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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章

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魔王化

 ここまで俺の一方的な展開であったが、ロウハルドは怒りにより奮起し、迎え撃つ準備を整えた。

 とはいえ先ほどの拳以上の攻撃が使えるのか? さっきの攻防で俺は腕や足を切断すると同時にロウハルドの内側に持つ魔力も相殺した。総量に対しどれほどか明瞭ではないけど、結構な量を消したはずだ。


 その状況下で再生能力を行使した以上、相当消耗しているはずだが――


「ここまで圧倒するほどだ。状況は理解していることだろう」


 思考している間に、ロウハルドが口を開いた。


「貴様の剣戟、あれには魔力をも消す効果が含まれていた。なるほどもし再生能力を持っていても魔力を消せばそれすらできなくなる……良いやり方だ」


 言いながらロウハルドはさらに魔力を練り上げる。ふむ、まだまだ温存しているのか。


「とはいえ、だ。私には無尽蔵とも呼べる圧倒的な力がある」

「単に復活して以降、力を蓄えていただけの話だろ?」


 こちらが淡々と語るとロウハルドは笑いながらも魔力を膨らませ、それを体にまとう。


「今度こそ終わりにしようか――小僧」


 地を蹴る。そして一瞬の内に俺の眼前へと到達したロウハルドは間髪入れずに拳を振るう。

 けれど俺はそれに反応。拳に剣が触れた瞬間再び乾いた音が生じ、ロウハルドの突きが止まる。


「魔力の相殺。それもまた異質な技術だが――」


 さらに放たれる拳。けれど俺は容赦なく剣を盾にしてそれを防ぐ。


 ――この技法は力で破れるものじゃない上に、こっちの魔力が途切れるまで能力が切れることはない。ただあくまで剣先に効果を集中させているだけだから、もし拳が体に直撃したら……ダメージは防げるけど吹き飛ばされるな。下手すると山一つ分くらいは。

 ここに戻ってくるのが面倒だからそれは避けたいし、何より今のコイツを野放しにしたら何をするかわからない……よって俺はどうするか考えなければならない。


 どうやら無尽蔵とも言える魔力によってレドゥーラに用いたような再生封じは通用しない。よって選択肢としては相手の魔力が枯渇するのを待つか、それこそ再生すらまともにできなくなるほど体に剣を叩き込むか。ただ後者の場合は微妙だな。魔力がある限り再生するなら、それこそ粉々にしても復活しそうだ。

 ならば魔力を消失させる方法……といっても暴食の異名に恥じないほど魔力を喰った目の前の敵の魔力を減らすにはどうすればいいか。普通なら長期戦になるところだよな。


 考える間にも剣と拳の攻防が続く。ここまでボコボコにされているロウハルドだが、その顔には笑み。策があるというより、いずれ突破できる……そんな考えを抱いている様子。

 なおかつ戦いが長引けば神族が様子を見に来るかもしれない……そうなると面倒だな。もしかするとロウハルドはそれが狙いなのかもしれない。


 で、神族達も山の様子がおかしいということでどうするか協議している。このまま悠長に戦闘を続けていればこっちへ来るかもしれない。うん、その前に決着をつけよう。


 ならばどういう手法で魔力を消失させるのか……出すしかなさそうだな――俺の切り札を。


 何度目かわからない相手の拳を剣で防ぐ。そうした中でロウハルドの力はさらに高まっている。

 それを打ち崩すために……俺はまず静かに――気取られないように魔力を体の内で高め始めた。その間も攻防は続くが、こちらは程なくして準備を完了する。


 普通の人間がこういう切り札を運用する場合、時間を稼ぐために仲間とかが協力するのかもしれないが、あいにく俺は一人で魔帝を相手にしながら準備ができる……と、さらに強烈な攻撃を放ったロウハルドの攻撃を弾いた瞬間、準備が完了した。

