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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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報酬

 魔王との攻防はいよいよ終局に差し掛かる――騎士エヴァンとメリスの怒濤のラッシュがガルアスへと降り注がれる。

 それに対し魔王は大剣を用いて防ぎに掛かるが、猛攻に対し全てを防ぐことはできない。刃が幾度となく体を掠め、ダメージを蓄積していく。


 メリスの剣は元々効果があることに加え、聖剣を手にした騎士エヴァンの攻撃能力が飛躍的に上昇。両者とも魔王に決定打を与えられるようになった。

 エヴァンと聖剣の相性もかなり良いようだ。どうやら聖剣は使用者の力を最大限に発揮されるような構造になっているらしく、エヴァン自身の力を思う存分発揮できるようだった。


 これなら決着がそう遠くないうちにつく……その予感は的中する。確実に追い込まれていく魔王はとうとうダメージを覚悟して特攻を決意。大剣にありったけの魔力を集中させ、それを爆発させて蹂躙しようという目論見のようだった。

 派手な魔法などを使わないことからも、戦闘能力は決して高くない……法衣などもどこからか奪ってきた物に相違なく、彼はそうして自らを強化していたのかもしれない。


 魔王の刃はまともに食らえばメリス達とて無事では済まなかったはず。しかし、二人は同時に防御し、二人で剣を受けたことにより――防ぎきった。

 次の瞬間、衝撃波が周囲に舞う。それは間違いなくメリス達の体にも当たったはずだが、二人は怯むことすらなかった。


 魔力により完全に攻撃を防ぎきった……刹那、二人は反撃に転じる。

 決まる、と俺は確信し魔法を発動させる。ガルアスはそれに気付いたか知らないが、反応する余裕はなかったはずだ。


「ぐ、お……!」


 声を荒げどうにか防御しようとする魔王。だが全て遅かった。対応できず二人の剣戟をその身に受け、とうとう大剣を取り落とす。

 そこで追撃を仕掛けたのは、エヴァン。聖剣は黄金に輝き、彼の一閃は魔王の体を縦に切り裂いた――


 咆哮を上げる魔王。それは断末魔とも呼べるもので……やがてその体が崩れ落ち、また手足の先端から灰と化し、魔王ガルアスは、この世界から消え失せた。


「……やった、か」


 エヴァンは小さく呟く。そして自身が握る聖剣に目を移し、


「ずいぶんと手に馴染む。まるで愛用していた剣のようだ」

「強力な剣になると時に反発する可能性もあるんだが、大丈夫みたいだな」


 俺は彼に近づきながら言及。エヴァンはこちら目を移し、


「助力ありがとう。魔王としてもあんな簡単に聖剣を奪われるとは思っていなかっただろうな」

「確かに。それにこの戦果は俺じゃなくて、聖剣を奪える時間を稼いだ二人の功績だよ」


 その言葉の直後、後方から歓声が聞こえた。見れば冒険者や騎士達が魔王を倒したことにより、声を上げている。その中にはアイーダ達の姿もある。全員無事で、役目を果たしてくれたようだ。


「それで、魔王は倒した。悪魔なんかはまだ迷宮に残っているかもしれないが、索敵すれば帰り道は安全だろう」

「そうだな。迷宮内の探索は後日になるだろう。敵がいなくなったのならばそう難しくはないし、後のことは他の者に任せようかとは思っている」

「俺達はどうすればいい?」


 問い掛けにエヴァンは小さく笑い、


「……魔力がこの広間の近くから発している。おそらく宝物庫があるのだろう。現状では冒険者の懐に入らず国側が接収する可能性もあるが……ここまでついてきた者達に対しては、きちんと報酬を支払わなければならないな――」






「おおおおおおおおおおっ!」


 と、アイーダの声がこだまする。冒険者達もまた同じように声を上げ、歓喜に打ち震えていた。


 戦場となった広間から移動し、俺達は宝物庫へ辿り着いた。そこには金銀財宝のお宝に加え、古今東西の宝飾品や美術品といった金銭的な価値のある物から、魔力のこもった道具などが多種多様に存在していた。


「これだけ奪うのは大変だっただろう……しかし、こうまでして集めてもあまり話に聞かなかったのはなぜだ?」

「もしかすると、後ろ暗い人間から奪っていたのかもしれない」


 エヴァンの指摘。どういうことだ?


