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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章

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力と力

 魔王レドゥーラに対し先に仕掛けたのはアレシア。高めた魔力と伴い放ったのは真っ直ぐな剣戟。それを相手は小手で受けようとして――


「ほう、なるほど」


 呟き、それと同時にレドゥーラは回避を選択。アレシアの剣は空を切る。


「受けるとまずいと判断したか?」


 アレシアは問いながら追いすがる。表情は不敵な笑み……アスセードとは違い、勝機があると踏んでいるのだろう。

 メリスと同様、おそらく彼女も力を持つ魔王に対抗するべく策を巡らせた。その結果が目の前の状況。この力で果たして魔王を討ち果たすことができるのか。


 踏み込み、さらなる攻撃。今度は避けきれず、レドゥーラは防御に転じた。

 そして腕に入る刃。途端、バキッと音を立てて小手が壊れた。


 このまま腕を持って行くことができれば決着が一気に早まる――そこでメリスが横からレドゥーラへと切りかかった。

 その全身に魔力をまとっている……過剰と言えるほどで、どう見ても限界間際まで高めており、なるほどこの手法は彼女の友人であるマーシャが危惧するはずだと思う。


 アレシアの強化は限界を見極めて高めているもののようだが、メリスのそれは自分の限界を半ば無視したような手法に見える。しかし動きの鋭さはまったく変わらない。鍛錬を積み重ね、この技法に耐えられるだけの体と技術を体得したのは明白――全ては魔王を討つために。

 これはさすがにレドゥーラも逃れる術がないだろう。俺は三体目の金属ゴーレムを撃破しながら注視する。この攻防の結末は――


「さすが、と言っておこうか」


 刹那、レドゥーラが声を発し魔力も高まった。全身から濃い気配が生じ、メリス達の剣に対抗する。

 するとまずアレシアの剣の動きが鈍くなった。腕に到達したはずの刃がそこから動かず、さらにメリスが横腹を狙って放った剣戟は一瞬で金属を砕いたが、そこから先に進まない。


「一つ勘違いしているようから、教えてやろう」


 俺が四体目と交戦した直後、レドゥーラは告げた。


「この鎧は俺を守るためではない。俺の力を抑え込むために用意した、拘束具だ」


 メリス達の刃を弾く。力に押されて後退を余儀なくされた二人。そして高まる魔王の力。

 二人の攻撃によって鎧が砕ける。下は単なる衣服なのだが、その下にあるだろう筋肉から、凄まじい魔力が漏れる。


 ……まさかの、筋肉が本当の鎧というパターンか。俺は四体目のゴーレムを倒した後、砕けた鎧を見た。その裏側には何やら紋様が施されている。レドゥーラ自身が語った通り、力を封じる役割があるのだろう。

 その証拠に、皮膚まで到達したはずのメリス達の刃に対する傷は一切ない。硬度は金属よりも上ってことか。


「鎧そのものはそれなりに高価でもったいなかったが、そちらの全力に免じて許してやろう。さあ、この状況下でどうする?」


 両手を広げ、怪しく笑うレドゥーラ。アレシア達はどうするのか。


 逆に力をいなす方向でいくという可能性も考えられるけど……やらなそうだな。両者とも真っ向から叩きつぶしたいという考えが、ゴーレムを倒している俺からもはっきりわかる。

 なんというか、実力で倒したいというのがわかるけど、そこまでこだわる必要があるのだろうか……。


 レドゥーラの問い掛けに対し、いち早く反応したのはアレシア。真っ直ぐ一切小細工なしに突撃していく様を、魔王は蛮勇だと思ったかもしれない。

 相手は真正面から受けるべく拳を放つ。激突する両者。結果は――アレシアが吹き飛んだ!


