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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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人間との営み

 その後、俺達はラクラノが持ってきた地図を用いて作戦会議を開く。結果としてここから一番近い場所の魔力集積点――つまり魔物の巣がある場所を調べるという結論に至った。


「言っても無駄だと思うけど、無理はしないでくれよ」


 ラクラノがメリスはそう言ったが、彼女は「ええ」と返事をしてあまり取り合っている様子ではない。彼としてもそれはわかっていたので、追及はなかった。


 で、この日は彼の屋敷で寝泊まりすることになり、夕食も彼が作ってくれた……正直結構美味かったので驚いた。

 そして寝る段階となって、俺は彼に一つ話をしてみようと思った。それは、魔王ヴィルデアルが滅び、人間に対しどう考えているのか。


 夜、俺は寝る支度を整えてからラクラノと話をするべく歩いていたのだが……彼は廊下で外を眺めているのを発見。


「ラクラノ、どうしたんだ?」


 問い掛けると彼は首を向け、


「いや、遠目ではあるけど村の様子を見ていたんだ」


 窓の外を見る。遠方ではあるけど、遠くに明かりがあった。村からのものみたいだ。


「以前この窓から外を見たら、燃えていた時があってね……」

「トラウマになってるのか。村の人とは仲が良いのか?」

「ああ、良くしてもらってるよ。私は医者のようなことをしているだけで、後は好き勝手にやっているだけなんだけど、ね」


 苦笑するラクラノ。なんだか人間に対し好意的なんだが――


「……あー、ラクラノ。俺のことは夕食の席で詳しく話をしたわけだが」


 そう前置きをする。メリスに伝えていた旅の目的などをラクラノにも伝えてある。その時は彼も大した反応を示さなかったのだが、


「俺に対し、思うところはないのか? メリスが同行しているとはいえ、俺はあんたの王様であったヴィルデアルを討った男の息子だが」

「討たれた当初は当然、憎んでいたよ。けれど時が経ち、振り返って気付いた。陛下は人間と争わないように尽力していた。だから少しずつ考えが変わっていった」


 そう彼は答える……おお、俺の真意をわかる同胞もいたんだな。


「他の部下はそうじゃないと考えるかもしれないけど……私だって孤独になった後で気付いたのだから、結局のところあの戦争をどうにか止めるとか、そういうことはできなかったと思う」

「そっか……人と接しているのは理由があるのか?」

「人と争わずに暮らしていくには、秘境に住み着くかマーシャや私のように人間と共に暮らしていくしかない。私は後者を選んだ。研究をしたかったし、材料など金銭的な面は人間に頼らなければいけなかったからね」

「仕方なく、ってことか?」

「最初はそう思っていた。けれど、この村の人々と接しているうちに、私は陛下が何を考えているのかわかった気がする」


 そう述べると彼は、どこか遠い目をした。


「陛下は人間と何かあったのか……そんな推測をしているんだけど、ともかく人間の本質というか、善の部分に重きを置いていたんだと思う。人間は魔族を迫害しているわけだが、それは過去の様々な事実に起因するだけで、人間そのものに罪はないと思う……だから陛下も干渉しようとしなかった」


 そこまで言って彼は、小さく微笑んだ。


「人間と何か強い関係……絆とか、そういうものがあったなんて、同胞が聞いたら殴られそうだけどね」


 ――もし俺の正体を明かし、さらに「俺は元人間だ」と答えたら、彼はどう反応するだろうか?


 さすがにこの部分はマーシャにも話していないからな……そもそも魔王として活動していた以上、胸の奥に留めておくしかできない事実ではあったのだが。


「なるほど、な」


 俺は納得の声を上げたのだが、今度は彼から問い掛けてきた。


「むしろ私は君の方に興味がある」

「興味?」

「魔王ヴィルデアルと勇者エルトの戦い……それを契機にして君が陛下に興味を持ったことはわかった。ただ、調べてどうするんだい?」

「それを知ってどうするのか、とかは俺も深く考えていないよ。将来どうしようかとか、その辺りについてはこの旅を通して見つけることができればいいな、と思っているくらいだ」

「明確に何をしたいか、とかは考えていないと」

「そうだな」


 最終目標は同胞が安心して住める場所を、というわけだが……それをマーシャ以外に話せる日はいつになるのか。


 神族の主神に会うという目標を掲げ、なんだか逸れた方向に進んでしまったな。戦う相手がヴァルト絡みかつ、どうやら魔王ヴィルデアルが滅ぶきっかけとなったという経緯を踏まえれば無視するわけにもいかないのだけれど……まあ、この戦いを利用して主神に会えるような形にできれば……とは思うけど、さすがに現時点で神族が動いている気配はないし、どうしたものか。


「――今回、マーシャの意見を聞いた時、これはまずいと思った」


 ここでラクラノは話を変える。


「もし魔王ゼルドマが復活したとしたら、とてもじゃないけど手に負えるような話ではない。私としては懇意にしてもらっている村の人々をどうにか助けたいと思ったが、彼らが土地を離れるようなことはしないだろうし、戦闘能力もないからね。二人のことだって心配だけど、それ以上に希望の光のように思えた」

「期待してもらって構わないよ……現在、この周辺はまだ魔物が増えていないんだよな?」

「ああ、そこは念入りに調べているから間違いない」

「わかった。時間が経てばこの周辺でも魔物が増えるだろう。だから決着がつくまでは警戒を強めてくれ」

「ああ」


 ――その表情は村人を慮るもの。魔族や人間という立ち位置ではなく、純粋に村人達と交流を行う者として、守りたい……そういう心情がはっきりとわかる返事だった。






 翌朝、俺達は早々に出発する。


「二人とも、気をつけて」

「ありがとうラクラノ」

「戦いがどうなっても、一度報告に来るから」


 メリスはそう告げると彼は「頼むよ」と告げる。そして俺達は旅を再開。

 ラクラノの情報は非常に有益だったので、一気に魔王ゼルドマに近づいた。後は魔王を叩きのめすだけだが……大量の魔物がいる以上、戦術とかも考慮しなければならないだろう。


 そこで、一つ……俺はメリスに対する訓練メニューを思いつく。戦いが始まる前にやっておくか……そう決断し、目的地へと進んだ。


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