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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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手を組む者

 俺達はまず、ここに来た経緯から話すことにする。といっても俺とメリスがどうやって出会ったのかについてから話さなければいけなかったため、当然話はやや長くなってしまった。


 そして一通り説明し終えると、アイーダは一言。


「メリスは以前から無茶やっていたけど、前回の戦いはさらに輪を掛けて無茶していたのねえ」


 心配そうな彼女の声。それを見て俺は一つ言及。


「アイーダとメリスはどういう関係なんだ?」

「仲間よ。冒険者仲間――」

「当人が勝手に言っているだけ」


 ピシャリとメリスが言う。そこでアイーダの方は小さく舌を出した。


「こういう感じだから、友人もできないまま一人で活動していたのよね。私がいなかったらギルドで完全に孤立していたのよ」

「必要ないもの」


 言いながらメリスは水を飲む。俺とは一応師弟関係的なものを結んではいるけど、こういうケースは大層珍しいようだ。


 転生しているので元魔族であることはバレないとは思うし、その辺りが原因ではないだろうけど……彼女としては単独で魔王を討てる力を手にしたいわけで――なおかつ自分が無謀なことをしていることを自覚しているから、あんまり他者と関わらないようにしている……と好意的な見方がてきなくもないけど、実際は人間に対しあまり良い感情を抱いていないことも関係しているのだろう。


 この辺りは仕方がないのかもしれないが――ふむ、待てよ。

 メリスは傍から見たら危ういような立ち位置ではある。俺が魔王であることを告げたら、人間という存在に強い敵対心を抱くことも十分考えられる。


 その辺りを是正する必要があるわけだが……良いのは人間と関わって彼らのことをわかってもらうことだろうか。

 今回どうやら人間達の関わることになるだろうし、色々とやってもいいかもしれないな……などと考えていると、アイーダは苦笑する。


「終始こんな雰囲気だから、正直メリスが人と手を組んでいることに少しビックリしたわ」

「まあ手を組むというより俺が請われて指導しているという言い方が正解なんだけどな」


 こちらの言及にオルバは「なるほど」と声を上げ、


「強くなるため、ってわけだな。そこは初志貫徹ってところか」


 最初からメリスはこんな調子らしい。これじゃあ友人もできないよな。


「そうだ、もし迷惑じゃなかったら一緒に組まないか?」


 するとオルバはこんな提案をする。そこでメリスは難しい顔を示し、


「二人が……? 言っておくけど――」

「ああ、わかってる。足手まといになるような人間はいらない、だろ?」


 ニヤリとした顔つきでオルバは応じる。この感じからすると足手まとい云々はメリスの口癖だったのかもしれない。


「こっちは迷宮に関する情報も多少は持っているし、少しは役立てると思うんだよな。場合によっては見捨ててもいい。俺達だって危険な場所に足を踏み入れることはわかっているし、死の覚悟はきちんとしてる」

「ま、有り体言えば二人と手を組めばお宝に辿り着きそうだと思ったのよ」


 これはアイーダの意見。迷宮に潜る以上は成果が欲しい。そこで俺達と一緒に潜ればその可能性が上がるというわけだ。

 その答えは間違っていない。魔王ガルアスを討つ気で俺達は迷宮に入るわけだが、今の俺とメリスなら撃破そのものはそう難しくないだろう。できれば魔王から情報を手に入れたいが、そこは状況によってやり方も変わってしまうし、厳しいかもしれないが。


 ともあれ、魔王に倒せる能力を保有していることは事実だし、お宝にたどり着ける可能性は高い……勝ち馬に乗りたい二人としては渡りに舟といったところか。

 ただメリスはものすごい不服そうな顔をしている。それがあまりに露骨でこちらが苦笑するほどである。これは苦労しそうだな。


 で、俺としては……まあ人が増えてもやることは変わりないし、ギルド内で仲間を作ることもメリットはあるかもしれない。


「ああ、俺は構わないよ」


 そう答えた瞬間、何を言い出すのかとメリスは俺を見て、


「フィス、どうして――」

「迷宮に関する情報が欲しいのは事実だ。今回は迷宮攻略……ただ魔王と戦うだけじゃないし、人員が多いに越したことはない」

「話がわかるわね」


 アイーダは満足げな笑み。そして手を差し出してきたのでこちらは応じて握手をした。

 一方で思わぬ結果になったか半ば呆然となるメリス。ともあれ指導を受けている者が決定したことなので彼女も同意する他なく……新たな仲間が加わることとなった。






 夜、俺は一人宿を抜け出して宿の近くにある茂みに向かう。そこでマーシャの分身と落ち合うことになっていた。

 基本連絡はメリスがやっているのだが、俺が依頼した情報については当然こちらに話をしてもらわなければならないため、定期的な連絡をするようお願いしたのだ。


 所定の場所へ行くとマーシャの分身が待っていた。


「お疲れ」

「お疲れ様です、陛下」

「……二人で話をする場合、やっぱり敬語なんだな」

「当然です」


 もう何も言うまい……俺は肩を落とし、


「とりあえず報告。状況は?」

「陛下に指示された地方に関しては異常などありません。むしろ大陸の中でも平和な場所ですが」

「平和なら平和でいいよ。俺の推論が単なる勘違いで終わるだけの話だから」

「そうですか……魔王ガルアスについてですが、現在は迷宮内にいて多数来る人間達を迎え撃とうとしているみたいですね」

「やっぱり国が動いているのか?」

「そのようです」


 魔帝ロウハルドの戦いに触発されたのかなあ。


「うーん、単純に迷宮へ潜り込んで魔王を倒す、って形にはならないみたいだな」

「国側の面々に干渉しますか?」

「どうしよう……俺やメリスの名を使えば色々と話ができないわけじゃないけど、面倒事を招き寄せる可能性も高いよな」


 さてどうすべきか……と少々考えた後、


「ま、いいや。出たとこ勝負でいこう」

「陛下がそれでいいというのなら、それで構いませんが……」

「マーシャ、何か言いたいことがあるなら言ってくれ」

「いえ、ありません。陛下のご決断は絶対です」


 全肯定されるのもどうなんだろうな……まあいいや。


「ところでマーシャ、同胞と連絡はとれたか?」

「はい。モルラド様と連絡がとれましたよ」


 ああ、彼か……城内でご意見番などと言われた参謀的な役割を担う魔族だった。年齢的にも城内にいた魔族の中で一番上……俺を除けば。


「一度話し合おうということになりました」

「そうか。くれぐれも俺のことは話すなよ」

「ええ、わかっております……ところで陛下」

「どうした?」

「武具探しをしているという名目もありますが、聖剣を手にしようとしているのですか?」


 その質問に俺は肩をすくめ、


「使えるかどうかは不明だけど、どちらにせよ別の人に譲るんじゃないかな」

「譲る、ですか?」

「国が関与していると聞いて、一つ思いついたこともある。それが成功するかどうかは迷宮探索次第だけど、その方が俺としても得になりそうな気がしたからな」


 具体的な方法は訊いてこない。問われれば答えるつもりだったのだが、深追いする気はないようだ。

 そんな彼女に対し、俺は一つ明言した。


「金銀財宝が眠る以上、俺が欲する剣があるかもしれないけど、聖剣は別の人間に渡そうかとは思う。ま、どうなるかは報告を楽しみにしていてくれ」


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