 彼女の剣だって相当な威力のはずだが、対抗できなかった。それはつまりレドゥーラの力がずっと上だという証明になる。

 ふむ、こいつの能力は魔帝ロウハルドに近いかもしれないな。純粋な力……それに対抗する神族と勇者。ある意味ロウハルドとの戦い前の予行演習的な感じになりそうか? まあ神族本隊が頑張ってくれると思うので、意味はないかもしれないけど。


「なかなかやるじゃないか」


 対するアレシアの反応は感嘆の声。表情は笑みのままで、まだやる気に満ちている。


「余裕があるような表情をしているが、果たして対抗手段があるのか?」


 レドゥーラの問いにアレシアは何も答えないまま、剣に力を集める。また力押し……と思ったが、今回は少し様子が違っていた。


「神族の力を教えてやろう」


 突撃。一方でメリスはアレシアの行動を邪魔するつもりがないのか動かない。

 完全な一騎打ちというわけだが、果たしてどうなる。


「はははは! 結局突っ込むしか能がないのか!」


 レドゥーラは嘲笑するように声を上げ、両腕を交差させ防御の構えをとる。次いで両者が激突する。

 圧倒的な力同士の激突。ここまでの戦いを踏まえるとアレシアは分が悪い……はずだったが、今度は大きく違っていた。


「何……!?」


 レドゥーラの顔に初めてヒビが入る。徐々にではあるが、アレシアが押し始めている。


「力こそが絶対……お前の主であるロウハルドはそう考えているだろうし、お前もまたそう確信しているのだろう」


 彼女が一歩足を踏み出す。なおかつ魔王の腕に徐々にではあるが刃が入り込んでいく。


「それに対抗するには……こちらも神族の全力で応じよう。アスセードとの戦いでは後れを取ったが今回は違うぞ」


 俺は最後のゴーレムを倒しながらアレシアを見据える。全身に魔力……それは間違いないが、そこに仕掛けが施されている。事前に準備していたのだろう。

 どうやら腕や足などの各部位に魔法陣が刻まれている……魔法陣には色々な用途があるけれど、その中に魔力を封じておくという手法が存在する。おそらく彼女は今、仕込んでいた魔法陣を全起動させ、瞬間的ではあるがレドゥーラの力を上回るほどの力を生み出している。


 これならいけるか――そう心の中で呟いた矢先、とうとうアレシアが魔王の腕を弾き飛ばす。


「ぐう……!」


 まさか自分が力負けする――そんな姿は想像していなかったか、表情が険しくなる魔王。そしてアレシアは懐へ潜り込み、一閃する。

 勢いそのままに放った剣は、レドゥーラの体を斜めに切り裂く。出血などはしなかったが、


「がああっ!」


 苦悶の声を発した。そこへ間髪入れずにアレシアは連続で剣を叩き込む!

 それはまるで――舞いでも踊るかのような優雅さと、魔王を滅するという強い意志を伴う勇敢さが現れていた。対する魔王は一太刀受けるごとに顔を歪ませ、それでも回避や反撃ができるわけもなく――ただ受け続けるしかない。


「ま、待て……!」


 レドゥーラが何かを言う。だが当然アレシアはそれを無視し、さらに魔力を発する。彼女を中心に生じた魔力は、まるで竜巻を起こすかのような凄まじい勢いを持ったものだった。

 決めに掛かるつもりだと直感した瞬間、アレシアは魔王の脳天へ、刃を振り下ろした。


「が――」


 呻き声。そしてアレシアの周囲から魔力が途切れ、魔王は……倒れ伏した。


「……ふう」


 息をつく彼女。まさしく今のは彼女の全身全霊だったのだろう。そして彼女の部下が残っていたゴーレムを全て片付け、戦いが終わる。


「……凄まじい力」


 ポツリとメリスが呟いた。それにアレシアはほのかな笑みを浮かべ、


「アスセードとの戦いとは異なり準備はしてきた。相当負担を伴うが、怪力自慢の魔王に対抗できたというのは、大きい――」


 そこまで言った時だった。倒れるレドゥーラの体からドクン、と一度大気を震わせるほどの魔力が生じた。


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