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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第一章
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魔王の転生

 ――やがて、俺の視界に光が現れる。完全に意識を手放し、死んだはずだ……魔王である以上は天国へ行けるわけでもないだろう。そもそも死後の世界があるのかどうか知らないが……ともかく、不思議なことに生きているらしい。


 とはいえ目の前は光でぼやけ視界はほとんど効かない。寝ていることだけはわかるのだが、すぐに意識を手放しまた気付けば目の前が光に満ちている。

 さらに言えば、体を動かすこともできない……が、やがて自分の状況が理解できてきた。


 どうやら俺は、人間に転生したらしい。


 人が死んで生まれ変わる、という話は聞いたことがある。実際記憶を保有している者と出会ったこともあるし、そうしたことが起こりえるのは知っていた。


 しかし、魔王であった俺が……という気持ちもあり、最初は戸惑った。次に考えたのは部下がどうなったのかなど、自分ではなく他者のこと……だが赤ん坊であるためか状況がわからない上に意識が途切れ途切れということから、あまり深く物事を考えることもできないし、今は自分のことを優先するしかなさそうだ。


 そして一つ思う。他の人間がやる転生とは違う気もしてくる……そもそもなぜ俺は記憶が残っている? 転生した者の記憶は断片的なものであり、今の俺のように前世について完璧に近い記憶を保有している者はいなかったはずだ。


 そういった考えが浮かんでは意識が飛び、浮かんでは飛び……それを幾度となく繰り返していた時、ふいに誰かに抱きかかえられた。もしかするとこれまでそうやって抱かれたことがあるのかもしれなかったが、あいにく途切れ途切れの意識ではわからなかったようだ。


 抱かれたということは、その相手は当然親なのだろう……そんなことを考えていた時、


「フィス、帰ってきたぞ」


 名前……俺の名はフィスというらしい。


 それと同時に親の顔が見える。視力が定まったのはようやく物が見えるようになったのか、それとも自分が意識したからなのか。

 焦点が定まり、相手の顔が見える。綺麗な金髪を持った男性で、


 その顔立ちを見て、思わず息を止めてしまった。

 目の前に現れたのは……魔王であった俺に剣を突き立てた、勇者その人だった。


 息を止めた後に思わず声を上げた。けれどそれはきちんとした言葉にはならず、さらに勇者は泣いたと思ったらしく、


「あ、わ、と……ど、どうしよう」

「はいはい、大丈夫よ」


 そこへ新たな女性の声。母親であるのは間違いなく、次に見えたのは青い髪を持った長髪の女性だった。

 綺麗だとは思う。けれど印象的に高貴ではなく素朴という表現の似合う女性で、さらに二人の出で立ちは村や町に暮らす人々と何ら変わりがない。


 母親が俺をかかえあやすように抱き揺らす間に考える。勇者……魔王である俺を倒した彼なら、恩賞などで城や大きな屋敷で暮らしていてもおかしくないだろうに……。

 しかし転生して記憶を保有しているだけでは飽き足らず、自分を滅ぼした勇者の息子……これはどういう因果なのか。仮に人の運命を決める神がいたら、俺に何をさせる気なのか。


 母親は俺が沈黙したと思ったか抱くのを止めてベッド……ゆりかごへ下ろす。そうして俺はまた意識が途切れそうになる……ともあれまずは状況を確認しよう。そう心の中で決めた後、俺の意識は沈んだ。






 およそ半年経過した時、俺はようやく自分の状況を理解した。


 まず勇者……父親の名はエルト=レフジェル。母親の名はミーゼ。漏れ聞く会話からこの場所はエルトの故郷であり、ミーゼは彼の幼馴染みといった間柄らしい。

 どうやら勇者は名声ではなく、故郷に戻ったらしい。場所は大陸でも南西部の端に位置し、山に囲まれたフォーゼン王国。小国であり目立った資源もないが、穏やかに時が流れる良い国だと魔王の時に把握している。


 現時点でわかるのはそこまで。父親は勇者として戦っていたことを赤ん坊である俺に話すことはないし、夫婦でそうしたことが話題に上ることもない。とはいえ勇者であった事実を隠しているわけでもない。この家を訪れる者の中には勇者として活動していた際に出会った人物も混ざっているようで、父親のことを「勇者エルト」と呼ぶ者がいた。


 彼は英雄として得られる物を手放し、自身の故郷に戻ったということなのか……その理由についてはいずれ訊くことができるかもしれないので、ひとまず置いておこう。あと子供の意識の中に魔王がいるという事実は……さすがに話せないし、信用してもらうこともできないだろう。少々複雑な気分ではあるが、秘密にしておくしかなさそうだ。


 そして次に思い立ったこととしては部下について。果たして無事だろうか。現時点では確かめようもないが……指示に従っているのなら、メリスを始め人間と戦うようなことはせず活動している……と思う。

 次に俺自身どうするべきか。こうして新たな生を得たのだ、何か意味のあることを……と思って最初に浮かんだのは、魔王としての俺が消える原因となった魔族達だ。


 まず人間達に恨みはない。彼らは魔族に対する脅威に怯え、戦っていただけだ。そして俺は同胞達を救っていたわけだが……この俺の名を利用して悪さをする魔族が出始めた。人間達が動いたのもそいつらのせいだ。


 その結果が勇者エルトとの戦いである……うん、そうだな。部下達が無事であるかどうかを確かめ、場合によってはもう一度彼らに住む場所を与える……人間に転生した以上はやり方を変えなければいけないと思うが、これはこれで面白い。


 そして、俺の名を利用して暴れ回った魔族に鉄槌を……ふふふ……ふふふふふ……。


「っ……!?」


 内心で暗い笑みを浮かべていると近くにいた母親がビクリとなって俺を見た。赤ん坊でも殺気は出るらしい。

 ひとまず気配を収めて……さて、問題は目的を成すための強さを得られるかどうかだな。


 今の俺は人間である以上、その力の量も限界がある……とはいえ別に悲観的なわけではない。魔王として活動してきたことにより知識だけはある。人間であっても強くなれる方法はある。

 まずは知識を利用して、自分の能力を高める……どこまでできるかわからないが、やりがいはありそうだ。勇者の息子ということで、何かしら恩恵だってあるかもしれない。


 まさか魔王としての生を終えて一からスタートになるとは思わなかったが……そして最終的には俺を滅した者達に制裁を……ふふふふ。


 ここでまた母親がビクッとなった。殺気については意識して隠さないと駄目そうだな。

 そういうわけで、赤ん坊ながら俺は強さを得るべく活動を始めることにした。


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