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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章

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その魔王の能力

 まだ終わっていない――地面に倒れるレドゥーラから発せられた魔力の胎動は、それを直感させるに十分なものだった。


「攻撃!」


 即座にアレシアは部下に指示を出した。自身はさすがに先ほどの攻防で力を使い果たしたか、後退を始めた。

 メリスもまた一度退く。同時、神族達が一斉に魔法を放った。今度は味方を巻き込むこともないためか、炎、雷、光など……ありとあらゆる魔法が倒れるレドゥーラへと降り注ぎ、爆煙が舞い上がり魔王の姿が見えなくなる。


 やり過ぎではと思うほどの魔法が注ぎ込まれ、粉塵が空へと昇っていく……さすがにこれで――そう思った時、荒れ狂う砂埃の中で何かが動く気配を俺は察知した。


「あれだけ食らって生きているのか」

「まだ終わっていないか……」


 アレシアは呟きながら息をつき、


「ではどうするか……魔法を当て続ければ倒せるのか?」

「私が」


 そこで前に立ったのは、メリスだった。


「私がどうにかする」

「メリスさん……?」


 アレシアが名を呼んだ直後、メリスの魔力が一気に高まる。別人になったのかと思うほどの変容……それが目の前で一瞬の間に行われた。

 これがマーシャと話していた切り札か。どうやらアレシアと同様魔力による身体強化だが、例えば魔法陣といった工夫ではない。言わばこれは、内なる魔力を解放しその全てを戦いに注ぐような技法。


 ――人には大なり小なり肉体の中に魔力が存在し、仮にそれが尽きたら動けなくなるくらいの疲労感に襲われる。急速に魔力が抜けると気絶することもあり、最悪の場合ショック死するというケースすら存在する。

 普通、他者が故意に魔力を奪うような真似をしなければそのようなことは起こらない。なぜなら自発的にそこまで魔力を吸い上げようとしても体が無意識のうちに抑えるからだ。これ以上無理をすると倒れると体が判断すればそれ以上の魔力消費はしない。そういう風に体はできている。


 けれどどうやらメリスの技法はその限界まで絞り出す……いや、それだけじゃない。糸のように細くした魔力を束ね、それを編み体に巻き付けるようにしている……ただ表面を覆うようにするよりも強化度合いが上がる技法。その二つで、通常よりも遙かに高い能力を得ている。

