さらなる依頼
これで決まる……確信を伴った胸中の呟きと同時、エヴァンの渾身の一振りがガルアスの脳天へと叩き込まれた。
それに対し魔王は……声一つあげることすらできず、ぐらりと傾き倒れ伏す。そうしてその体は消え始め……魔王は、滅び去った。
そして悪魔達もまたメリス達の手によって全て撃破する。どうやら視界に見える範囲にしか敵はいなかったようで、メリス達が倒し終わると一時奇妙な静寂が迷宮内を包んだ。
「……これで、終わりか?」
オルバが呟く。いきなり再登場したのだから疑うのは仕方がない。
「さっきは観測できなかったが、やり方を変えて索敵魔法を使用するからちょっと待ってくれ」
俺は一つ呟くと魔法を行使。結果として悪魔や魔族の姿を捉えることはできなかった。うん、今回は対策もしたし大丈夫。
「うーん、現状ではこれ以上出現することはなさそうだけど」
「ならひとまず戻ろう……魔王は気になることを言っていたが、この状況下では調査もままならない」
魔王ヴィルデアルの遺骸ね……そんなわけは天地がひっくり返ってもあり得ないんだけど、真実はどういうものなのか。
で、メリスはというと、なんだかそわそわしている。無理もないのだが状況的に「調べに行く」とは言えない。さすがにそこは空気を読むのか、彼女の口から遺骸についてどうこうしようという文言は出なかった。
そして改めて脱出を開始するのだが……俺は索敵魔法を維持しながら進んでいく。気配はもう存在していないため、あれでどうやら終わりで魔王ガルアスも本体だった、ということだろう。
結果だけを見れば犠牲者もなく切り抜けられたわけだが、俺がいなかったら全滅の可能性もあり得た戦いであった。最後の魔王ガルアスとの戦いについても俺が邪魔をしたから打ち崩せたが、聖剣を握っていてもエヴァン単独で撃破はおそらく無理だったはず。
ただ想定していたよりも敵が少なかったのも事実。これは魔王ガルアスが武具などを収集することを優先した結果、だろうか。
「……しかし、これで魔族が大量にいたら危なかったわね」
俺と同じ事を思ったのかアイーダが呟く。それに応じたのは、エヴァン。
「おそらく魔族が大量にいたのなら、とっくに迷宮の外へ出て戦争状態に入っていたかもしれない」
「つまり、戦力が整っていなかったら、迷宮から出ようとしなかったと」
「逆説的だが、そういうことだ」
ああ、それはあり得るな。そもそも魔帝ロウハルドの時のように魔王が集っているケースというのが、むしろ少ないのかもしれない。
そもそも現在は魔王が人間の国を侵略しているわけではなく、あくまで個々に活動しているような形となっている。元々部下が多数いるようなケースならまだしも、魔王ガルアスは配下の魔族がいなかった……よって武装できるような武具を奪っていた、ということなのだろうか?
騎士エヴァン達にとっては推測しかできないことだが……ま、滅んだ以上は考える必要もないかな。
そうして俺達は迷宮内を逆走し、やがて騎士達と合流。聖剣を手にして魔王を討ったことで、歓声が上がる。
ようやく戦いが終わった……エヴァンを称える声を聞きながら俺は策が成功したと認識。この戦いは彼の活躍で打ち破ったと噂されるだろう。
これでいい……その時、エヴァンがこちらを向いた。何か言いたそうな雰囲気だったが、俺は彼の背を軽く押し、騎士達の所へ向かうよう促した。
迷宮の外に出たら手厚い歓待が俺達を待っていた。お宝を持っていることについても正当な報酬として誰も文句は言わなかったし、なおかつギルドからもさらに報酬が出るとのこと。アイーダやオルバとしてはウハウハだろう。
「といっても、あんまり活躍できなかったしなあ……」
「最後の決戦では上手く立ち回っていたよ。二人の助力がなければ大変なことになっていたのは間違いないし」
アイーダの呟きに俺はフォローを入れる。
「魔族の威圧に耐えて同行したわけだし、ありがたくもらっておけばいいさ」
「……そういうフィスは、その剣で良かったの?」
メリスから言及。俺の手には無骨な長剣が。
「ああ、これでいいよ」
「他に強そうな剣があったはずだけど……」
「一目見てこれがいいと感じたから選んだまで。こっちは満足しているから問題ないよ」
本当に見た目はそこらで売っている長剣なのだが、これの本質は別にある。だが解説するのも面倒なので話はしない。
さて、魔王との戦いも終わって一段落……なのだが、メリスとしては魔王ヴィルデアルの遺骸の件もあるためこの迷宮を調べたいだろう。俺としては戦いも終わったしひとまずマーシャの所へ帰って続報を待つのが一番だとは思うが――
「……フィス殿、少しいいか」
エヴァンだった。唐突にどうしたのかと首を傾げると、彼から言及があった。
「明日以降、魔王ガルアスが奪った武具などを回収、及び迷宮の調査により私達はさらに探索を行う必要がある……のだが、そちらは気になることもあるだろう」
ああ、そうか。俺が魔王ヴィルデアルを倒した息子だからな。ここは乗っておいた方が調査結果なども容易に聞けるだろう。
「そうだな……遺骸と言っていたが、本当なのか……」
「もし、でいいのだが……その辺りの調査について少し頼みたいことがある。魔王の遺骸となれば、下手するとこの迷宮において再び魔王が顕現、なんてことにもなりかねない」
お、そういう話に持って行くか。ということは、
「ついてはしばしの間、迷宮近くで私達と共に仕事をしてもらえないだろうか。無論、相応の報酬は支払う」
なるほどね。確かにエヴァンとしてはその方が調査も安心してできる。
それに俺が色々と支援した結果魔王ガルアスを倒せたわけだし、いざという時に備えいてもらえると助かるってことだ。俺としては問題ないしメリスも参加したいだろうからいいけど、疑問が一つ。
「期間はどのくらいだ?」
「正直そこについてはわからない……こちらとしては一通り調査が終了するまでとしか」
終わりまで付き合うかどうかについては……それを条件に付け加えればいいか。
「そうだな……遺骸などの調査を優先し、もし問題ないとわかったら契約は終了、ということでもいいか?」
「ああ、それでいい。すまないな」
交渉は終了。メリスはこれに参加することになり、またアイーダ達は迷宮を離れることに。
かくして一つの戦いが終わり、俺達は騎士からの依頼で次の仕事に移ることになったわけだが……まだ重要なことが済んでいない。そこについてはタイミングを見計らい実行に移そう……そう心の中で決めることとなった。




