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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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魔王の切り札

 やはりそう簡単には終わってくれないか……俺は気配を探る。それにより、迷宮内に大きな変化を感じ取った。


「これは……なるほどな……」

「どうした?」

「騎士エヴァン、索敵魔法に引っ掛からなかったのはどうやら迷宮に悪魔達を同化させて気配を誤魔化していたからだな。そしてどうやら俺達を逃がす気はないようだ」


 言ってから周囲を見回す。至る所から気配が感じられるようになった。


「どうやら迷宮深部までおびき出すことが目的だったようだな。その狙いはおそらく、騎士エヴァン、あなただろう」

「ちょっと待て、ということは魔王ガルアスは偽物だったってことか?」


 問い掛けはオルバから。結果、他の面々に緊張が走る。


「騎士エヴァン達が倒したあいつはつまり、部下――」

「単なる分身だ」


 その声は、先ほど戦っていたガルアスのものだった。


「こちらの魔力などを捕捉していたのなら、策が気付かれる可能性があるからな。さすがに偽物ではない、ということさ」

 俺達が通ってきた道……そこから姿を現したのは、先ほどとまったく同じ姿をした魔王ガルアス。

「さて、迷宮の入口側にいる者達は相変わらず動かない……よって、戦意を持つ者はこの場にいる面々だけだ」


 魔王が語る間にも周囲からは続々と悪魔が現われる。窮地、というやつだな。


「宝物庫を荒らしたことを含め、ここで鉄槌を下すことにしよう」

「……聖剣を渡したのも、わざとだと言うのか?」


 エヴァンの問いに魔王ガルアスは笑った。


「向かって来るがいい。その聖剣で私を刺し貫いてみろ」


 つまり聖剣など奪われても平気ってことかな。これは思い切ったことをする。

 魔王ガルアスからすれば迷宮に入られるということは、自分に有利な戦場で戦えるということを意味している。ここで有望な勇者やら騎士やらを打倒しておいて、そこから迷宮の外に出て大々的に動き出す、という寸法なのか。


 状況的に非常にまずいわけだが、まあやりようはある……と、その前に、


「ずいぶんとまあ、消極的な戦法だな」


 そう俺はガルアスへと告げた。


「今まで遭遇してきた魔王は、それこそ自身の実力を自負して真正面から戦っていたが」

「卑怯だとでも言いたいのか? 私は確実な手法をとったまで。聖剣を握る資格を持つ騎士を策で易々と殺せるのであれば、このくらいの手間はやるし無駄な消耗戦をする必要もない」


 切って捨てた。力を誇示するより策の成就の方がこの魔王にとっては望ましいようだ。


「とはいえ、戦力としては相変わらず悪魔ばかりか。そういえば部下にも何か道具を持たせていたな。人材はあまり良くないようだな?」


 質問にガルアスは肩をすくめる。


「必要がなかっただけの話だ。リツォーグは残念だったが、優れた騎士を滅せるのだ。仕方のない犠牲だと思うことにしよう」


 ……部下を部下と思っていない発言である。


「それに、私に付き従う悪魔を集めることは容易い」

「……容易い?」

「そうだ。私には切り札がある」


 ……それ、もしかしてリツォーグが持っていた――


「魔王ヴィルデアルの遺骸。それがある以上、この私の下に同胞が集まる」


 ――おい、待て。何だそれ!?


「何……!?」


 その言葉にメリスも同様。内心俺もびっくりである。


「遺骸だと……!?」

「そうだ。滅んだとされる魔王ヴィルデアル……だがその遺骸を私は持っている。リツォーグが所持していた道具は、そこから力を抽出したものだ」


 ……完全に滅びたはずだぞ。加えて魔王ヴィルデアルの意思は勇者エルトの息子に宿っている有様である。

 ただガルアスは嘘を言っているというわけではないだろう……より正確に言えば彼自身が嘘だと思っていない、か。


 少なくとも魔王ヴィルデアルに由来する何かを所持していて、そこから力を得たということか。ふーむ、仮にそうだとしても魔王が誤認するほどのものとなると、何なのか想像もできないんだけど。

 そしてメリスとしてはこの事実をどう思うのか――


「……多数の魔族を率いた魔王の遺骸があるからこそ、従うと?」


 エヴァンが問う。それにガルアスは笑い、


「いずれ魔王ヴィルデアルは復活する……そうなれば、この世界を再度暗黒に引き戻すことになるだろう。魔族達の楽園が再び生まれる」


 ……あのー、俺は暗黒時代にするとか毛頭ないんだけど。しかもこいつはそもそも魔王ヴィルデアルと交流がなかった上に好き勝手にしていた輩だ。どの口が言うのか。

 そんな風に思っていると、やがてガルアスからその辺りの回答がやってきた。


「私は魔王ヴィルデアルと直接関係があったわけではない……が、その存在は私の目から見てまばゆいものだった。多数の魔族を率い、今にも世界を蹂躙しようとするその姿。まさに魔王の中の魔王と呼ぶにふさわしい」


 う、うーん……信奉者的な立ち位置だったか。それにしたって俺の考え方とか読み取ってくれよとは思うけど。

 前世のことを評価してくれるのはちょっとばかり嬉しくないこともないが、こいつは暴れていたヤツなので滅ぼすことは間違いない。ただあれだ、遺骸とは何なのかなど、しっかり事情を聞く必要はある。


 もしかしてヴァルトが関わっていたりするのだろうか……そんな推測をしながらさらに俺は問い掛ける。


「そうやって魔王ヴィルデアルを復活させる……お前はその部下ってことか?」

「復活させる以上は、そうなるな」


 それが当然だと言わんばかりの態度。もしお前の行動によって復活しても、たぶん滅ぼされる運命だと思うぞ。

 まあそれはともかく……状況は悪いため、まず打開するところから始めなければならない。


「騎士エヴァン、どうしますか?」


 騎士に問い掛ける。ただ彼は真っ直ぐガルアスを見据えており、視線を外すことができないようだ。

 そうだな……俺はアイーダ達に視線を移す。


「悪魔の迎撃は、できそうか?」

「武具で武装していないし、たぶんいけるわよ。けど他の人を守りながらとなると……」

「わかった。メリス、悪いがアイーダ達と共に悪魔の迎撃を頼む」

「うん」


 メリスは素直に従う。結果としてガルアスと対峙するのはエヴァンで、俺はその援護という役回りに。


「では始めるとしようか……お前達にとって絶望的な戦いを」


 宣言した直後――魔王と悪魔は一斉に襲い掛かってきた。


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