 とはいえマーシャが心配するのもわかる。無茶な技法であることは確かで、乱用すれば体の方にもダメージがいくだろうな。


 やがて煙が晴れ、レドゥーラがその姿を現す。見た目は変わっていないが魔法により衣服が大きく損傷。そして表情は怒りに満ちていた。


「よくやったと言うべきか……しかしもう終わりだ」

「いいえ、あなたが終わる」


 メリスが冷淡に返した直後、魔王は獣のように襲い掛かってくる。俺は対抗しようと剣を構えようとした矢先、メリスは前に出てレドゥーラに応じた。

 その動きは疾風という表現が似合うもの。だが相手も反応し拳を振りかざす。直後、アレシアの時と同様に剣と拳ぶつかり合う。


 再び鳴り響く金属音。それは恐ろしいほど鈍い音で、次の瞬間メリスが吹き飛ばされる光景が映ってもおかしくないと感じられるものだった。

 けれど、彼女は耐えた――そればかりか、受けてなお押し返そうとする。


「お前達は一体……!」


 アレシアに加えメリスにまで押し込まれる状況。力自慢の魔王は二度も負けるという事実に驚愕し、また怒りを隠しきれない様子。

 そして憤怒したからといって状況は一切変わらず、彼女の剣がレドゥーラの拳を弾き飛ばし、追撃の剣戟が脳天から魔王の体に叩き込まれる――


「が、あ……!」


 声を上げどうにか踏みとどまろうとするレドゥーラ。しかし追い打ちの横薙ぎによって、それはもろくも崩れ去った。

 結果、その体が吹き飛ばされる。地面に打ち付けられると跳ね、土煙を巻き上げながら地面を転がっていく。


 そうして……動かなくなったレドゥーラを見て、アレシアは一つ言及した。


「ずいぶんと、体を酷使する技法だな」


 彼女もまたどういう性質の技術なのか気付いたらしい。けれどメリスはにこやかに、


「命を賭して戦わなければならない相手……でしょ?」

「確かに。負ければ死が確定する以上は、それこそ身を削ってでも勝たなければならないのは事実だが……あまり無理はしない方がいい」


 そう語るアレシアだが、こちらも相当負担が掛かったかずいぶんと疲労している様子。魔王レドゥーラは撃破したものの、大きく疲弊した。まだ魔王ザガオンがいることを踏まえれば、アレシアとしてはあまり良い結果とは言えないかもしれない。

 ここでザガオンが現れたら、こちらが応じるか……唯一余力が残っている俺がそう提案しようとした、その時、


 ドクン、と再び魔力が鳴動。それは倒れているレドゥーラからのもの。


「……馬鹿な」


 神族の誰かが呟いた。まさかまだ立てるのかと……全員が信じられない面持ちで魔王を見据える。

 そして、彼はゆっくりと起き上がった。


「見事な攻撃だったが、もう俺に抗う力は残っていないようだな」


 喜悦の笑み。状況から勝利を確信したためか、その顔に怒りはなかった。


「惜しかったな。確かに死んでもおかしくない攻撃……しかし今ひとつ届かなかった」

「――再生能力、だな」


 俺が呟く。それにアレシアは眉をひそめ、


「再生だと?」

「純粋に身体能力を強化するだけじゃなく、ロウハルドから再生能力を渡されている。危機に陥れば能力が発動するよう魔法を体に仕込まれているんだろう」

「その通り。即死していればさすがに無理だったが、そこまで追い込むことはできなかったわけだ」


 悠然と語るレドゥーラ。ふむ、そういうことなら――


 俺は一歩前に出る。真打ち登場とか思うわけではないが、最終的に俺がトドメを刺す役割のようだ。


「最後に残ったのは貴様か。俺の精鋭を瞬殺できる以上、それなりの使い手みたいだが……さすがにそこの二人のような力を出すのは難しかろう?」

「どうかな」


 肩をすくめながら散歩するくらいの雰囲気で進む。一方でレドゥーラは訝しげな目を見せた。俺がまったく警戒する素振りを見せていないので、策ありと怪しんでいるのだろう。


「勝てると思っているのか?」


 その問い掛けを俺は無視。代わりに少しばかり剣に魔力を注ぐ。

 見た目的に強くなった感じがしないのでレドゥーラが怪しむのも理解できる。ちなみに俺の場合は魔力を外にできるだけ出さないよう……目立たないよう力を込める訓練をしているので、能力がバレないようできるだけである。


「……まあいい。さっさと平らげるとするか」


 魔王は思い直したか、足を一歩踏み出す。こちらを威圧するつもりなのかズウンと地響きを生じさせるくらいの勢い。

 そしてさらなる一歩で俺を間合いに入れる。拳を放ち、狙いは頭部。そこに乗った魔力量はアレシア達が見せた全力に引けを取らないものだった。


 けれど俺は、剣をかざし拳と激突する。力はそれほど入れていない。

 次の瞬間――パアンという乾いた音が生じた。


 起こったのはそれだけ。拳は剣を砕くことはできず、剣の腹で止められる。


「……な」

「簡単な話だよ」


 俺は魔王の目を見ながら答える。


「あんたの魔力について、体の中でどう動いているのかは分析した。その量と質を見極め剣に魔力を注いだ。結果、勢いと魔力を相殺し、止まったわけだ」


 レドゥーラは戸惑った様子。理解できなかったのかもしれない。

 ただ一つだけ認識したらしい――目の前にいる俺は、後方にいる者達とは違う。


 それと同時、俺は膨れあがる殺気を隠すことなく、呟いた。


「それじゃあ終わりにするか――絶望の中で、消えてもらおう」


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