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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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魔族襲来

「魔王の所へ向かうと思しき道については、いくつか候補を絞ることができた」


 そう言って彼は俺達へ解説する……その中には正解の道も存在する。


「そこで、幾人かに分かれて調査しようと思うのだが、どうだ?」


 ……うーん、面倒そうだなあ。正解はわかっているしここはスパッと決めた方が良いかもしれない。


「あー、騎士エヴァン。俺なりに魔法を使って魔王がいるであろう道を推定してみたんだけど」

「本当か?」


 食いついた。ここまであっさりと話を聞いてくれるとは。


「いや、こちらの推測が合っているかはわからないぞ?」

「こちらの情報と照らし合わせれば精度が上がると思う。どんな方法にしろ絶対に確実ということは言えない以上、情報の集積で道筋を決めるしかない」


 なるほど……仮にこれが何の功績もない冒険者だったら門前払いされて終わりなんだろうけど、今の俺は魔王を倒した功績もあるからな。そういう実力を持っている人間からの情報だから、信用に置けるというわけだ。

 メリスやアイーダ達はともかく、初対面の俺に対し信用するというのも正直どうかと思うが……まあいいか。メリスなんかが共に行動しているから信用が担保されているという感じなんだろう。


「えっと、それじゃあ――」


 そこから話し合いを行い、結果として正解の道を進むことに。この調子だと俺が上手く誘導できそうだけど……問題は、この面子のまま魔王の所まで行くのかどうか。

 魔王アスセードのようにこちらを甘く見ているのなら、騎士達を守りながら戦うことだってできるだろうけど、最初から全開とかだとちょっと面倒なことになりそう。その辺りも考えないといけないかなあ。


 単に迷宮攻略して魔王を倒せば終わりと思っていたのに、人が多いせいでなんだか至極面倒な展開に……いや、ここは勇者としての実績を重ねることによって国の騎士なんかに信用を持ってもらうことに繋がる。腐ってはいけない。


「では進むぞ」


 エヴァンは指示を出し、全員揃って歩み始める。その後方を俺やメリス達が陣取り、迷宮の奥へと進む。

 それから幾度となく敵と遭遇するが、武装していない悪魔であり騎士達でも余裕で対処できた。ここまでは順調。しかし魔王ガルアスが黙っているとは思えない。次に来るのは罠の類いか、それともより強力な悪魔か。


「……止まれ」


 その時、前を進んでいたエヴァンが命令を行う。そして前方に気配。悪魔とは異なり、どうやら幹部が出てきたらしい。


「ようこそ、魔王ガルアスの迷宮へ」


 告げた相手は、見た目三十前後の男性。黒い髪を腰まで伸ばし、スラリとした体型に加え漆黒の衣服に腰には剣……というよりレイピアという表現が似合う武器。

 町を歩けばたくさんの女性が振り向きそうな見た目ではあるが、発する雰囲気は完全に魔族のそれ。しかも底冷えするような魔力を発しており、魔族を見た騎士達は武器を構えながら警戒を示す。


「私の名はリツォーグ。短い間だが、どうぞよろしく」


 礼を示す。所作は貴族っぽくも見えるが、格好からして小馬鹿にしているようにも感じられる。


「魔王の部下、といったところか」


 エヴァンが前に出る。剣を構え既に臨戦態勢。


「こちらの襲撃に対し、ようやく本腰を入れてきたか」

「本腰? まさか」


 と、嘲笑するようにリツォーグは発言する。


「貴様らの相手にこちらが全力で挑む必要性などない。遊んでやろうと思ったまでだ」

「まさかお前、これだけの人数を相手にして戦うつもりなのか?」


 傍から見れば頭がおかしいとしか思えない状況。いくら目の前の魔族が手練れであっても、さすがに多勢に無勢。とても勝てるような状況ではない。

 ただしそれは、目の前の魔族の力量が並ならの話。


「――ああ、そのつもりだが?」


 途端、魔力が俺達の体に突き刺さる――普通、魔力を発するというのは言わば燃え上がる業火のように噴き上がり、火の粉が飛び散るように拡散する。なおかつ強い魔力を身に受けると圧倒的な力で押し潰されそうな感覚に陥る。これは人間でも魔族でも同じだ。

