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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章

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魔帝を滅する者

 魔帝ロウハルドを撃破した後、俺は山を駆け抜け森の中を突っ切って野営地まで戻り、テントの中で待機することにした。どうやら寝ている仕掛けは誰も気付かなかったらしく、俺が戻ってもテント内はそのままだった。


「さて、ここからだな」


 俺は一つ呟く。これまでの方針では「ロウハルドを俺が倒した」と名乗り上げてさらなる名声を……とやるべきところだったのだが、さすがにここまでやると神族からも「相当な力を持つ者」として警戒されそうだし、さらに言えばロウハルドを復活させた存在が何者なのかを確認するまでは、少しばかり自重しようと考えた。


 なぜか――俺が名を思い浮かべたヴァルトという存在。そいつは俺の前世であった魔王ヴィルデアルと因縁がある。こうして勇者として活動していると知ったら、たぶん俺を滅するために大陸を無茶苦茶にし始めるだろう。俺は長い間あいつの邪悪な企みを阻止し続けたから、そのくらい恨みを買っているのだ。


 転生したなんて思いもしないだろうから気付く可能性は低い……のだが、前世で部下だったメリスとかと顔を合わせてしまったし、その関係で俺のことを調べるかもしれない。その上で俺が凄まじい功績を上げている事実を知ったら……それでも疑う可能性は低いと思うが、念のためだ。


 魔王アスセードを倒した実績についてはもうどうしようもないが、魔帝ロウハルドの部下を倒した、といったくらいならまあ大丈夫だろう。今後、こちら側で調査をして問題がないか確認したいところではあるけれど。

 そして今回の戦いについてどうまとめるか――色々思案していると、テントにアレシアがやってきた。


「フィス殿、起きていたか」

「ああ。何か騒動があったみたいだが――」

「フィス殿が、やったんだな?」


 主語のない問い掛けだったが、何を訊きたいのかは理解できた。

 で、彼女の横にはメリスが立っている。二人は俺のことを見据え、言葉を待つ構え。


 それに対し俺は、


「いや、俺はテントの中で寝ていたけど――」

「誤魔化す必要はない。ロウハルドの気配がほんのわずかだがフィス殿の周辺に漂っている。戦闘の余波だろう」


 え、本当か? 俺は確認しようとして……はたと気付く。

 この反応をした時点で、自分がやったと肯定しているぞ。


「……やはりフィス殿か」


 しかもカマを掛けられたらしい。俺は黙ったまま頭をかくと、アレシアは小さく息をつき、


「あなたは、何者なんだ?」

「勇者エルトの息子だよ」

「それにしてはあまりにも規格外だぞ……息子であることは事実なのかもしれないが」


 さすがに魔王から転生したとは言えないからなあ。俺はどうしたものかと少し悩んだ後、口を開く。


「……例えばの話だけど」

「ああ」

「ロウハルドを倒せるほどの実力者……警戒とかしないのか?」

「ヤツと違って大地に干渉して発動する魔法とか通用するだろうから、もし裏切っても対処できるぞ」


 ……俺、ロウハルドと似たようなことできるんだけどなあ。まあ魔王の知識を利用して戦っていることは把握していないのだから、対処できると考えて当然か。

 ま、それならそれでいいや。警戒される危険性が減るし。


「ふーん、そっか。で、頼みがあるんだが」

「主神に会わせて欲しいという話か?」

「それとは違うよ。今回の魔帝ロウハルドの討伐……配下の魔王二体を含め、全部神族が倒したことにして欲しい」


 ――さすがにそんな要求だとは思わなかったため、アレシアとメリスは目を見開いて驚いた。


「俺は最近活動し始めた単なる冒険者だ。勇者の息子という肩書きは持っているけど、今回ロウハルドを倒したことについては勇者の息子という肩書きを差し引いても重すぎるだろう。ここまでの功績を短期間で上げれば、当然国々の中でも警戒する者も出てくる」

