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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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彼女の見解

 俺が思いついた訓練メニューとは、集団との戦いにおける技法である。メリスは魔王を討つために修行をしたせいか、どうしても一対一という言わば「単体に攻撃する」手法が多く目立つ。けれど今回の戦いでそれをやると効率が悪い。なので少し指導しようという考えに至った。

 教えるものについても、メリスほどの技量があれば容易いものを頭の中でピックアップし、伝えることにする。


「どうだ? 今回の相手を想定すると有効だと思わないか?」

「確かに、役に立ちそうだね」


 メリスも納得の表情。よって俺達は早速訓練を開始。


 既にラクラノの屋敷を出てそれなりに経過しているのだが、この調子でいくとあと数日で目的地には到着する。この段階で教えるにしても付け焼き刃といった感じになりそうだが……メリスは鍛錬を欠かしていないし、人間として得た技術もある。使うにしても問題はないだろう、


 で、指導する間に改めて思うが、彼女の剣は真っ直ぐで俺が保有する特殊な技術についての習得はその独自性により遅いのだが、現在教えている技法はそう難しいものではないので、メリスはスラスラと覚えていく。

 ここから考えるに、剣士としての特性は相当高いことがわかる。一度転生している以上は、生来の力というわけではないだろう――


「……メリス、一ついいか?」


 時刻は夜。宿を抜け出し鍛錬していた時、彼女に問い掛けた。


「その剣術の腕前……それは元魔族ということが関係しているのか?」

「ううん、違う。前世である魔族としての体は、戦うということについて何の才能もなかった」


 そう返答しながら彼女は訓練を続ける。


「だから私はマーシャに頼んで転生した……記憶は保持したままだけど、今の私の体は前世とは別物」

「人間として転生し、力を得たってことか」

「そう……フィスはこんな方法で強くなった私を、どう思う?」


 俺は少し間を置き、


「理由を深く尋ねるようなことはしないけど、そこまでメリスは魔王ヴィルデアルの仇を討とうとしている……良い魔王だったんだな」

「人間からしたらどうなのかわからないけれど、私や、同胞からしたら良い魔王だった」


 剣を振るのを中断しながら答えるメリス。ちょっと気になったので、俺は突っ込んだ質問をしてみることにした。


「メリス、答えられる範囲でいいんだけど……魔王ヴィルデアルについて、どういうところか良かったんだ?」

「正直、そう問われても答えようがない」


 メリスは返答すると、どこか遠い目となった。


「陛下は私にとっての全てだった……人間に迫害されていた私を助けてくれたのが陛下。だからこそ命を……全てを捧げ、陛下にお仕えするのが普通だと思っていた」

「別に魔王ヴィルデアルがそうやってくれと言われたわけじゃないだろ?」

「うん。けれどそうやって活動することこそが、陛下に報いるためだと思っていた」


 ……なんか、話だけ聞いていると……たぶんだが、


「魔王の城にいた魔族というのは、そうやって魔王ヴィルデアルに助けられた者達なのか?」

「ええ、ほぼそう」


 ……確かに俺は助けて住まわせる目的であの城に招いていたのだが、


「あの城にいた魔族というのは、その……恩義を感じ、メリスと同じように思っていた者も多かったのか?」

「口で表明する者はいなかった。けれど、そう解釈して構わないと思う」


 ――まず俺と同胞達の見解の相違点として上げられるのは、ここか。つまり「俺が助けたことにより強い感謝を抱いていた」ということ。


 城に招いて住まわせていたわけだが……俺としては自由にやってくれということであまり干渉もしなかったのだが、同胞達は自分に何ができるのかを考え、独自に動き出した……要約するとこういうことだ。


 恩義を抱いているということ自体は良いのだが、最大の問題は同胞はそれで良しとしなかったこと。俺は気付けば魔王と呼ばれるようになったわけだが、魔王として俺の権威などを高めるために、彼らは自発的に活動していた。

 確かにこれでは俺が何を言っても聞かないのはわかる。そもそもスタート地点で見解の相違があるのだ。俺自身同胞を助けたから働けと言った憶えはない……見返りは求めていなかったが、そう解釈しなかったのだ。


 これ、俺からしたらありがた迷惑なわけだが……ふむ、マーシャの口ぶりからもそうだったが、俺を相当神格化していることがわかる。

 ただ、だからといって魔王ヴィルデアルのメッキをはがそうなどと考えたらメリスが激高して終わりだろう。魔王についての認識を変えることは難しいようなので、別のアプローチが必要そうだ。


 しかし方法は現時点で思い浮かばないな……それに、メリスの語りぶりからすれば魔王の神格化は彼女だけじゃないな。たぶん俺の指示を受けて隠れ住んでいる存在……ラクラノのような同胞の中には、同じような認識で動いている者だっているかもしれない。


 場合によっては魔王ヴィルデアルの遺骸と称するものを所持して、俺を復活させようと頑張っている者だっているかもしれない……マーシャに言ってそういう同胞がいたら連絡してもらおう。


「わかった、情報ありがとう……」


 と、ここで俺は一つ……これに言及していいものかと思ったが――その、訊かずにはいられないことがあった。


「……無礼を承知で訊くんだが、いいか?」

「いいよ」


 ――たぶんメリスはこういう質問されることは予想していないとは思うけど……どうしても訊きたくなったのだ。


「その、魔王ヴィルデアルに対し、特別な感情とかはあったのか?」


 こちらの言葉に対し、彼女は一時沈黙する。最初は怒っているのかと思ったが、どうやら違う様子。俺は彼女の言葉を待つことにして沈黙していると――やがてメリスは、返答した。


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