 しかし、意図的に調整すればそれ以外の感覚を抱かせることも可能。目の前の魔族が発した魔力は、触れた瞬間凍えるかと思うほど、冷たいものだった。


 これは実際に冷たいわけではなく、あくまで魔力を身に受けてそう感じているだけ。しかしこの効果は――それこそ全身を凍らせるような魔力は人々に恐怖を抱かせるには十分過ぎる効果があった。


「――ひっ」


 誰かが小さく声を発した。仲間ではない。騎士の誰かだ。


「陛下の手を煩わせる必要もない。どうやらこちらの悪魔を一蹴する戦力を所持しているようだが、所詮それだけだ。悪魔を倒せたことから、陛下を倒せるという幻想を抱いてしまったか?」


 直後、さらに凍えるような魔力が広間を満たす。最初から全力ではなく段階的に力を放出することで、さらに恐怖を煽っている。

 俺は騎士を見やる。中にはガチガチと歯を鳴らし震える人だっていた。ただこれは凍えさせるように「感じている」だけで、あくまで威嚇だ。もっとも騎士としては寒いだけなのか、それとも恐怖を感じているのか……わからなくなっている人も多そうだ。


 この場にいる騎士達は、魔王に挑む以上精鋭クラスだと考えていいはず。しかしそういう人物達が、目の前の魔族に恐怖する……これは騎士が弱いわけではなく、相手が一枚上手なのだろう。


「……戦うというのなら、容赦はしない」


 そしてリツォーグは語り出す。


「だがこの程度の数、私の前には無力だと言っておこう……現状、私が気配を発しただけで恐怖を抱いている貴様らに、戦う資格があるのか?」

「……ヤバいんじゃないか、あいつ」


 オルバがふいに呟く。恐怖はあるみたいだが彼自身はさして表情を変化させていない。

 メリスはもちろん平気だし、アイーダもまた表情を変えず戦意はある様子。なるほど、アイーダ達はこのくらいの気配なら経験などあって問題はないようだ。


「今一度、警告しよう」


 そして魔族は声を発し、さらに魔力を冷たくする。


「私に近づけば容赦なく斬る。しかもただ斬るだけではない。無残に、地獄のような苦痛を与えながら――殺してやる」


 威嚇が最高潮に達した瞬間、騎士の一人が声を上げ逃げ始めた。それにエヴァンは気付いたようだが無視。だが次の瞬間別の人間が武器を捨て走り出す。

 そこからはあっという間の出来事だった。戦闘のプロであるはずの騎士達が一斉に遁走を始める。エヴァンとしては止めたいだろうけど対峙する魔族のこともあって迷っている。


 さらに言えば後続に控えていた冒険者勢もまた騎士達に続く。この状況下で俺やメリスが何事か言っても効果はないだろう。もし止められるとするならエヴァンだけだが――


「全員、止まれ――」


 エヴァンはいてもたってもいられなくなったか声を張り上げた。しかしそれこそ、魔族が狙っていた。

 刹那、魔族が素早くレイピアを抜き放ち対峙するエヴァンへと仕掛ける。だが即座に俺が反応。エヴァンへ剣が届く前にはじき返すことに成功する。

 細い剣ではあるが、まるで巨大な剣を受けるかのような衝撃が手を通して伝わってくる。けれど弾き返し、魔族は俺達と距離をとった。


「ほう、まだ動ける者がいるか」


 俺と共にメリスが前に出る。アイーダやオルバは後方から様子を見るような形で、一方のエヴァンは逃げる騎士を眺め苦しそうな表情を見せた。

 この場に残っている騎士もいるにはいるが、非常に少ない。もし逃げた者が戻ってきてもおそらく使いものにならないな。


 そして、残る騎士も表情を見れば戦意を失っていることがわかる。これはまずい状況……果たしてエヴァンはどうするのか。こちらが沈黙していると、やがて彼は反応した。


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