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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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交流と、ある冒険者

「――とはいえ、少し意外だな」


 単なる挨拶だけでなく、騎士エヴァンはメリスへさらに続ける。


「孤高の勇者という異名を持っていることからも、今でも一人で魔王と戦っているものだと思っていた……今回は同行者がいるんだな」

「色々と経緯があって」

「それほどまでに、手強い相手だということか?」


 エヴァンの問いにメリスは小さく首を振り、


「今回の魔王についてはあまりよく知らないので……共に戦うことになったのは、私にはまだ足りないものがあり、それを補うことができると思ったからです」


 決然とした言葉に騎士エヴァンは「なるほど」と小さく呟いた。


「さらに強さを、というわけか……そして」


 横を向く。視線の先にはアイーダ達が。


「冒険者アイーダとオルバのペアだな」

「え、私達のことを知っているんですか?」


 意外そうな顔をするアイーダに対し、エヴァンは優しく微笑んだ。女性を虜にしそうな笑顔だ。


「もちろん知っている。二人は幾度となく国側を助けるような仕事をしているからな」


 ほう、冒険者ギルドに所属する人間を知っているとは……アイーダ達も結構国に貢献しているにしても、一騎士がそれを把握しているとは興味深い。


「そして……もう一人は? 見覚えのない人物だが」


 ……流れとして俺も自己紹介しないといけないよな。さて、どうなるか。


「初めまして、フィス=レフジェルと申します」


 その言葉の瞬間、奇妙な沈黙が周囲を包んだ。まあさすがにレフジェルの名前が出るとは思わなかったのだろう。

 どういう反応になるのか……と、言葉を待っていると、


「……まさかこの場でその名を聞くとは思わなかった」


 と、驚愕するような言葉が騎士エヴァンから漏れた。


「勇者メリスと共にいる以上は、本物で間違いないのだろうな」


 言葉と共に、彼は苦笑した。


「噂には聞いているよ……魔王アスセードを打ち破り、神族と共に戦い続けた勇者……しかもその人物はかの勇者エルトのご子息でもある」


 ざわつきが最高潮に達する。これは目立つなあ……まあいいか。魔帝ロウハルドを倒したという事実は隠せたようだし、あくまで俺は「魔王を一体倒した勇者」という立ち位置みたいだから。


「ここには聖剣を得に来たのか?」


 そして問い掛ける騎士エヴァン。これは返答次第では敵対する可能性があるな。

 俺は少し言葉を選ぶことにする。多少の沈黙が生じたが、相手は待ってくれるようだ。


「……俺自身、聖剣ではなく魔王を倒しにきた。聖剣をどうするかまでは考えていないな」


 肩をすくめてみせる。そして、


「それに、どういう噂を聞いているかわからないが、果たして俺が魔王を倒せるのか……そこについても疑問はあるよ」

「魔王アスセードを倒したのは、偶然と言いたいのか?」

「運の要素も十分にあった、と思ってる」


 その言葉に騎士エヴァンは「なるほど」と呟いてみせた。感触的には敵対しそうな感じではないな。

 現時点ではこれで良しとするか。その後エヴァンは「よろしく」とひと言添えて立ち去った。


 で、ここから俺達は色々な人に囲まれることになる……彼にとっては単なる挨拶のつもりだったのかもしれないが、俺達にとってはちょっとばかり迷惑な感じにはなった。

 ただ、良い面もあった。それは宿の確保。さすがに建物は存在しないためテントになるのだが、そこで優先的に休ませてもらえることになった。名が売れている特権である。


「いやあ、ゆっくり休めるというのはありがたいな」


 オルバはそんなことを呟く。仲間ということでオルバやアイーダも一緒に休むことになった。男性と女性で今回分かれてテントを使わせてもらうことになったのだが、他は雑魚寝状態らしくこちらとしてはずいぶんと好待遇かつ贅沢である。