「例えば役人でも私腹を肥やしているような人間ならば、宝を奪われても言い出すことはできないだろう。自分の悪行を晒す可能性があるからな」

「ははあ、なるほど。そういう人物を狙って盗めば目立たず活動できるって寸法か」

「理屈としてはそういうことになるな。さすがにこの場にある全てを提供することはできないが、納得するまで持っていて構わないぞ」


 アイーダ達は狂喜乱舞し品定めを始める。一方で騎士達はお宝を目の前にしてなんだか残念そうだが、そこはエヴァンが色々とフォローを入れた。

 さて、俺とメリスだが……彼女もまた物色を始め、俺も同様に歩き始める。


 狙いは自分に合った剣だけど、果たして見つかるかな。


「いやあ、勇者二人と一緒で良かったわね」


 アイーダが嬉々として語る。それに俺は肩をすくめ、


「それはどうも……ただ今回、あんまり活躍はできなかったけどさ」

「いいんじゃない? 聖剣を騎士エヴァンが手にしたし、国としても納得できる形……それでこの報酬なのだから」


 報酬、ねえ。確かに金銀財宝が目の前にある以上、報酬としては最高なのかもしれない。

 俺も今後活動していく上でお金はたくさんあっても困らないし、多少なりとも頂いていくか。剣を物色しながらお宝についても見始める。


 そうして色々と見回っている内に、俺は宝石を始めあまりかさばらない物を中心に頂いていく。ただこの場で手に入れた物で同胞達が安全に住まうための準備……というのはさすがに無理だろうな。部下達を全員そういう形にするなら、国家とまではいかなくとも地方領主規模の予算は必要になってくるし、さすがにそれを一個人でまかなうというのは厳しい。


 良いパトロンでも見つかってくれれば万々歳なんだけど……ま、この辺りについては後々考えることにして。


「ん、これは……」


 そうした中で俺は一本の剣を発見。エヴァンが持つような極めてシンプルな、装飾などほとんど見当たらない外装。

 剣を抜いて見ると刀身は白銀だが、エヴァンの物とは異なり紋様なども存在していない。一見するとただの鉄製の剣に見える。しかし俺の目にはまったく違う物に映っていた。


「……これ、よさそうだな」


 一つ呟き俺はこれをもらうことにする。他の者も何をもらうか決めた様子で、エヴァンは声を発した。


「それでは、戻るとしよう。魔王が消えたため脅威の多くは去ったが、まだ敵がいる可能性は残っている。絶対に油断はするな」


 彼の指示に俺達は頷き、宝物庫を出る。そこで索敵をしてみるが、気配らしい気配はない。

 個人的には拍子抜けする終わり方だが……それにガルアスの部下はリツォーグという存在だけだったのだろうか? 迷宮は広大でとてもあの魔族単独で管理できるとは思えないが。


 残党が迷宮外にいそうな気はするのだが、果たして――と、そこまで考えた時、俺は懐を探った。

 最後に使った魔法――それにより俺は一つとある物を得ていた。これを使えば――


「ひとまず、迷宮を出てからだな」


 そう呟いた直後、俺は立ち止まる。


「……フィス?」


 メリスが問い掛けた直後、俺は周囲に目を向けた後、


「騎士エヴァン」

「どうした?」


 その問い掛けに俺は一言。


「――敵だ」


 次の瞬間、索敵に引っ掛からなかったのか――俺達の周囲に突然気配が生まれた。


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