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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章

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決戦の結果

「指導はしてもいいよ。俺も動機は違えどやろうとしていることは一緒だから、共に旅をして中で技を伝えるのはいい。でも、約束してほしいことがある」


 こちらの言及にメリスは小首を傾げ、


「何?」

「その復讐が終わったらどうするか。それを考えて欲しい。今はまだ見つけられないと思うけど、復讐を果たすまでにそれを見つけておく。それが教える条件だ」


 復讐という理由で戦い続けた存在は、それを果たしたらどこへ向かって行くのか。ある者は自らも命を絶ち、あるものは抜け殻のようになった。

 もちろんそうでない者もいる。けれどメリスの場合はどうだろう。俺の名を利用していた自称魔王を全て倒したら……何が残るのだろう。


 俺のように魔族達を集めてどうこうするなどという選択肢は絶対にないような気がする。では、彼女の行く先は――


「……わかった」


 素直に頷くメリス。ひとまず今はこれで十分かと思い、


「指導についてはいつからやる? この戦いが終わって町に戻ってから?」

「それがいい……具体的に何を教えてもらえるの?」

「メリスの考えによっても変わるよ。今回の戦いを通して自分に何が必要が……それを改めて考えてみれば答えは出るさ」


 その指摘にメリスは生真面目に「わかった」と応じた。

 ……彼女の友人であるマーシャとも話をしないといけないかもな。彼女の方もメリスについてどう考えているのか。その辺りも調べておこう。


 メリス達に対する算段を立てている間に、いよいよ野営の準備ができた。


「では、休むとしよう……ここで戦勝報告を待つ」


 アレシアは言いながら山を見上げる。そこでまたも爆発音めいたものが響く。

 戦いはまだ続いている様子。果たして結末は……俺もまた彼女と同じように山を見上げ、小さく息をつくこととなった。






 神族達が本腰を入れる戦い。相手は過去に辛酸をなめた魔帝ロウハルドではあるが、今回は相手に備え準備も万端だろう。神族が全力になればこの世界で倒せない者はいない……人間は誰しもそう思うはずだ。


 けれど――この戦いの結末は、予想を裏切るものとなる。


 夕刻、野営地で見守っていると山を下りてくる神族の姿が見えた。アレシア達はそれを迎えたのだが、様子がおかしい。戦いによりボロボロになっているのは理解できる。そして、


「……敗走、した?」


 アレシアが呆然と呟く――そう、神族達はロウハルドと戦い、負けたのだ。


「ああ……あれは何と形容すればいいかわからない、恐ろしい存在となった……」


 体を震わせ戦いに赴いた神族は語る……戦いの結果は圧倒的なものだったらしい。


「戦術としては周囲に魔法陣を展開し総攻撃を仕掛け、そこからさらに接近戦で圧倒する……だが、魔法陣を構築することすらできなかった」


 ――対策は立てていなかったか。


 魔帝ロウハルドは……というより、ロウハルドを含めた古くから伝説的に語られていた魔王については、ある特殊な技法を用いて魔法陣などの構築を妨げることができる。

 神族側はその対策をしていなかった……と思った矢先、神族はさらに語った。


「過去のロウハルドの戦いでも同じような状況に陥ったらしい……しかしこちらはその対策を講じた上で戦った」

「しかし、失敗したと?」

「そうだ……間違いなくヤツは、以前我ら神族と遭遇した時よりも、遙かに強くなっている」


 強くなった結果、対策が機能しなかったというわけか。


 ふむ、神族なりにロウハルドへ色々策を要したが、それが無意味になるほど相手は強くなっている……そういった感じか。


「では、これからどうする?」


 アレシアが問うと、神族は重々しい表情で、


「一度態勢を整え、再び攻撃を行う。配下が敗れ、ロウハルドとしても様子をみたいだろうからな」


 ……いや、もしかすると打って出るかもしれないと俺は内心思う。アレシアもどうやら同意見のようで、


「あえて外に出る可能性は? 神族の攻撃が効かないことを理解したなら、障害はいないとして山を下りる可能性もあるだろう?」

「そうかもしれないが……手勢を失っている状況で侵攻するかどうかは疑問だな」


 ……双方ともあくまで仮定の話をしているわけだが、俺はアレシアの懸念が正解だと思う。神族すら圧倒できる以上、隠れて活動する意味もない。

 ロウハルドが何を目指しているのかは不明だが、以前暴れていた時は人間の国々を蹂躙した。それを踏まえれば同じ事を繰り返す可能性は高い。野放しにしておけばどうなるか……。


「今は退いて作戦を立て直すしかない。問題は準備にどれだけ掛かるかだが……」


 魔帝と戦うこと自体リベンジだったわけだし、入念な準備をしてきたはずだ。一度敗れた相手である以上、確実に打倒するための用意をしてきたはず。けれどそれが通用しない。そればかりか根本的に勝ち目がなかった。となればまったく違う戦術を構築しなければならないわけで、神族であっても果たしてどれだけの歳月が必要になるのか。


 その間におそらくロウハルドは国々を蹂躙するだろう――それは防がなければならない。


「ともかく今日は様子を見る。既に本軍が敗れたことは報告してあるため、上層部が対応策を練ってくるだろう」


 神族は最後に語ると、部下達へ指示を出す。一方で俺は山を見上げどうするかと考える。

 ロウハルドは現在動いていないみたいだが……神族達を圧倒したといっても、さすがに向こうだって結構な魔力などを消費したはず。一日くらいは相手も休むだろうか。


 つまり、戦うのなら今が好機でもある……俺はロウハルドについて知っている情報を頭の中で巡らせる。それにより導き出した結論は――


「……ともかく、一両日中は観察しないとまずそうだな」


 俺が呟くとアレシアやメリスは頷く。彼女達からすれば事態が混迷を始め、どうすべきなのか悩むところだろう。

 それは神族達も同じであり、右往左往してもおかしくない。けれど彼らはアレシアなどの指示によって、どうにか落ち着き命令に従い行動している。


 そうした中で俺は決断する……このままロウハルドを放っておくわけにはいかない。つまりできるだけ短期間にヤツを倒す必要性が出てくる。現在なら多少なりとも疲弊しているはず。それを逃さない手はない。

 ただ、これについてアレシアやメリスに話せば絶対に止められるだろう。いかに俺が強くとも相手は神族の部隊を打ち破った相手。さすがに「それは無理だ」と言われて終わりに違いない。


 ならば、どうするか……俺は少し思案した後、決断。それと同時、アレシアが口を開いた。


「ひとまず体を休めよう。フィス殿もさすがに疲労しているだろう。見張りはこちらに任せ、休息をとってくれ」

「ああ、わかった」


 俺は素直に頷き、設営されたテントへ入る。

 止められることがわかっている以上、さすがに今から単独でロウハルドの所へ向かうとは言えない。ならば――勝手に行くしかない。


 ただ野営地周辺で見つかったら面倒だし、密かに山へ向かうしかないな。こうなるとロウハルドの観戦者がいなくなるわけで、俺が倒したというのが伝わらないかもしれないけど。


「いや……その方がいいかもしれないな」


 俺は一つ、とある考えが浮かんでいた。この戦い……もしかすると、裏があるかもしれない。

 それを解明するためには、目的のために目立つばかりではなく、色々と戦略を立てなければいけないかもしれない。


 そんな風に考える間に時は過ぎていく――山の方では変化もなく、やがて夜を迎えることとなった。


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