「商人達としては、ここで取り入って今後ごひいきに、って感じだろうな」

「そうだな……」


 俺は呟きながら考える。今後同胞達に安住の地を与えるのに資材だって必要だ。魔族に対し物資を提供する人間を引き入れる必要もある。

 商売を優先する人間ならば例え魔族だろうと取引をする……なんて商人も世の中には存在する。他の人からすれば完全に裏切り者だろうけど、彼らも食っていくためにやっていることだし、仕方のない面もある……と、魔族側の存在が擁護しても何の意味ないかな。


 そういう人を見つけるという意味では、ここで顔を広めておくのもいいか……そんなことを考え、俺は少し当たりを見て回ろうかとテントを出る。

 周囲は人が多いためなんだか賑やかで、本当に祭りのように感じられる。こんな悠長にしていていいのだろうかと思ってしまうけれど、とりあえず魔王ガルアスが外に出てくる気配はないみたいだし、問題はない……のかな?


 さて、どうしようか……きょろきょろと視線を動かしながら歩いていると、一つ視線に気付いた。一瞬だけ首を向けると、冒険者の一団。

 んー、確実にこっちを見ているよな。しかもその視線はなんだか敵意に満ちている。これはやっかんでいるようなヤツが現われたか。


「――フィス」


 その時、横から声を掛けてくる人物……メリスだ。


「テントに戻ろう」

「どうしたんだ?」

「フィスのことを見ている一団、絡まれると面倒なんだよ」


 メリスがそう言うくらいだから、相当な面々なんだろうな。


「どういう人達なんだ?」

「簡単に言うと、道楽で冒険者をやっているような人がリーダをしてる」

「道楽?」

「商家の息子なんだけど、当人は家を継ぎたくなくて冒険者家業をやっている」


 ふうん、商家の息子……とはいえ接触しても旨味はないかなあ。

 そんなことを思っていると、明らかにこちらへ近づいてくる気配。んー、メリスは助言したけど完全に手遅れだったようだ。


 振り向く。そこには数名の女性に囲まれ歩んでくる茶髪の男性が。

 装備そのものはずいぶんとしっかりしていて、見た目的には歴戦の戦士のように見える。ただ剣も鎧もピカピカで使っている様子がほとんどないので、単なるハリボテであることはそれなりに経験を積んでいる冒険者なら一目瞭然だろう。


「ずいぶんと好待遇だな、勇者サマは」


 ……個人的にはどういう理屈で俺に突っかかってくるのか興味あるなあ。


「えっと、どちらさま?」

「フーベル=ラクシャンって名前だ。そっちは色々と大変そうだな」


 大変そう、というのがイマイチ理解できないが……たぶん嫌味を言っているんだろう。


「フィス、行こう」

「大変、というのはどういう意味なのか教えてもらいたいな」


 メリスの言葉を俺は無視して問い掛けてみる。基本的にこういう人種と顔を突き合わせて話をするのはずいぶんと久しぶりだ。興味が不快感を完全に上回ってしまった。


「お前、勇者として魔王を倒そうとしているのは、父親の亡霊を拭いたいんだろ?」

「……亡霊、ねえ」

「俺も同じだからわかる。父親の勇者としての偉業というのがついて回る。だから必死でそれを打ち消すために頑張っているんだろ?」


 ……道楽、と言っているけど彼自身は父親の成功と比較されてひねくれた、みたいな感じで冒険者をやっているのかな?

 で、親の威光が強ければ当然親と比較してどうか、みたいな評価がついて回るのは事実だけど……なんというか、俺確実に父親の能力超えてるからなあ。実績も普通に魔王を狩っていれば十中八九上回るだろうし、そうならないと目的も達成できないし。


 よってそんな考えもないしダメージも一切ないんだけど……フーベルは「頑張れよ」と嫌味っぽく言って立ち去った。

 俺のことを聞いてムカついたからちょっと干渉してきたのかな……ふむ、


「メリス、ラクシャンって家柄はすごいのか?」

「この国で三本の指に入るくらいの商家だけど」

「へえ、そうか」


 何か使えるかもしれないな……そんなことを思いながら、俺はテントへ戻ることにした。


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