魔物について
メリスの事情に踏み込み、色々と話してから旅を続け、俺達はリューメイ王国へと入る。最初に訪れた国境に程近い町を訪れ俺達はギルドで情報収集をすることにした。
で、少し調べてわかったことは……出るわ出るわ、魔物の情報が。
「最近魔物の数が増え、なおかつ活性化している。冒険者家業をやっている身としては仕事があってありがたい話だが、商人とかの間で話が出回っているせいか、物流の動きが鈍かったりするな」
そんな情報をギルドにいた冒険者から聞くことができた。まだ被害は大きくないようだが、経済的に影響が出始めているらしい。
「どこから魔物が出現しているとか、話はあるのか?」
俺が疑問を告げると、冒険者は腕を組み唸り始めた。
「国全体で出現率が上がっているんだよな」
「国全体?」
「満遍なくってことだ。どこかが多いってわけじゃないから、発生地点なんかもよくわかっていない」
そこまで言うと冒険者は何か思い出したように、
「お、そうだ。学者の話によると環境の変化によるものじゃないかって」
「環境……つまり、自然発生する魔物にとって何か環境が変わったと」
「そういうことらしいな。あ、俺はそろそろ出ないといけないから。じゃあな」
去って行く冒険者。横を向くとメリスが立っていた。別の冒険者から話を聞いたのだが、
「どうだった?」
「フィスと話をした人と同じようなことを語っていた」
「……マーシャが魔王ゼルドマが関与しているんじゃないかと言われなければ、単なる環境の変化で終わらせる話だよな」
「もしゼルドマがやっているとしたら、あえてそうしていると?」
「その可能性は高そうだ」
どこに自分がいるのかをわからないようにしている……現在魔物は怪しまれないように好き勝手に活動させているわけだが、準備が整ったら魔物達は魔王の命令を受け、国を蹂躙し始めるはずだ。
「問題はどこにいるのか……魔王ゼルドマが人間に敗れた経緯を考えると、そう簡単に尻尾は出さなそうだな」
「つまり、今回魔王は密かに行動すると」
「そういうことだ。魔王ガルアスと同じように迷宮に居座っているなんて可能性もあるな」
さて、どうするか……もし遭遇しても俺とメリスなら勝てると思うが、対決に至るまでが大変そうだ。
「メリス、現段階で得られた情報から、どう動くか案はあるか?」
「居場所の特定しないといけないわけだから調べ回るしかないけど……そうやって悠長に歩き回る間に魔王は準備を整えるだろうね」
「そうだな。今のところそれほど被害が出ていないにしても、実際に町なんかを襲うような数になった時点でかなりまずい」
今はまだ駆除できているくらいなので、どうにか短期間で見つけ出したいが……例えば俺の索敵魔法を使えば、居場所が特定できる……かもしれない。
けれどこれには問題がある。密かに行う索敵とは違い、国を対象にやるとなるとさすがに相当な魔力を放出する。それにゼルドマが気付いたら奥へ引っ込んでしまうかもしれないし、最悪ヴァルトがこの国にいたら……俺が魔王ヴィルデアルであったことを看破されることはないだろうけど、さすがに警戒されるだろう。
できることならそういう事態は避けたい……本来なら国を通して調べるくらいの話だが、現状魔王の仕業であるという確証はどこにもないため、国だって動くことはないだろうし手助けはないものと考えた方がいい。
マーシャの話という形でここに赴いたのはいいが、魔王ゼルドマも前回の反省を生かして狡猾にやっているらしい。どうするか――
「……ん」
そんな折、ふいにメリスが呟いた。
「どうした?」
「マーシャが近づいてくる」
「マーシャが?」
メリスと連絡を取り合う分身か。普段は人目につかないような場所で待機しているはずなのだが、
「何か情報を持ってきたのかも」
「情報か……ここで待つか?」
「外に出て合流しよう」
彼女の提案に俺は承諾し、外へ。そこで分身のマーシャと顔を合わせる。
「お、やっぱりギルドにいたわね」
「真っ昼間からどうしたの? 普段は魔族の気配を露見されないよう郊外にいるよね?」
……分身だし上手く隠しているのでそうそうバレるようなこともないのだが、メリスの周辺には強い勇者や騎士が集うため、そういう人にあまり目を向けられないようにするためらしい。
「まだ強い人と出会っていないし、それに二人にいち早く聞かせたいことがあって」
――当然だが、俺がメリスやマーシャのことを知っているというのは既に共有してある。
「実はこのリューメイ王国に陛下の下で働いていた同胞がいるの。二人が旅立ってから、連絡がとれた。もしかすると手を貸してくれるかもしれない」
「手を……魔王ゼルドマの居場所がわからないんだけど、その辺りで協力してもらえるのかな?」
「あー、もしかしたらいけるかも」
「どうする、フィス?」
「その魔族の名は?」
「ラクラノという名前の魔族。私と同じ研究職の魔族だった」
彼か……地味な男性という見た目なのだが、マーシャ以上に重度の引きこもりで俺もあんまり顔を合わしたことがないくらいだった。
彼もマーシャと同様色々と研究していたのだが……ふむ、優れた魔法使いであることは間違いない。何か知っている可能性はありそうだな。
「ちなみに進路はこの町から南へ。近くなったら私から案内するわ」
「だそうだけど、フィス……どうする?」
――ラクラノは好戦的な魔族じゃないし、マーシャから連絡も入れるだろうから、まあ大丈夫だろう。
「ああ、俺は構わないよ。情報を得られる可能性があるというのなら、行ってみる価値はありそうだ」
そう俺は告げた後、マーシャに依頼する。
「魔族の所へ向かうとするよ。というわけで案内と連絡を頼む」
「ええ、わかったわ。フィスのことは伝えておくから心配しないで」
「……というか、その魔族は俺に対しどう思っているんだ? 魔王ヴィルデアルを滅ぼした勇者の息子だぞ」
「私やメリスが手を組んでいることから、納得はしているみたい」
そこを訪れたらいきなり後ろから刺される、なんてことはないよな……まあ尻込みしていても仕方がない。
「わかったよ、その辺りについては出たとこ勝負ということで……メリス、向かってみよう」
「うん」
というわけで俺達は移動を開始。情報が得られないので町に未練はなく、そのまま進路を南へ向ける。
「ひとまず街道は平和だけど……」
俺は平原に続く街道を見回す。魔物の気配は一切ない……のだが、商人の馬車なんかは気持ち護衛が多いようにも感じられる。
少しずつではあるが、魔王の魔の手が忍び寄っているのは間違いない……ふむ、今回は騎士などを呼ぶことも難しいし、目立つことなく戦う形になりそうだ。
そういうわけで、俺とメリスは魔族ラクラノの下へ向かうことに――その旅路自体は穏やかで特に問題が生じることもなかった。