「それを防ぐために、今回の戦いを神族の功績にすると?」

「そうだ。俺は現時点で魔王を一体倒したことで結構名声は得ている。今はそれで十分だ」


 もし今後、魔王と戦うことになったら……上手くやるとしよう。


「ロウハルドについては、激闘の結果消耗し自滅したとでも説明すればいいし、レドゥーラとザガオンについては戦いを見ていたのは俺とメリス、そしてアレシアとその部下だけだ。口外しないようにするのは簡単だろ?」

「……上司には報告しているが、その辺りはなんとかなるだろう」

「ならそれで頼むよ。神族側としても体裁の確保はできるしいいだろ?」

「そこまで考えてもらわなくとも結構だが……報酬は何かあるか? 要望があれば可能な限り聞こう」

「俺が倒したことを主神に近い誰かに報告してくれればいいよ。それなら俺が主神に会える可能性が少しは高くなるだろ?」


 こちらの意見にアレシアは押し黙り……やがて、頷いた。


「わかった。ならば上司にはそう報告しよう」

「ありがとう。あ、ロウハルドの件についてはできるだけ内密にした方がいいと思うぞ」

「そうだな……では報告へ向かうとしよう」


 外が何やらバタバタとしている中、アレシアは去って行く。そして残された俺とメリス。

 やがて、彼女はポツリと呟く。


「……正直、意味不明だよ」

「意味不明?」

「元々目立とうとしていたんでしょ? なのになぜ急に――」

「色々と考えた結果だよ。さて、戦いも終わったしこれからのことを考えないといけないな」


 その言葉にメリスもまた呆れたように視線を返してきた。


「これからのことって……具体的にはどうするの?」

「今回の戦いで色々と課題も見えてきたからな。それを解消しながら、さらに魔王を倒していく」


 ……そうした中で、ヴァルトが本当に裏で手を引いているのかを確かめる。

 するとメリスは小さく息を吐き、


「その状況でまだ強くなろうとしているのか……」

「当然だろ。俺の目的のためには強さはどれだけあっても足りないくらいだからな」

「……何をしようとしているの?」

「それは秘密ってことにしておいてくれ。あ、けど人間に敵対するような話じゃないさ」


 そう、これは事実である。ちょっと人間達の考えとは意に反するけど、危害を加えるわけではない。

 そうした言動に対し、メリスは多少なりとも興味を抱いた様子。ただそれには言及せず、


「魔王を討つ旅は続けるの?」

「そうだな」

「なら……指導を含め、私もそれについていってもいい?」


 問い掛け。それに俺は「いいよ」と返事をした。






 翌朝、神族達が調査をしてロウハルドが滅んだことを確認。戦いが終わり神族達は本拠へ戻ることとなった。


「フィス殿、主神の件については話しておくから、心配はしないでくれ」


 別れる際になり、アレシアは俺にそう告げた。

 彼女もまた他の神族と共に一度本拠へ帰ることとなり……野営地となった場所で、俺達は別れることとなった。


「もし主神と話ができるようになったのなら……あなたがどこにいるのかは調べればわかるだろう。神族が直接赴いて連絡させてもらう」

「それはありがたい」

「ところで二人はどうするんだ?」


 問いに俺はメリスを指差し、


「ひとまず彼女の本拠へ行くことになった。友人がいて紹介もしたいと」


 早朝、メリスは俺にそう提案した……たぶんメリスは昨夜友人のマーシャと話をして彼女が「会ってみたい」と言ったのだろう。俺としても一度マーシャと顔を合わせておこうと思ったので、好都合だ。

 彼女なら、魔王に関する情報や、有用な武具なども知っているかもしれない……そういうことで、メリスの本拠へ行くことを決めた。


「そうか……二人の旅の無事を祈っている」

「アレシアも体に気をつけて」

「お元気で」

「ああ、二人ともありがとう」


 そうして、俺達は別れる。神族達が去る姿を見送り、


「それじゃあ、俺達も行くとしようか」

「うん」


 ――魔王との戦いはまだまだ続く。そしてどうやらこの戦い、一筋縄ではいかないところもありそうだ。

 そうした中で俺はどうすべきなのか……思考しながら、俺はメリスと共に魔帝がいた山を離れることとなった。


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