尋問
魔王を討伐してから数日間は騎士側も城への報告や調査準備などによって時間を費やし、俺とメリスは暇を持て余すことに。この期間は彼女に指導する時間に費やした。
で、その間にメリスはマーシャと連絡を済ませたらしいが……俺の方も顔を合わせる必要がある。それについてはやるべきことの後だと決めていたため焦ることはなく……ある夜、俺はそれを実行することにした。
「よし、こんなところでいいかな」
テントを離れ、茂みの一角に座り込み俺は一つ呟く。時刻は深夜で迷宮近くの騎士は交代で見張りもしているが、距離があるので近寄ってくることはないだろう。
念の為に結界などを使って空間を隔離しておいて……俺は魔法を使う。それは魔王ガルアスの力を取り込んだ魔法。本体にもこの魔法を行使し、捕らえることに成功した。
で、解放してやる……すると白い光がふよふよと空中に現われる。
『……なんだ、これは』
そしてガルアスの声。まあ驚くよな。
「お前の意識を魔法で封じ込めたんだ。どうも、魔王ガルアスのなれの果て」
こちらの言葉に光は反応……したようだがふよふよと漂うだけで威厳の欠片もない。
『貴様は騎士と共にいた……戦士か』
「ああそうだ。こんな魔法を使うことは驚きか? まあこちらのことはどうでもいいじゃないか。それよりも聞きたいことがある。もし正直に答えてくれるのなら、命の保証はしよう」
ちょっと威圧的に告げる。さすがに魔王としてもどうしようもない状況であるが、簡単になびいてくれるのか。
『……断ると言ったら、どうなる?』
「ははは、どうなるかって? お前、滅んだ瞬間のことも記憶しているはずだ。そうだな、その光景を延々と、永遠にフラッシュバックし続けるとかどうだ?」
光は何も答えない。俺のやり方も結構悪逆非道な気はするが相手は魔王である。容赦はしない。
「言っておくが、こちらの気分次第でお前は消える。で、もしこちらに協力的でなかったら、ひと思いには殺さないさ。地獄のような苦しみを未来永劫味わわせるくらいのことを、俺はやるぞ」
光がビクリと震えた……ような気がした。たぶん殺気が出た。
『貴様は……何者だ?』
「俺か? お前の言った通り戦士だよ。もっとも、こんな魔法をなぜ知っているという感じだろうが、詳しく話すつもりはないな」
それに、と俺は告げ、
「そっちはずいぶんと可愛い姿となっている。事情を聞けるとは思っていないだろ?」
『……ふん、いいだろう。質問とは何だ?』
またずいぶん高圧的だな。いやこれは取り繕っているのかな。
「まずは、お前の部下……というか残党についてだ。迷宮外にいるのか?」
『私の配下は迷宮にいる者達だけだ』
ということは魔王ガルアスの脅威はなくなったと考えていいな。
「わかった。なら次は魔王ヴィルデアル遺骸だ。そんなものをどこで手にした?」
『……とある魔族から渡された物だ』
「とある魔族?」
『私に名乗ることはなかった。自分のことを放浪者と名乗っただけだ』
放浪者、ねえ。
『遺骸といっても魔王ヴィルデアルの体の一部だ』
「一部?」
『腕一本……リツォーグに渡した力は、その腕から抽出したものだ』
「力を抽出なんてことは、相当難しいと思うが」
『それもまた放浪者の力だ』
はーん、なるほどねえ。たぶんこの放浪者がヴァルトとみて間違いないだろう。
遺体などから魔力を取り込む技術というのは過去に存在していたし、ヴァルトが保有していても何らおかしくない。よってここからはヴァルトが行動しているということを踏まえて行動するべきだな。
「その放浪者という存在と出会ったのは、いつだ?」
『魔王ヴィルデアルが存命の時だ。放浪者はこう言った。偉大なる陛下のために、世界を蹂躙せよと。しかし陛下が滅び、その遺骸が悪用される危険性があった。そのうちの一つを預かってくれと。もし迷宮を狙う者がいたのなら、その力を使ってはね除けてもいいと』
「……遺骸が残っていれば、復活できると思っているのか?」
『放浪者はそう語っていた』
ヴァルトの目論見としては、暴れさせるための理由付けとして遺骸を利用したってことかな。
おそらくだが、魔王ガルアスは魔王ヴィルデアルに対して敬意を感じていたことからそういう方針にしたのだろう。例えば魔帝ロウハルドの下にいた魔王はヴィルデアルに敬意を払っているようには見えなかった。つまり、俺と接触したことのない魔族でも色々な考えを持つ者がいて、ヴァルトはそうした者達をあの手この手で説得し、暴れさせていたということになるだろう。
なるほど、裏でこういうことが起きていたというわけか……なんだか納得しつつもこれは実際ヴァルトの策略にはまった結果なのでかなりムカつくな。そして暴れていた魔族だが……ヴィルデアルに敬意を持っていようがいまいが暴れていたのは事実なので滅ぼす対象に入る。ガルアスについても申し訳ないが、無事に返すわけにはいかないな。
「そうか、わかった……で、迷宮にお宝をため込んでいたのは、何故だ?」
『来たるべき陛下の復活に備え、準備をしていたまで』
つまり俺(前世)のせいか……だったら会いに来いよと思うのだが、マーシャの口ぶりから考えてもなんだか神格化されているようにすら感じられるので、気が引けたのか。
俺ってただ同胞を救い続けていただけなのに……まあいいや。
ここで一番の疑問はヴァルトが遺骸と称するものをどうやって用意したのかだな。やっぱり実験か何かで注いだ魔力の道具でも流出したかな? ここについてはマーシャに訊いてみればいいか。
「わかった。訊きたいことは以上だ……そしてお前の処遇だが――」
告げた瞬間、光が一際強く輝いた。あ、どうやら自分に何ができるか試していたな。で、こっちが光で手でも覆っている間に逃げるって寸法か。
作戦自体はまあできる限りのことをして良かったと思うが、あいにく空間を隔離しているんだよな。結果として光はこの空間から出ることはできず、止まる。
「……逃げようとするとは、な。さすがにそうであればこちらも相応の手段をとらなければならない」
まあ、最初から生かすつもりはなかったけど。非情だが、野放しにしておいてどうなるかわからない以上は仕方がない。
「情報を提供してくれた礼だ。ひと思いに殺してやる」
『ま、待て――』
問答無用。俺が手を振ることで光はサアア、と消えていく。これで本当に魔王ガルアスは、完全に滅んだ。
さて、情報を得たわけだが……と、そこで背後からガサガサと茂みをかき分ける音。俺は肩越しに振り返り、
「マーシャか」
「はい」
彼女の分身が立っていた。それでは、報告を聞こう――




