて情報をとろう」
当然そうなるよな。よって俺はその魔族の動向を探りながら森へと向かう。
森の入口に辿り着くと、マーシャが待っていて外套を羽織った女性型のゴーレムが三体、荷物を所持し傍に控えていた。
「お疲れ、二人とも、準備はできているよ」
「そちらも既に準備万端みたいだな。ただ一つ訊いていいか?」
「どうぞ」
「何で女性なんだ?」
「基本的に女性ばっかり作っているからね。ゴーレムだから見た目が女性だろうと能力は変わらないわよ?」
……まあ見た目がどうとか、今回の探索にはまったくの意味はないし、別にいいか。
「それで、マーシャ。地底の入口に魔族が出現したんだが、そちらは感じているか?」
「森の中に変化はあるなってことくらいはわかるわ。捕まえて情報をとるの?」
「そういうことになる。話が早くて助けるけど……」
問題はどうやって捕まえるか、だな。
「援軍とか来られると非常に面倒だ。一気に捕まえて尋問したいところだが……」
「フィス、方法はある?」
「魔族の能力とか特性がどういうものなのか、まずは知りたいところだな」
滅するのならば簡単だが、捕まえるとなると一工夫必要になってくる。
「それに捕縛を確実にするなら、それなりに準備をしたいところだな。魔力の分析とかをやって、確実に捕縛する。相手に逃げる可能性は限りなく減らしたいし」
「なら、私がやるよ」
メリスが表明。どういうことかと首を傾げると、彼女から説明が入った――
「……なるほど、それならいいな」
「ええ、私も良いと思うわ」
俺とマーシャは相次いで賛同。ただし、
「けどメリス、危険な役目を担うことになるけど」
「そのくらいのリスクは覚悟しているよ。それに、魔王でもない魔族相手に苦戦するようでは、話にならないでしょう?」
そうとも言えるのだが……本人がやる気みたいだし、ここはやらせてみようか。
「わかったよ。ならその作戦でいこう……マーシャは入口に待機してもらって、場合によっては逃げること」
「そこは大丈夫。こっちの心配はしなくてもいいよ」
言った後、彼女はゴーレムに指示を始める。さて、地底攻略当日になって思わぬ戦いとなった……が、決して悪い話ではないだろう。
むしろ、魔王との戦いに近づいてと考えていい。では、行動を開始するとしよう――