 どうするのか――別に見た目の変化はない。内に溜めた魔力を、体にまとえばいい。


 もっとも、正面にいるロウハルドにはそれがどういうものなのか気付いてしまうだろうけど――そう考えた矢先、俺は力を発動させる。

 直後、変化が起きた。猛攻を仕掛けていたロウハルドの拳が、止まる。


「……な」


 呻く。次いで俺が見返し、相手は顔を強ばらせた。


「どういう感想を抱いた?」


 訊いてみると、ロウハルドは言葉を絞り出すように、


「……お前は、人間なのか?」


 そう尋ねるのも無理はないな。今の俺は前世である魔王の力をまとっているのだから。

 名をつけるなら『魔王化』といったところだろうか? 長い時を生きていた俺が魔王の力を再現したもので、どれほどのものかは魔物を喰い続けたロウハルドを震撼させるほどみたいだ。


 ただ、彼にとって残念なお知らせが一つある。


「人間だよ……けどこれで驚いてもらっても困る」


 こちらは肩をすくめ、


「出力は半分くらいだぞ、これ」


 言うや否や剣を振る。これまでとは比べものにならない速度の剣閃。ロウハルドも反応が遅れ、こちらへ振りかざそうとしていた右腕を両断する。

 慌てて後退し始める魔帝。俺は即座に追随して先ほどと動揺左足を斬った。バランスを崩す間に今度は胸を一突き。声を張り上げながら彼は倒れ伏す。


「悪いな、派手さがなくて。例えば大地から噴き上がる炎に灼かれてとか、空から大量に降ってくる光を浴びてとか、そういうすごい魔法にやられた方が様になるんだろうけど」


 笑いながら俺はロウハルドの目の前へ。刹那、彼の体から魔力が漏れ、空へと上昇していく。魔力を相殺したことに加え先ほどの攻撃で体の方が限界を迎えたらしい。さらに言えば周囲に充満していた彼の魔力も霧散した。


「俺の、力が……」


 喰って得た魔力を残らず噴出したか。あくまで魔力を得てそれを利用しているだけだから、本質的にコイツ自身の魔力じゃないんだよな。

 もし魔力を本当の意味で我が物としていたら……結末は変わらないか。全力で切り刻んで魔力を喪失させればいいだけの話だし。


 そして彼は、再生もできず俺を見てただ顔を引きつらせる。


「……今の攻撃で、魔力も底についたか?」


 言いながら剣の切っ先を彼の眼前へ。先ほどと同じような状況。


「せめて死に方くらいは選ばせてやるが、何がいい?」

「ま、待て……」


 恐怖が浮かぶ。それもそうだろう。何せこいつは一度復活した……つまり滅ぶということがどういうことなのかをよく理解している。


「自分が消えゆく感覚は、耐えがたいものがあるよな」


 ビクリとロウハルドは震える。俺も経験があるからわからないでもない。

 もっとも、俺の場合は……自身の居城にいた時、覚悟はできていた。自分が倒れなければ部下もまた滅ぶという考えがあったから、滅びを受け入れることができた……あとはまあ、長く生きたしそろそろいーかななどと思ったりもした。


 ロウハルドの場合はさすがに死を受け入れることは無理か。まあ仕方がないよな。


「……返答がないから、自由にやらせてもらうぞ」


 左手をかざし魔法を発動する。直後、地面から光が溢れ、ロウハルドの身を包んだ。


「何をする気だ……!」

「前に現れ暴れたことを含め色々と犠牲も出たからな。その報いは受けろ」


 直後、光の内側で悲鳴が聞こえた。光の中では無数の刃がロウハルドの身を切り刻んでいることだろう。

 そこで俺は息をつき……ヴァルトという名を思い出し、天を仰ぐ。


「あいつの仕業なのかは不明だが、どうもこの魔王騒動には裏があるみたいだな。さて、どうするか」


 呟く間に魔法が終わる。そこに、ロウハルドの姿はなかった。


「滅んだか……神族達は野営地に留まっているみたいだし、普通に戻れば全て終了だな」


 結論を述べ、俺は元来た道を引き返す。勝利の余韻はなく、ただ荒涼とした風が吹いていた。


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