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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章

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相殺の剣

 俺が攻撃をあっさりと防いだことで、魔王レドゥーラの目つきが鋭くなった。

 そしてすかさず拳を放つ。だがそれを俺は先ほどと同様剣で受け、威力を殺す。


 途端、止まる拳と目を細める魔王。それを見て俺は冷淡に、


「始めようか」


 言葉を発すると共に拳を払いのけ、一閃する。レドゥーラは回避に移ったが避けきれず、俺の剣がわずかに腕を掠めた。

 それにより腕の一部分に亀裂が走る。ほんの少し当たっただけなのに、斬れている――相手が目を見開くのを俺は見逃さなかった。


 こちらは前進し距離を詰めるとさらに一撃。今度は腹部。まともに相手は食らい苦しそうな声を上げた。

 再生能力を持つとはいえ、痛みもあるので本当なら攻撃はあまり食らいたくないところだろう……と、レドゥーラはここで後退をやめ踏みとどまる。


 そして俺がさらなる剣戟を繰り出す前に拳に魔力を込めた。渾身の一撃であり、アレシアやメリスではまともに食らえば無事では済まないだろう。

 だがこちらはやり方を一切変えなかった。剣を盾にして防ぎ、拳と激突した瞬間、さっきと同じように破裂音が響いて拳の魔力が相殺される。


「……何者だ、貴様は」


 呻くように問うレドゥーラ。それに俺は何も答えないまま、拳を弾き胸部へ薙ぐ。


 刃はまともに入り、またも苦痛に歪む魔王の顔。筋肉の鎧自体は金属をも上回る硬度のはずだが、俺の剣を防ぐことができていない……どうにかして防ぎたいところだと思うが、これに対処するためにはただ魔力を強化するだけでは無意味だ。


 先ほどレドゥーラに宣言した通り、俺は魔王の魔力を分析した。魔王アスセードにしてみたものと同じであり、対処するには魔力の質そのものを変えるしかない。

 けれどレドゥーラにはそれができない――どうやら現代の自称魔王達は力のみを追求して、魔力そのものに対し研究なんかもしていないらしい。過去には自分の魔力を解析して自分だけのオリジナル魔法とか開発したのもいたんだが……そこまでやる魔王はいないってことなのか?


 ともあれ、目の前の相手なら俺は傷を負うことなく倒せる……さらに迫りレドゥーラの体を刻んでいく。対する相手は執拗に攻め続ける俺に対しどうやら恐怖を感じ始めたか、顔が引きつっていく。

 よしよしと満足な俺。ずいぶんと嫌味な性格だと自分でも思うが、こいつは散々暴れたんだ。このくらいの報いは受けてもらおう。


「ぐ、お……!」


 レドゥーラは声を上げながらどう応じるか思案している様子。ならば思考させる暇も与えないようにしようかと俺は間合いを詰める――と、相手は逃げても無駄だと悟ったか、表情を戻した。


「舐めるなよ……!」


 ここで奮起。恐怖を頭の隅へ追いやり俺に対抗しようとする。拳に魔力を集め反撃に転じようと動いた。

 そこへ俺は容赦なく斬撃を叩き込んだ。刃は腕に入り、一気に振り抜くと……肘から先を両断する。


「が、ああああああっ!」


 声を張り上げ叫ぶレドゥーラ。ただ戦意はまだ失っていない。その証明に俺のことを恨みにらみつけている。


「貴様……!」


 両断された右腕が発光を始める。再生能力を活用するのだろうと思い、俺は肩の部分に一太刀入れた。撫でる程度の威力で、レドゥーラとしては牽制か何かだと思ったかもしれないが……次の瞬間、光が消える。


