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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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次の目標

 マーシャは一体俺にどういう言葉を……少し身構えていると、


「あ、あのー、陛下? 私ですねえ、陛下のその、生い立ちと言いますか、陛下が辿ってきた歴史について興味があると言うか……」


 ……突然彼女はそう語り始めたのだが、普通の声じゃない。


「猫なで声やめてくれ……似合ってないぞ」

「も、申し訳ありません。しかし、陛下――」

「言っておくが、話すつもりはない」


 ピシャリとしたこちらの言葉に、マーシャの口は止まる。


「語るには長すぎるし……それに」


 俺は何かを思い出すように遠い目となる。


「葬るべき真実もあるからな」

「ああああああ……そういうことを言われるとぉ……」


 頭を抱えるマーシャ。知識欲が三大欲求より前に出ている彼女のことだ。目の前に歴史の実証人が現われたことにより、欲求が抑えられないらしい。

 ……まあ、彼女に仕事をしてもらっている手前、こちらとしても報酬を渡さなければならないか。命令や指示だけで色々やってもらうのも申し訳ないし。


「ああ、わかったわかった。それじゃあこうしよう。今後俺が懸念している事が起きる可能性は高い。それに対しきちんと仕事をしてくれて、なおかつ騒動の首謀者を倒すことができたのなら、そちらの疑問について答えられる範囲で答えるよ」


 パアア、と突如マーシャの顔に大輪の花が咲く。そこまで嬉しいのか……。


「――と、失礼しました」


 けれどすぐさま彼女は表情を戻し、


「陛下のご命令、しかと承りました」

「できれば堅苦しいのもなしにして欲しいんだけどね……それで、だ。観察している場所に変化はあったか?」


 その言葉でマーシャは少し間を置き、


「……魔王級の魔力を感じるようになったなどの変化はありませんが、一つだけ」

「それは?」

「この国から南東に存在するリューメイ王国における出来事です。少々魔物の発生が多くなっているとのことで、国側が部隊を編成しています」

「魔物、ねえ。微妙なところだな……ただあの周辺で暴れ回った存在は……よし、マーシャ。引き続き観察を頼む」

「わかりました」


 そういうことで話し合いは終了。あとはエヴァン達がどうするかを見極めるだけとなった。






 翌日以降、俺は騎士エヴァン達と迷宮探索を開始する。といっても魔王は倒したから基本的には念のために索敵をして構造を調べるくらいなので、仕事自体は非常に楽。

 そうした中で、騎士エヴァンは魔王ヴィルデアルの遺骸について優先的に調べることにした。目下一番警戒すべきなのは遺骸なので、放っておくとどんなことになるかわからないから、というのが理由らしい。


 で、それらしい物がないかを俺や騎士達は魔法などで探し……やがて見つけることができた。宝物庫の近くに存在する隠し部屋。巧妙に隠されていたその場所に、魔王ガルアスが語っていた魔王の腕が存在していた。


「これは……」


 エヴァンが小さく呟く。宝箱によって封されていたそれは包帯に巻かれ、怪しげな魔力を漂わせている。けれどそれはあくまで魔力のみで、触れたら何かに侵されるとか、そういうことにはならない様子。


「これは持ち帰って調べるしかなさそうだな」


 エヴァンが呟く……そしてメリスについてだが、腕を凝視した後にそっと腕から離れた。

 たぶん気付いたな。これがヴィルデアル本人のものではなく、ヴィルデアルの力を入れ込まれた単なる器であると。


 よってメリスとしても興味をなくしたか、これ以降ヴィルデアルの遺骸については何も言わなくなった……ので、もう俺達がここにいる理由はなくなった。


 というわけでそれから数日、仕事をしていたが……やがて問題がないとして、俺達は迷宮を離れることになった。


「本当に、二人には感謝する」


 別れの日、見送りとして俺とメリスに対しエヴァンが現われた。


「こちらとしては礼を尽くしても足りないくらいだと思っている……もし何か要望があれば、できる限り叶えたいが……」

「今は問題もないから、大丈夫だよ。もし何か困り事があったら、改めて尋ねさせてもらうよ」

「そうか。ならば都へもし赴いたら、私の名前を出して城に伝えてくれればいい。そうすれば必ず、二人の所へ会いに行こう」


 とりあえず、信頼を勝ち得ることには成功したようだ。騎士の助力は今後役立つかもしれないし、剣と共に得られた大きな成果だな。

 そうして俺達は別れ、マーシャの屋敷へ戻るべく旅を始める。さて、次の目標については特にないので、少しの間は暇になるだろうか。それとも――


「フィス、これからどうする?」

「んー、一度屋敷へ戻ってからは……俺も特に決めてないけど」

「そっか」

「メリスの方はあるのか?」

「今のところは……」


 首を左右に振る。まあここまで戦い詰めの日々だったので、何もなければゆっくりしてもいいような気がする。


「なら、当面は屋敷で休息を取るってことでいいんじゃないか? 旅をして、戦い続けたわけだから」

「そう、だね」


 メリスは頷きながらも、もっと頑張らなければという雰囲気がにじみ出ているけど……この調子だと屋敷へ戻るまでにさらに鍛錬を頼んでくるだろうなあ。それでも構わないけど、もうちょっと肩の力を抜くような状態になればいいのに。


 そんな考えを抱きながら歩を進める……旅の途中でマーシャから色々と報告を受けることになるとは思うけど、動きがあればその都度対応するという感じになるだろうな。

 できれば平和であることが一番だとは思うが、ヴァルトが絡んでいることはほぼ間違いなさそうだからな……魔帝ロウハルドを復活させたのもヤツであるとするならば、十中八九今後も何かしら行動を起こしてくる。


 もしそうだとするなら……先んじて動くことは難しいと思うが、何かしら問題が生じたらすぐに現場に急行して対応する……これが一番だろう。

 メリスはたぶんついてくると思うけど……問題は、どう説明するかだな。もしどこかで魔王が復活するような事態に陥った場合、その情報を彼女にも伝えておかなければならない。


 その方法は……あ、そうか。マーシャを通せば問題はないか。

 例えば俺から情報を介し、マーシャが調査したことにしてメリスに伝える……うん、これなら問題も出ないだろう。


 そんな感じで俺は頭の中で色々と算段を整える……以降も旅を続け、俺達はやがてマーシャの住む町の近くまで辿り着く。

 彼女の屋敷まであと少し……そういったところで、変化は訪れた。


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