「な……!?」

「再生能力というのは結局のところ、魔力によって行われる」


 そこで俺は解説を行った。


「言ってみれば魔法が自動的に作用して傷などを治すのが再生能力だ。つまり、それを封じるためには魔力の流れを止めればいい」


 その言葉でレドゥーラも理解したらしい。俺の剣戟により、腕の再生ができなくなったのだと。


 続けざまに放ったこちらの刃を、レドゥーラはどうにか見切ってかわした。俺の攻撃を受けたら再生すらできなくなるのだ。その反応は当然。

 ちなみに俺の攻撃に対して打開策はあるし再生能力が封じられた場合の備えもできたはずだが、彼は用意していなかった。まだまだ精進が足りなかったといったところか。


 レドゥーラは自分が窮地に立たされていることを理解し、引き下がろうとするが――逃がさん。

 俺はなおも肉薄し追撃を見舞う。レドゥーラは残る左腕で防ごうとしたが……その腕もまた、一撃で両断する。


 苦悶の声を上げながらどうにかして再生能力を起動させようとする。だが俺の能力によりそれが阻まれ、あまつさえバランスを崩して倒れ伏した。


「が、あ……」


 呻き、歩み寄る俺に対し顔を引きつらせる魔王。それを見て俺は笑みを浮かべると……レドゥーラは、唇を震わせ俺から視線を離せなくなった。

 俺は笑みを見せているはずだが、彼にはどう映っているのだろうか……そこで剣に炎をまとわせる。これも通常魔法とは異なり多少アレンジを加えてある。


 おそらくレドゥーラの力ならば普通の炎を消すことは容易い。けれどこれは特別製……魔力に反応し燃える炎。健全な状態ならば魔力で弾くこともできるが、動揺した彼が防ぐことは、無理だろう。

 剣を振る。それと同時に着火。炎が、レドゥーラの全身を撫でていく。


「あ、が……! ま、待て……!」

「お前は負けたんだ。その報いは受けろ」


 自分でも驚くほど冷酷な声音だった……もしかすると俺は自分で思っている以上に、自らの前世だった魔王ヴィルデアルの名を利用した存在を嫌っているのかもしれない。

 そしてレドゥーラは咆哮を上げる。それは断末魔であり、自らが焼き尽くされる苦痛をどうにか誤魔化そうとしているのだ。


 それを見ながら俺は内心溜飲を下げ……やがて声を途切れ、魔王レドゥーラは消し炭となり、この世から消滅した。


「倒したが、ここからが問題だな」


 俺は一つ呟いてから振り返る。そこにはレドゥーラとの戦いで消耗したアレシアとメリスの姿が。


「……元気なら、このまま山に入って魔王ザガオンとも戦うよな?」

「消耗するのはわかりきっていたため、一応準備はしてきた」


 そう言いながらアレシアは部下に指示を送る。すると彼女に小瓶を差し出した。


「魔力回復薬……それも神族が使う特注品だ。即効性もあるためすぐに魔力を回復し、次の戦いに赴ける」

「便利な薬もあるんだな」

「ただし制約があって、一度飲んだら丸一日以上は置かなければならない……私達の残る役目はザガオン討伐だ。遠慮なく使わせてもらおう」


 アレシアはそう呟くと俺とメリスに薬を渡し、自分は小瓶を開けて飲んだ。メリスもまた同調。神族の薬ではあったが、飲み干した。

 こちらは薬を受け取ったがひとまず飲まずに懐に収めておく。現時点では余裕もあるし、いざという時に備えて持っておこう。


 そしてアレシアは薬を飲みきると一度息をつき、


「……次はザガオンだ。とはいえレドゥーラが倒れた現状を考えると、どう出るのか」

「レドゥーラとどれだけ連携していたか。あるいは関係性があったかで決まるな」


 俺はアレシアの言葉にそう答えた。


「例えば友人関係であったなら復讐のために襲い掛かってくるなんて可能性もあるが、単なる同僚でいがみ合う仲だったら死んでざまあみろという感じだろうし……レドゥーラの言動からこちらの可能性が高いし、敵討ちという名目で強襲してくることはなさそうだ」

「さすがに戦いの行く末は観察しているだろう。警戒されたかもしれないな」

「だとするなら麓には出てこないだろうなう。どうする? 俺が山に入って状況を調べてみるか?」


 こちら提案に、アレシアは苦笑した。


「さすがに単独でそこまでやってもらおうとは思わないさ……そうだな、こちらも魔力は回復したし、山に入りザガオンと戦うことにしよう」


 方針は決まった。そうして……俺達は山へと入り込んだ。


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